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本とアートと、温泉と。生まれ変わった城崎温泉へ

2017.4.14
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本とアートと、温泉と。生まれ変わった城崎温泉へ

北は日本海、東は京都に面する兵庫県豊岡市の温泉街、城崎温泉。誰もが一度は耳にしたことのある、志賀直哉の短編『城の崎にて』の舞台です。但馬の豊かな山と海の幸が集う、古くから名高いこの温泉地は、志賀直哉をはじめ、多くの文化人たちが作品づくりのために訪れた地でもあります。

 

そんな城崎がいま、世界中から注目を集めるクリエイティブなエリアとして、進化しています。生まれ変わった文芸館や、アートセンターなど文化の発信地・城崎のいまを探ります。

東京からほんの2時間...!

都内から新幹線、電車を乗り継いで約6時間……。地上からのアクセスだと半日かかってしまう移動も、飛行機なら羽田空港から伊丹経由のJAL便で、たった2時間! 城崎へのアクセスは、断然飛行機が便利です。そして、伊丹空港からはこの可愛らしいプロペラ機でひとっ飛び。

 

窓の外の雪景色を眺めがら、コウノトリ但馬空港に到着です。空港からはJR城崎温泉駅前までのバスも運行しており、城崎温泉までは約40分。乗り換えなしに直行便があるのが嬉しいです。

多くの文豪が愛した温泉街へ

城崎温泉の歴史は古く、平安時代の書物にもその名が記録されるほど。 はるか1400年以上もの昔か ら日本人に親しまれてきた温泉は、 現在でも多くの観光客が訪れ、その歴史は変わらず紡がれています。

 

いまでは「城崎」 の名は日本だけではなく、世界にも広がりつつあり、改訂第版『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』では「城崎温泉」が「寄り道をして訪れるべき場所」を意味する2つ星を受賞。「城崎」は世界の“KINOSAKI”としても知られつつあります。

 

「温泉はよく澄んで湯治によく、 周囲の山々は緑で美しい。おいしい日本海の魚を毎日食膳に出し、 客を楽しませてくれる。人の心は温かく、木造作りの建物とよく調 和している。」(『鳥谷武一手記』) と志賀直哉も語るほど、魅力のつまった城崎の街。彼のほかにも有島武郎や泉鏡花、与謝野晶子なども来遊し、数多くの文豪が愛した街です。

 

この街の楽しみ方といえば、外湯めぐり。古くから城崎温泉では、湯治に訪れた人々を街がもてなす慣習があり、この文化はいまも変わらず残っています。宿はあくまで居間。浴衣に着替えたら、温泉街の中心部を流れる大谿川(おおたにがわ)に沿って、そぞろ歩きが基本です。この日宿泊した、西村屋ホテル招月庭は、中心地から少し離れていたため、温泉街までは無料のバスが運行していました。湯上りの火照りに、夜風がひんやり気持ちがいいです。また、柳並木も風情よく、春には桜が咲き誇る名所としても知られています。

KINOBUN / 街歩きはここからはじめましょう

城崎温泉でまず訪れたいのが、街の真ん中にある城崎文芸館KINOBUNです。 生涯十数度訪れたという志賀直哉をはじめ、城崎来訪作家にまつわる展示を中心とした館が昨年10月、20周年を機にリニューアルオープン。城崎地域プロデューサーでブックディレクターの幅允孝さんが全面監修し、新たな文化の発信の地として生まれ変わりました。

 

現在開催中の第1 回企画展は、城崎温泉のみで発売する出版レーベル「本と温泉」から2014年に小説『城崎裁判』を上梓 した万城目学さんを特集。自身の「はじめて訪れた者の視点」で名作『城の崎にて』の舞台をめぐり、小説家に石を放たれたイモリ、桂小五 郎、外湯など城崎ゆかりのものが時空を超え登場するユーモラスな短編に仕立てました。

 

温泉に浸かりな がら読める特殊紙に、タオル製カバーという超個性的な姿の本は初版1000部が1ヵ月で完売。4 度も版を重ねる大ヒットとなっています。お土産にもいいですね。

 

志賀直哉が城崎滞在中に毎日パンを取り寄せさせたことにちなみパンの食品サンプルを展示。常設展でも文豪に親しみを抱せる工夫が随所に見られます。

 

エントランスホールの本のかたちのパネルはライゾマティクスによるインスタレーション。『城崎裁判』中の城崎の情景を描く文が書かれています。

 

次回の企画展は、同じく「本と温泉」で書き下ろした、湊かなえさんを特集予定。城崎に馴染みのある作家が、この街で何を見たのか……城崎の街歩きがぐっと楽しくなるはずです。

 

城崎文芸館

住所:兵庫県豊岡市城崎町湯島357-1

Tel:0796-32-2575

開館時間:9:00 ~ 17:00

休館日:毎月最終水曜、年末年始

料金:大人500円、

中高生300円、小学生以下無料

 

KIAC / 世界が注目するアーティスト・イン・レジデンス

2014年にオープンした城崎国際アートセンター(KIAC)は、ホール・スタジオ・宿泊棟を備え、滞在しながら作品創作に打ち込めるスペース。県の大会議館として使われていた建物を全面改修し、世界でも類を見ない舞台芸術を中心とするアーティスト・イン・レジデンスとして生まれ変わりました。劇作家・平田オリザ氏も立ち上げから携わり、現在ではKIACの芸術監督を務めています。

 

ここ数年で、カンヌ国際映画祭で主演女優賞をを獲得したイレーヌ・ジャコブ氏をはじめ、コンテンポラリーダンス界の先駆者・白井剛氏、振付家のダニエル・レヴェイエ氏、ダンサーとしても活躍する森山未來氏など、世界中から名だたるアーティストたちが滞在。この城崎の舞台で生まれた作品が続々と世界で上演されています。

 

また、滞在アーティストによるリハーサルの公開や小中高生向けのアートプログラムなど、町民との交流プログラムも開催。はじめはアートに興味がなかった町民も、回を重ねるごとにその魅力に引き込まれているといいます。こうした町民とアーティストの交流が、城崎という街をクリエイティブに、ぐんと面白く変化させていました。

 

城崎国際アートセンター

住所: 兵庫県豊岡市城崎町湯島 1062

Tel: 0796-32-3888

※リハーサル鑑賞、見学については要問い合わせ

 

 

少し足を伸ばして、出石へ

城崎を満喫した後は、少し足を伸ばして出石に向かいます。出石といえば、出石皿そばや、大改修を終えよみがえった近畿最古の芝居小屋「永楽館」で有名ですが、今回は「沢庵寺」の愛称で知られる宗鏡寺(すきょうじ)へ。

 

元和2年に、漬物の沢庵漬けを広めたといわれている、沢庵和尚が再興したことから、沢庵寺と呼ばれるようになった宗鏡寺。現在は、座禅や精進料理を体験できるコースもあり、海外から訪れる人も少なくありません。

 

「もうすぐご飯が炊けますよ」と、ご住職の小原さんに呼ばれ、部屋の中へ。釜炊きのご飯と合わせて、宗鏡寺でつくられた沢庵をいただきます。決して豪華な食事ではないですが、寒さと空腹に染みてなんとも美味。いつも豪華な食事をしていた徳川家光もこの美味しさに感動し、一般庶民にも沢庵漬を勧めたといいます。

 

 

いつでもどこでも食べ物が手に入るこの時代。「空腹」になるのを待って食事をすることで、質素であっても美味しいと感じ、十分満たされるのだと、改めて思ったのでした。城崎温泉を訪れた際は、ぜひ立ち寄りたい場所のひとつです。

 

宗鏡寺

住所: 豊岡市出石町東條33

Tel: 0796-52-2333

※体験コースについては電話で問い合わせください

 

多くの文化人が愛した城崎温泉は、文芸館や、城崎国際アートセンターなど、いまも世界中からクリエイティブな人たちが集う、“KINOSAKI” として進化し続けていました。今年の展示や活動にも目が離せません。

 

(photo, text: Maya Matsuura)