「うつわ祥見」作り手と伝え手がうつわを届けたい理由
うつわ祥見のオーナーとして数々のうつわを見てきた「伝え手」の祥見知生さんと、40年以上にわたり陶芸家としてうつわをつくり続けてきた「作り手」の小野哲平さん。祥見さんが高知県の山あいにある集落で暮らす小野さんのもとを訪ね、「いま、なぜ都市で暮らす人々にうつわを届けたいのか」を語り合いました。
北海道生まれ。鎌倉を拠点に、2002年「うつわ祥見」をオープン。’09年「うつわ祥見onari NEAR」、’17年「うつわ祥見KAMAKURA」、’19年「うつわ祥見KAMAKURA concierge」をオープン。展示会企画開催のかたわら執筆にも励む。著書は『うつわを愛する』(河出書房新社)ほか
https://utsuwa-shoken.com
1958年、愛媛県生まれ。鯉江良二氏の弟子を経て、常滑にて独立。’84年より家族とともにタイ、ラオス、インド、ネパールなどを旅しながら暮らす。’85年常滑にて築窯。’98年高知県香美市に移住し、2001年に3年がかりで薪窯を完成させる
Instagram/@onoteppei
“人間が失ってきたもの”を
うつわに込めて届けたい
祥見知生さん(以下祥見) 「うつわ祥見」をオープンさせた2002年当時、すでに哲平さんは人気でしたね。面識がなかったので、青木亮さんにご紹介をお願いしたんです。青木さんには「キミもか! みんな哲平が好きなんだな」って苦笑いされました。
小野哲平さん(以下哲平) 青木さんとは、僕が鯉江良二さんの弟子だった20代からのつき合いでね。あの頃は、自分のつくったものを持ち寄って、ひと晩中やきもののことばかり語り合っていたものです。
祥見 当時のつくり手の間には、純粋にものに対峙して批評し合うような空気がありましたよね。
哲平 うつわだけじゃなくて音楽でも何でも同じだけれど、表現というのは自分の身体から出てくるものだから、偽ろうにも偽れない。そこに向き合う、ということをずっとしてきましたね。
祥見 つくり手の身体からわき上がってきた作品には「あれ、なんだろう?」って見る人を惹きつけるものがありますね。当時に比べたらいまは、誰かのまねのまねをしたような “それっぽいもの”が蔓延しているような気がしませんか? そういうものからは、何も伝わってこないんですよ。
哲平 何のために、どこに向かってつくっているのか、僕はいつも自分に問うていますね。
祥見 哲平さんは、昔からそうでした。
哲平 僕は、人が失ってしまったものをつくり直してうつわに込めたい、といつも思っているの。というのは、いまの世の中、誰もが人間として大切なことを、何かと引き換えに捨てながら生きているようなところがあるでしょう。僕もそう。みんなが薄々そこに気づきながら生きていますよね。そうして捨ててきたもの、“欠けてしまったピース”というのかな、それをうつわに込めることができるような気がしているんです。求めているピースを見出した人が、僕のうつわを手に取ってくれているんじゃないかな。
祥見 そういうこと、頭ではわからなくても、心が耕されていれば「ここには何かあるな」って感じ取れると思うんです。でも、心が耕されずに固いままだと、どんな物事も表面だけかすめて流れていってしまう。心を耕すにはたくさんのものに触れて「これはどこから来たんだろう?」とじっくり考えることですね。自分が使うものの素性をきちんと見る、というスタンスは大切です。
心に触れるカッコいいものを
自分の感覚で選んでほしい
祥見 3月6日から「Discover Japan Lab.」に哲平さんのうつわも並びますね。ギャラリーにはうつわ好きな人しか訪ねて来ませんが、渋谷PARCOでは通りすがりの人たち、特に若い人たちの目に触れるでしょう? 哲平さんのうつわがどのように受け入れられていくのか、興味深いですよね。
哲平 都市では効率が優先されて、土や火を使わなくて済む暮らしがつくられたわけですよね。でも僕たちの中には、本能的に土や火を求める気持ちもある。都会で暮らす若い人でも、僕のものを手に取るような子は、やっぱり「この生活、何か変だな」と感じているはずです。そういう子には、うつわが“生きている土”と“恐ろしい火”からつくられたものだということが伝わるような気がするんですよ。そこが伝わるような仕事をしてきたつもりだから、伝わったなって感じられたらうれしいね。
祥見 今回の展示には、湯のみや酒器のように“手で包めるもの”を中心にセレクトしました。自分の手でしっかり包むと、伝わってくるものがきっとあると思うんです。さらに、手の平に包めるもので、これだけ深い表情を見せてくれるものはめったにない、ということにも気づいてもらえるんじゃないかと思って。
哲平 若い人たちには気負わず、暮らしに取り入れてほしいと思っています。
祥見 うわべだけではなく長く愛せるものであって、選んだ自分を誇らしいと思えるもの。本当にカッコいいもの、強くて美しいものって、そういうものだと思うんです。そのカッコよさを、誰もが使う食べるための道具“うつわ”で手に入れてほしい。毎日使うものだからこそ、音楽やファッションと同じように、自分の感覚で選び取ってほしいと思うんです。
哲平 自分にとって本当にカッコいいものは、砂漠に転がっていたってわかるんですよ。理屈抜きで、心に触れて効ますから。
祥見 私もそう信じています。いつも空調のきいた建物の中にいて、生活の中で火を見ることがないような方でも、哲平さんのうつわに触れると、自分が立ち返らざるを得ない身体とか生命を感じてはっとするような気がするんです。そういう強さのあるもの、パンチのあるもので、たくさんの方を振り向かせたいですね。
文=棚澤明子 写真=大社優子 選・語り=祥見知生
2020年4月号 特集「いまあらためて知りたいニッポンの美」