京都《松屋常磐》の菓子
|天皇や公家が愛した逸品①
都が置かれた京都には、町のそこかしこに天皇や公家が愛した食や工芸品が伝わっている。御所の風情を感じられる逸品を手に入れて、宮中の文化の一端に触れてみよう。
今回は明治天皇の祝典にも献上され、一子相伝で継承で受け継がれている「松屋常盤(まつやときわ)」の菓子をご紹介する。
大徳寺の高僧伝授の味を
一子相伝で継承
京都御苑の堺町御門から南へ100m足らずの場所で商う松屋常盤。暖簾に屋号と異なる「松屋山城」とあるのは、店の歴史に由来する。
創業は承応年間(1652~1655)。大徳寺の御用を務める菓匠であった先祖が御所の出入りを許され、後光明天皇から「御菓子山城大掾(おんかしやましろだいじょう)」の官位を賜った。
大掾とは優れた技術を有する町人や職人に与えられた名誉称号。つまり「御菓子山城大掾」とは、天皇に献上する菓子を山城(京都府南部)でつくる優れた技術者を意味している。その中の2文字を生かして、あるときまで「松屋山城」と名乗っていた。
京都の伝統や歴史などをまとめた江戸時代の文献『京羽二重(きょうはぶたえ)』にもその名は見られ、当時の店は大徳寺の近くにあり、そこで茶の湯の菓子をつくっていた。
銘菓「紫野味噌松風」は、茶の湯の菓子のひとつとしてはじまっている。銘は能楽の演目「松風」に因み、製法は大徳寺の江月和尚から伝授された。
材料は京都の白味噌と小麦粉、上白糖、仕上げに振りかけるゴマのみで、「生地を焼くときに、以前は炭を使っていましたが、いまは特注のオーブンで焼いています。それ以外は材料も製法も昔のままを踏襲しています」と17代目の上田悠生さんは話す。
白味噌と砂糖で甘みをつけた生地は、ややモッチリとしていてふわふわ。製法を知るのは主一家のみで、後光明天皇も認めた味は一子相伝で受け継がれている。
すがすがしい白の包装紙には、宮中や寺院に納める菓子をつくる場であることを示す「御菓子調進所」の文字が。和紙で装飾した蓋を被せた小箱は仕立てがよく、菓子全体に品格がある。
明治天皇はこの菓子をとても好きだったといい、ご成婚25周年の祝典に献上したというエピソードも。その影響からか、昭和天皇も大層お好みで、それを知る今上天皇陛下は京都土産によくご購入されていたそう。
10年ほど前までは茶の湯の菓子の販売もしていたが、いまは天皇陛下が愛した菓子のみを御所のそばでつくり続けている。
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松屋常盤
住所|京都市中京区堺町通丸太町下ル
Tel|075-231-2884
営業時間|9:30~15:00
定休日|なし
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text: Mayumi Furuichi photo: Mariko Taya
Discover Japan 2024年11月号「京都」