岩手の新星《赤武酒造》
橘ケンチさん、中務裕太さんとともに
“みんなでつくる”新世代の酒に出合う旅。
岩手県の老舗酒蔵・赤武酒造は、東日本大震災で被災し、盛岡市に移転して9年前に酒造りを再開した〝復活蔵〟だ。その立役者であり、赤武酒造の歴史に新たな1ページを加えた若き6代目・古舘龍之介さんが醸す「AKABU」は、着実にファンを増やし、新世代の酒として注目を集めている。今回、独自の活動で日本酒の魅力を発信している橘ケンチさんと、ここ数年で日本酒に開眼し、赤武愛を公言してやまない中務裕太さんが現地を訪れた。二人の心に響いた古舘さんの想い、そして酒旅の魅力とは——。
〈若き杜氏と酒旅を愛する御二人〉
古舘 龍之介(ふるだて・りゅうのすけ)
赤武酒造6代目杜氏。東京農業大学醸造科在学中に利き酒全国大会の学生チャンピオンに輝く。卒業後、家業に入り22歳で杜氏に就任。新ブランド「AKABU」を立ち上げ、志をともにする仲間と、進化する酒造りに勤しむ
橘 ケンチ(たちばな・けんち)
EXILEのパフォーマーで、EXILE THE SECONDのリーダー兼パフォーマー。全国の実力派蔵元とのコラボレーション酒を展開するなど、日本酒の魅力を日々発信中。小誌にて連載「橘ケンチの今宵のSAKE」を担当
中務 裕太(なかつか・ゆうた)
GENERATIONS from EXILE TRIBEのパフォーマーで、EXPG STUDIOスーパーバイザーも務める。2019年10月、映画『HiGH&LOW THE WORST』にて初出演を果たすなど、俳優業にも挑戦し、活動の幅を広げている
新蔵だからできる「AKABU」の造り方
カリスマ性より全員の感性。
「おはようございます!」
田んぼが隣接する新しい蔵の前で、杜氏・古舘龍之介さんが笑顔で迎えてくれた。もともと赤武酒造は太平洋に面した岩手・大槌町(おおつちちょう)に根を下ろし、代表銘柄「浜娘(はまむすめ)」を醸していたが、古舘さんが在学中に東日本大震災で全壊。廃業が危ぶまれるも再開を望む声に押され、さまざまな助けを経て盛岡市に移転し復活した。その後、「浜娘」についたイメージは「復興支援酒」。
「多くの方々への感謝の気持ちの一方で、それだけじゃ駄目だという想いが強くありました。ちょうど蔵に戻ったタイミングということもあり、岩手を代表する新しい酒を造りたいという目標で、スタートしました」
在学中に利き酒大会の全国チャンピオンになり、当時の最先端の日本酒に数多く触れてはいたが、外での現場研修は数カ月、集った蔵人たちは未経験。文字通りゼロからのリスタートで生み出したのが「AKABU」だ。
「挑戦からのはじまりは、信念がないとできないこと。失敗を恐れずに飛び込む姿勢が素晴らしいと思います」と、物語を聞きながら同世代の中務裕太さんが真剣に耳を傾ける。
最初の数年は、ほとんどの作業を古舘さんが一人で担い、寝ずに没頭する日々も多かったが、酒質は安定しなかったという。
「あらためて足元を見つめ直し、メンバーに何をすべきか一つひとつ伝え、チームをつくり上げていきました」
その結束力は、造りの現場でエネルギッシュに働く蔵人たちに表れている。
「カリスマ的な杜氏がいて、絶対的な支持の下、蔵人とともに醸す酒蔵もある一方で、〝仲間〟を感じる一体感がすごく新鮮です」と橘ケンチさん。個からチームへ変貌していくのと時を同じくして「AKABU」の名が徐々に広がり、いまでは気鋭の銘柄として酒ラヴァーの支持を集めている。
当初から目指す酒は、きれいな酒質で米の旨みにあふれる「誰が飲んでも美味しい王道のお酒」。今後もその目標を追求し、あまり日本酒に触れてこなかった若い世代にもわかりやすく表現していきたいと古舘さんは力強く語る。
造りをじっくり見学し、地元の名店で酒席をともにした後、帰途の中でケンチさんが今回の旅を振り返る。
「現地でお酒と肴、そして人に触れてこそ、その地の文化や風土を深く知ることができる。そういった旅の醍醐味を痛感しました。古舘さんの信念には感じ入ることが多かったので、何か新しいアクションを共創したいです」。
AKABU 極上ノ斬 純米大吟醸
リンゴや洋梨を思わせる上品な吟醸香が漂い、柔らかな甘みを感じた後に、蜜のように溶け出す濃厚な旨みが口の中に広がる。キレのいい酸味の余韻が鮮烈。
価格|5500円/ 720㎖(箱付き)
原料米|岩手県産「結の香」
精米歩合|35%
日本酒度|非公開
酸度|非公開
アルコール度数|15度
読了ライン
赤武酒造
住所|岩手県盛岡市北飯岡1-8-60
Tel|019-681-8895
蔵見学|不可
生産量|非公開
創業年|1896年
www.akabu1.com
text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2023年1月号「酒と肴のほろ酔い旅へ」