《アセビマコト》
洋の佇まいの中にゆるさと可愛らしさを秘めたうつわ
洗練された洋の佇まいの中に、ゆるさとかわいらしさを秘めた作家・アセビマコトさんのうつわたち。ご本人いわく「電子レンジ、食洗機、漂白剤の使用OK」。そして買ってすぐ使えるように「目止め済※」。食器棚の定番として買い揃えたくなる、頼もしい存在だ。
※土鍋や陶器のうつわを買ったら行いたいひと手間。小さな穴を塞ぎ、ヒビ割れや水漏れを防ぐ
今回、渋谷PARCO「Discover Japan Lab.」にて、2022年10月15日(土)〜10月21日(金)にかけて「アセビマコト 個展」が開催。個展に先駆けて、ものづくりの背景を探りに、鎌倉の自宅兼工房を訪ねた。
公式オンラインショップでは、2022年10月17日(月)20:00より順次取扱い開始します。
アセビマコト
1964年、北海道生まれ。’89年、多摩美術大学美術学部陶芸科卒業。在学中はさまざまな素材でオブジェを制作。’94年、うつわの制作を開始。’97年、横浜市石川町に築窯。2001年、鎌倉に移転。以後鎌倉にて制作を続ける。甘いものと珈琲が好き。
鎌倉の路地裏に佇むアトリエを訪ねて
由比ガ浜のほど近く。喧騒から外れた路地裏に、アセビマコトさんの自宅兼工房はある。ジブリ映画に出てきそうな佇まい。鳥や虫の声も聞こえる。インターホンは故障中。こんにちは、と玄関先から声を掛ける。慌てたように扉が開くと、チャーミングな笑顔を浮かべた、アセビさんがいた。
「珈琲、飲みますか?」
年季の入ったミルで珈琲豆を手挽きし、ゆっくりと抽出。マグカップに淹れて、出してくださる。食卓には、奥さまお手製のアップルパイも。贅沢なひとときだ。アセビさんいわく、ここを訪ねる人の多くは、「なぜか長居」なのだとか。「うつわがつくれなくて困るんですよ」と笑う。長居してしまう人たちの気持ちがわかる気がした。とても居心地がいいのだ。
うつわにも、そんなアセビさんの人柄がよく表れているように思う。どこかチャーミングで、使っていて心地がいい。いろいろなかたちがあるし、料理も美味しく見せてくれるから、つい買い揃えてしまう。そうしているうち、食器棚がアセビさんのうつわでいっぱいに、という人がたくさんいる。
愛してやまない歴代のうつわたちが彩る、
温かな食卓
近年のアセビさんの作風といえば、白マットの洋食器の印象が強いが、自宅兼工房を訪ねて、和を感じる過去の作品が多いことに驚いた。聞けば、樂焼(らくやき)※の初代長次郎から大きな影響を受けたという。
「子どもの髪の毛がクルっとなっているルノワールの絵を観た17歳のとき、いろいろな感情がわき幸せな気持ちになったのを、いまでも覚えています。1980年代から、現代アートと呼ばれる奇抜なインスタレーションやオブジェがブームになり、衝撃や影響を受け、傾倒していきました。でも何か違和感。作品づくりに気持ちが乗らない。そんな風に過ごした大学生最後の秋、’88年に京都の樂美術館で出合ったのが、初代長次郎の樂茶碗。17歳のときルノワールに感じたものを思い出させてくれました。奇抜だったり、高い技巧を凝らした作品を観て感心はします。でも僕が好きな世界は、そういうのとは違うものだと気づきました」
長年の作家活動の中で、アセビさんの作風も刻々と変化していくが、今回の個展で新たに登場する「キセト釉」は、長次郎が生きた安土桃山時代の釉薬を基に生み出したもの。キセトは「黄瀬戸」と書き、長石・わら灰・木の灰・色づけのため鉄分の多い京都の土を原料に独自の色合いが表現される。アセビさんは、うつわの形状に隠された秘密も教えてくれた。実は、意識してゆるいものにしているそうだ。無意識につくると、きっちりしてしまい、よくないのだという。洗練されたうつわには、作家としての歴史や、想い、細やかな技が内包されていた。
気づくと夕方になっていた。例に漏れず、長居してしまったようだ。別れ際。アセビさんは個展への想いを穏やかに語ってくれた。
「僕ら世代にとって渋谷PARCOは特別な場所。うれしかったときや悲しかったとき、もう戻れない思い出や日々の小さな想い、いろいろな感情が少しだけわいて、幸せな気持ちになる。僕のうつわが誰かにとって、そういう存在になれたらうれしいです」
※京都の樂家において、約450年間、一子相伝で技術が伝わる焼物
ろくろを挽く様子も見せていただきました!
アセビマコト×柴田紗希
オリジナルのうつわ、つくりました
≫続きを読む
text: Discover Japan photo: Manako, Kazuya Hayashi
Discover Japan 2022年11月号「京都を味わう旅へ」