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『未来の職業図鑑』新しい社会を創造する仕事とは?|前編

2020.9.25
『未来の職業図鑑』新しい社会を創造する仕事とは?|前編

既存の産業で新しくチャレンジする人、新領域を創出する人、あるいは自らの関心を追求しそれが職業になった人。社会の流れをつぶさにとらえ自らの職をアップデートし続ける18組が登場!

選・文=鈴木絵美里
1981年生まれ。編集者。「今回は、自分が文化や地域に関する案件に数多くかかわる中で出会った、とっておきの“いま、肩書きと動きが気になる人”に話をうかがいました」

ミッションは水産業のアップデート。全国の漁師とともに働くヤフー社員
次世代漁師集団

「新3K」=「カッコよくて」「稼げて」「革新的」な産業として、三陸の海から日本の水産業を盛り上げることをミッションに掲げるフィッシャーマン・ジャパン。子ども向け漁業体験で地元の海を知る。

ヤフー社員であり宮城県石巻市勤務、また同時に「フィッシャーマン・ジャパン」の事務局長でもある長谷川さん。東日本大震災当時から公私ともに復興支援にかかわり、2012年にヤフー石巻ベースを設立。以来数々のプロジェクトを推進してきた彼は現在、震災前から深刻化していた漁業の人材不足という課題を三陸の漁師集団とともに解決すべく事業を本格化させている。「いろいろなものの中間に立つのがいまの自分の役割。ヤフーの社員であることを武器に全国の海の課題を把握し、アップデートしていくために動いています」。漁業を目指す人材のマッチングや、漁師の仕事に関する学びの場づくり、活動のPR、オリジナルプロダクト開発、レストランやメディアの運営など活動は多岐にわたる。

「どこにいても仕事が可能になるのを夢見てインターネットの会社に入ったんでした」と笑って話す。海上にいることもしばしば。

石巻での出会いから活動を開始

ワカメ漁師の阿部勝太さんとの出会いから日本の漁業が直面する課題を知り、水産業でともに事業を起こすに至った。

IT社員と海の男をかけもち

長谷川琢也(はせがわ・たくや)
1977年3月11日生まれ。「ヤフオク!」担当時に東日本大震災があり個人でボランティアとして石巻へ。ヤフー社員としても数々の支援プロジェクトを企画後、現在はフィッシャーマン・ジャパン事務局長

活動開始(設立)年|2014年(フィッシャーマン・ジャパン)
活動本拠地|宮城県石巻市
資金調達方法|現在は三陸のみならず、全国の漁業のコンサルティングや、飲食店プロデュース、メディア『Gyoppy!』の運営もスタート
転職経験|あり(前職はITベンチャー企業のエンジニア)
複業|なし
年収|秘密
好きな言葉|「あいうえお」で生きる

デザインで目に見えない生物たちの営みを可視化する
発酵デザイナー

現在、47都道府県の発酵食品を体験できる展示会「発酵ツーリズム」を準備中。日本全国の発酵や醸造家の現場を自らの足で文字通り飛び回っている。こちらはインパクト大な八丁味噌の樽

もともとはアートディレクターの仕事をしていた小倉さん。人間の暮らしと密接にかかわる微生物への興味を深めるべく大学の研究生となった頃から、本業であるデザインと発酵を掛け合わせた依頼が増加。たどり着いたのがいまの肩書きだ。世間での発酵への注目度が高まる昨今、“デザイン”で小倉さんが提示するものの幅も広い。「発酵に限らず “多くの人が気づいていない変化にいち早く気づき、それを可視化していくこと”が自分の仕事のテーマ。土地の固有性が強いものや、マイノリティ的な専門知をもっている人と、より幅広くコラボレーションをしていきたい」。一方で、今後は微生物学者を目指すための研究も深める予定とのことで、広めることと深めることを往来する彼の行動はしばらく続く。

絵本・アニメワークショップでできています

小倉さんが暮らす山梨県で交流を深めた五味醤油とともにプロデュースした「てまえみそのうた」。歌って踊って味噌づくりを楽しめる。

知見を得るのが楽しく、麹づくりワークショップを月6回ほど開催していた頃。カビなども含め、有機化学の学びを深めた。

発酵醸造と微生物への愛がブレない軸

小倉ヒラク(オグラ・ヒラク)
1983年生まれ。見えない発酵菌たちの働きを、デザインを通して見えるようにすべく、発酵や醸造、微生物の研究に勤しみつつ、ワークショップや広告デザイン等のプロジェクトを実施。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)

活動開始(設立)年|2014年
活動本拠地|山梨県
資金調達方法|クラウドファンディングほか
転職経験|あり(アートディレクター・ゲストハウス運営など)
複業|なし
年収|売上高は1200〜1800万円くらいだが、大半経費で使ってしまう。いわゆるサラリーマン的な年収だとほぼ、ゼロ。
好きな言葉|人生に意味は求めなくていい

新しい小売り、持続可能なものづくりの在り方をデニムから探る
デニム兄弟

いまのところ店舗はなく、キャラバンでの「移動型販売」に挑戦するためのクラウドファンディングではなんと770万円以上を集めたふたり。現在、1カ月ごとに日本各地のエリアを回っている真っ最中

兵庫県出身の兄弟が2014年に岡山で立ち上げたデニムブランド「EVERY DENIM」。弟の舜介さんが岡山へ進学。かねてより興味のあったジーンズ工場へ見学に行ったことで、ものづくりの現場では自分たちの世代にできることが大いにあると確信。兄の耀平さんも誘いに乗り、大学在学中に生産現場の魅力を伝えるための情報発信をスタートさせた。しかし、生産者と使い手がより直接的にかかわり合うには新たなブランドが必要と考え、1年後には商品開発に着手。現在まですでに4種の商品を発表している。彼らのバックグラウンドは服飾ではない。しかし自分たちの伝えるべきことを考え抜きかたちにし、周りの意見を取り込む流れをつくり出す。この判断と行動の速度も兄弟ブランドの魅力だ。

「工場の人は、こいつらこんなに人連れてくるのかと驚いています(笑)」自分たちが味わった感動を広めるべく工場ツアーも積極的に行う。

つくる側と 着る側の接点 としての小売

目指すのはつくり手に会いたくなるような小売りの在り方。オンラインサロンでは着る側の意見を取り入れた新商品の開発も行う。

瀬戸内発!二十代兄弟の新しいデニム

山脇耀平(やまわき・ようへい)/島田舜介(しまだ・しゅんすけ)
兄弟いずれも大学在学中、21歳・19歳で「EVERY DE
NIM」をスタート。顔の見える関係性を産地とつくり手の間につくることを目標に現在は店舗をもたずキャラバンで全国を回りながらデニムプロダクトに磨きをかける

活動開始(設立)年|2014年
活動本拠地|岡山県
拠点場所|岡山・東京
資金調達方法|クラウドファンディング、オンラインサロン
転職経験|なし(兄弟ともに学生時代に「EVERY DENIM」を起業)
複業|なし
年収|非公開
好きな言葉|いまを見つめ、前を向き、一歩踏み出す

服飾にとどまらずジャンルレスに新たなプロダクトを生み出すデザイナー
スキンシリーズデザイナー

Skin series ATLAS, 2018 ©SOMA DESIGN Photo: Sinya Keita (ROLLUP Studio.)
Model: James Vu Anh Pham
2018年collectionより。スキンシリーズはダンサーとのコラボレーションも増えている

廣川さんのブランド「SOMARTA」の無縫製ニット「スキンシリーズ」はマドンナやレディ・ガガといった名だたる存在がステージで着用したことでも注目されMoMAにも収蔵された。彼女が生み出すプロダクトの様式は、常に我々の常識を塗り替えていく。服飾をメインの領域としつつ、この先のファッションデザイナーという仕事の在り方をも模索し続けるからこそ、彼女には独立当初より複数の大手メーカーからミラノサローネ出展の誘いなどもかかり続ける。「物事は役割により分類され境界線があるが、それをもう少し広い範囲で見ることでいままでに見えなかったものが見えてくるのではないか」そう話す彼女の世界では、伝統も最新もアナログもデジタルも、すべてが自由に流動し続けている。

既存ジャンルより広範囲な視座で捉える

廣川玉枝(ひろかわ・たまえ)
イッセイミヤケを経て2006年より「SOMA DESIGN」設立。同時に立ち上げたファッションブランド「SOMA
RTA」ではデジタルプログラミングを活用し高密度に編まれた無縫製ニット「スキンシリーズ」を継続的に発表

活動開始(設立)年|2006年(『SOMA DESIGN』設立)
活動本拠地|東京都
資金調達方法|ブランド立ち上げから自己資金で行う。外部からの資金調達はなし
転職経験|あり(前職は「イッセイミヤケ」のニットデザイナー)
複業|なし
年収|非公開
好きな言葉|為せば成る

地域の資源を循環させて、東京に依存しない経済・産業をつくる
林業家

SNSでも素材生産業の現場を発信
大型の林業機械で枝払い、採寸といった作業に日々取り組む。製材用途以外の残材も搬出することで豪雨での被害が減らせる。地元の消防団として町を守る松田さんならではの防災意識の高さが伺える。

松田さんが林業を営む岩手県住田町は町面積の約90%を森林が占めており常に山林整備が必須。かつては高齢化した林業の未来が危ぶまれることもあったが近年は再生可能エネルギー固定価格買取制度もスタートし木質バイオマスの価値が上がり、山地を整備して循環させる林業の未来は明るいという。林業や再生可能エネルギーに関しての取り組みが進むデンマークやドイツのスタンダードを知るため積極的に海外へも渡る松田さんは外国の効率的な機械を取り入れ、東京に依存せず地方から経済をダイナミックに回す。

右)松田 昇さん

松田 昇(まつだ・のぼる)
1976年生まれ。岩手県気仙郡住田町にある松田林業の3代目で現在は取締役。20歳の頃から家業を手伝いはじめる。林業が盛んな町で、町内の山林の管理も請け負い、日々山林の伐採と林業の循環化に励む

活動開始(設立)年|1997年(松田林業の創業は1960年)
活動本拠地|岩手県住田町
資金調達|林野庁の補助金で機械導入経験あり。基本的には松田林業の自己資金
転職経験|なし
複業|なし
年収|約700万円
好きな言葉|攻撃は最大の防御なり

自分の愛する書店を集め、遂に自らも書店を営みはじめた無類の書店好き
BOOKSHOP LOVER

書店のアンテナショップ
下北沢「BOOKSHOP TRAVELLER」は和氣さんが2018年8月から営業する書店。実は棚ごとに出店する本屋さんが異なり、書店旅をほんの少し体験できてしまうという仕掛けだ

いつか自分でも書店を開業したいと夢見つつ会社に勤めながら自らの書店愛をブログにつづる。徐々に書店界隈の知り合いも増え、会社で部署移動の予兆が見えたのを契機に退職を決意。ただし「会社は辞めてもいいが安定は大事」と事前に書評サイト運営等、ある程度仕事の保証を得てから独立した。2017年にはブログ発信の蓄積が功を奏し単著を出版、2018年からは下北沢でついに書店を営みはじめるに至る。「自分の興味がもてて、しかも意外と誰もやっていなさそうところを見つけて続けてきた結果が現在のかたちです」。

和氣正幸(わき・まさゆき)
1985年生まれ。本屋好きが高じ、会社員のかたわら2010年より「BOOKSHOP LOVER」としてブログ執筆を中心に活動をはじめ、2015年独立。著書に『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(ジー・ビー)等

活動開始(設立)年|2015年
活動本拠地|東京都世田谷区
資金調達方法|自己資金
転職経験|あり(前職は大手繊維メーカーにて総務)
複業|なし
年収|約450〜550万円
好きな言葉|状況は依然として最悪だがまあこんなものだ。諦めずに受け入れるそのさじ加減が難題。

ホテルの世界にも、特色と個性のあふれる新たな選択肢を生む
ホテルプロデューサー

北海道の「HOTEL KUMOI」は、かつて富良野で1軒目のペンションを手掛ける頃から知り合いだった高齢のオーナーより引き継いだ旅館をリノベーションし2018年4月に開業
ホテル業界未経験者を中心に採用。多様なバックグラウンドをもつメンバーととがった企画を打ち立てるのが龍崎さんのやり方だ

龍崎さんの「ホテルプロデューサー」という肩書きは、自身で考え、起業する前から自分の中では決まっていたものだそう。かつて小学生の頃に両親と車でアメリカを旅した際、宿泊するホテルの味わいが日々代わり映えせず不満を感じた。その体験が「いつか自分で特色のあるホテルをつくる」という夢へと彼女を駆り立てた。いろいろな人が来るからこそ、デザインやサービスが無難な「お決まり」のものになりやすかったホテルの場に、地域の空気感や時代のニーズに合わせた世界観を落とし込んでいく。そんな彼女のビジョンには、価値観の多様性あふれる時代の勢いが存分に感じられる。すでに手掛けているホテル・旅館についても、引き続きリニューアルなど積極的に行っていく予定だ。

ビジュアルイメージにもこだわります

一見するとアパレルブランドの広告、あるいはファッション雑誌のワンカットかのようなHOTEL SHE,OSAKAのメインビジュアル。

代表取締役である母とともに起業

龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ)
2015年大学1回生の頃、母とL&Gグローバルビジネスを立ち上げ北海道・富良野に「petit-hotel #MELON 富良野」を開業。「ソーシャルホテル」をコンセプトに現在5軒のホテルをプロデュースしている

活動開始(設立)年|2015年
活動本拠地|京都府
資金調達方法|非公開
転職経験|なし
複業|大学生
年収|非公開
好きな言葉|cultivate(耕す)

施工現場を開くことで、ものづくりの可能性が広がる
DIT設計施工

神戸市内で街の診療所だった場所をリノベーションし2017年夏に開業した「ゲストハウス萬家」。ワークショップに人が集まり過ぎるほどの熱狂が生まれ、クラプトンにとっても強烈な体験だったそう

神戸市内にあった友人の持ちビルを、色んな人を招きみんなでDIYをしてリノベーションすることを提案し、2014年頃にはじまったTEAMクラプトンの活動。デザイン費などをもらわず材料費と作業日の食事代のみを受け取る遊び的な活動だったが、出来上がったバーとシェアハウスを見た人から仕事として依頼を受け、遊びが徐々に仕事化していき、2017年頃からTEAMクラプトン専業になった。現在も掲げている「Do It Together」という、施主を中心とし、でき上がる過程をも楽しむ「みんなでつくる」スタイルは、遊び時代からいまも変わっていない。工務店的な仕事ではなく、いかに人工(にんく)という概念を拡張できるかが現在の彼らの興味となっている。

子どもも大人も入り混じり作業が進む

多数の柱が印象的なゲストハウスのラウンジ空間。たくさんの人が集まってくれたのであえて手間をかけるデザインのモチーフをつくった

チーム内の役割はさまざま

兵庫県神戸市内に工房を設け拠点としてきたクラプトンは、2018年より京都市内にも拠点をつくり、メンバー全員で共同生活を営む

TEAMクラプトン(チーム・クラプトン)
「みんなでつくろう」をモットーに活動する設計施工集団。「studio-L」で出会った山口晶、山口みどり、白石雄大の3人を中心に結成。現在のメンバーは5人。施主をはじめ周囲の人を巻き込みながら、店舗や教育施設、住宅のリノベーションやイベント設営を手掛ける

活動開始(設立)年|2014年
活動本拠地|京都、神戸、大阪
資金調達方法|自身でのクラウドファンディングなどは経験なし。「人がワークショップに集まること自体がクラウドファンディングのようなものです」と山口さん
転職経験|全員あり(建築事務所員、行政職員、家具職人、編集企画など)
複業|なし
年収|300〜500万円(1人あたり)
好きな言葉|地球を大事に社会を大事に家族を大事に

 

≫後編を読む

 
 

選・文=鈴木絵美里
2019年3月号『暮しが仕事。仕事が暮し。』


縄文型ビジネス最強説!ビジネス成功の秘訣は、縄文時代にあった。

≫「暮しが仕事。仕事が暮し。」の言葉をエピローグにかえて 河井寬次郎の言葉と生き方

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