《八田亨/くすのき窯》
うつわ作家の「初窯」にかける想いとは。
土の力強さほとばしるうつわが、国内はもちろん海外でも人気が高まる八田亨(はった とおる)さん。その2基目となる窯が2022年春、完成した。新しく築いた窯にはじめて火を入れる「初窯(はつがま)」。記念すべきその日、窯づくりに携わった関係者や全国から駆けつけたギャラリスト、仲間らが見守る中、厳かに「火入れ式」が行われた。
八田 亨
1977年、石川県生まれ。2000年、大阪産業大学工学部環境デザイン学科卒業後、舞洲陶芸館に勤めながら海底トンネル掘削で出た海底粘土や護岸工事で使われた松杭を薪窯の燃料にしたり、淀川の川底の土から釉薬をつくったりと普通ならゴミとなるものが陶芸の材料になることを体験し、現在の作風の基盤となっている。陶芸館を出てから堺市南区で独立。その後、薪窯での制作に取り組む。’03年陶芸家として活動開始、翌’04年、自身の穴窯を築く。’22年4月に2基目の穴窯を新設。自然の息吹を感じさせる作品が国内外で注目を集めている。
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自然への畏敬の念を込め
行われた門出の神事
2022年4月25日、大阪・堺の泉北丘陵(せんぼくきゅうりょう)に築かれた八田亨さんの「くすのき窯」で、窯の安全と発展を祈願する火入れ式がはじまった。祭壇が清められ、宮司の「オー」という低い声で神を招く。続いてお供えを捧げ、祝詞(のりと)が上げられる。「いにしえに数多(あまた)の窯がつくられ……」。このあたりりは日本書紀にも「陶邑(すえむら)」と記された日本最古の陶器生産地。5~10世紀頃、大陸から伝わった須恵器(すえき)が盛んにつくられた地に、くしくも古来の穴窯が築かれたのだ。
鳥のさえずりに大麻(おおあさ)を振る音が心地よく響く。窯の四方と中央が清められた後、八田さんと参列者が祭壇に拝礼。お供えを下げる所作の後、再び「オー」の声で神が天に帰り、神事は無事終了した。
盃に御神酒(おみき)が注がれ、一同乾杯。「たくさんの人に恵まれ、囲まれて今日の門出を迎えられたことに感謝します」と噛み締めるように話す八田さん。目には涙がにじむ。そして、いよいよ「火入れ」の時を迎える。窯口で点火する八田さんの手元を、皆がじっと見守る。炎が大きくなった瞬間、わっと歓声と拍手が起こった。
〝慣れ〟を退け、
10年後を見据え作家が築いた新しい穴窯
最も原初的なスタイルといわれる穴窯を、八田さんはすでに18年焚いてきた。「炎が作品をなめるように流れる瞬間、心が躍るんです。薪とうつわを同じ部屋に入れるので炎や灰、炉圧の影響がダイレクト。だから歩留まりは悪いんですが、その分、変化に富んだものが期待できる」。目の前が真っ白になるような失敗と試行錯誤を重ね、近年ようやく焼成が安定してきた。そこであえて新たな窯をつくるのはなぜなのか?「10年後を見据えたとき〝慣れ〟が一番怖いなと思ったんです。このままある程度安定したものを焼いていくより、もっと自分の焼物を掘り下げていくために、新しい窯との新たな挑戦が必要だと感じたのです」。新しい窯はこれまでのノウハウすべてを注ぎ込んで設計、仲間とともに半年をかけ手づくりで築いた。支えてくれる人への感謝を込め、初窯では縁起のよい「左馬」のうつわをたくさん焼く。
目指すのは「土の芯まで焼き切る」こと。芯まで焼いた土の表面にはさまざまな成分が浮かび、人の力では成し得ない「頼もしい」表情となる。「人の作為からうんと離れ、どこまでも自然に近いうつわ。そんな〝名品〟がいつかできたら。いまはただただ、よい焼物を焼きたいと強く思っています」。初窯の作品は近く上海やロンドンなどの展覧会にも出品される。自然と真摯(しんし)に向き合う作家の、熱い挑戦がはじまった。
八田さんの貴重な作品が並ぶ
渋谷パルコ「Discover Japan Lab.」で買える!
記事の中でも触れた、初窯時に必ず窯に入れる特別な作品(小壺4400 円、塩壺1万3200円)が渋谷パルコの直営店「Discover Japan Lab.」に入荷。いずれも左馬が書かれた縁起物です。お見逃しなく!
Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00 ~ 20:00 ※時短営業中
定休日|不定休
※最新情報は公式Instagram(@discoverjapan_lab)などで随時紹介しています。ぜひチェックしてみてください!
text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Mariko Taya, Akito Ochiai special thanks: Utsuwa-Shoken KAMAKURA
2022年7月号「沖縄にときめく」