TRADITION

中村勘三郎・坂東玉三郎が夫婦役!
深い情愛が胸を打つ。
シネマ歌舞伎『刺青奇偶』

2021.11.25
中村勘三郎・坂東玉三郎が夫婦役!<br>深い情愛が胸を打つ。<br><small>シネマ歌舞伎『刺青奇偶』</small>
©松竹株式会社

歌舞伎の舞台を映画館で楽しめる「シネマ歌舞伎」。その多彩な演目は、毎月1週間ずつ異なる作品を全国の映画館で上映する「月イチ歌舞伎」で楽しめる。12月の上映作品は『刺青奇偶(いれずみちょうはん)』。

惚れて添った夫には、博打という悪い癖があった――。
『瞼の母』などで知られる長谷川信が手掛けた新作歌舞伎。中村勘三郎、坂東玉三郎が夫婦を演じた名演が映画館でよみがえる。全国の映画館で2021年12月3日(金)から9日(木)まで上映。観に行く前に予習しておきたい、あらすじや作品背景をご紹介!

お互いを思い合う夫婦の深い情愛

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生来の博打好きで江戸を追われた半太郎は、通りがかりに身投げした酌婦のお仲を救う。不幸続きの人生を送ってきたお仲は、本当の親切心から自分を救ってくれた半太郎の心根の美しさに胸を打たれて、生まれて初めて会った男らしい男、半太郎の後を追う。

こうして半太郎とお仲は夫婦となるが、半太郎は博打を止められない。やがて死病に罹ったお仲は半太郎の行く末を心配し、博打を止めて欲しいと願って半太郎の二の腕に骰子(サイコロ)の刺青を彫る。

お仲の思いに応えようと博打を断った半太郎だが、いよいよ別れが迫るお仲に、この世の名残によい思いをさせたいと博打に出かけ、賭場に難癖をつけ叩き出されてしまう。ところが、賭場を仕切る鮫の政五郎親分から意外な話を持ちかけられ、お仲のために、政五郎親分との命を懸けた勝負に挑むことに……!?

長谷川伸が描く、日本人の義理と人情

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本作品の作者は、1928年に発表し8度にわたり映画化された戯曲『沓掛時次郎』などで知られる作家・長谷川伸。各地を流れ歩く侠客や博徒などを主人公に、義理人情の世界を描いた作品は一世を風靡し、『瞼の母』などの戯曲や『刺青奇偶』をはじめとする歌舞伎作品も多く残し「股旅物」と呼ばれるジャンルを築いた。

貧しくとも心清らかに生きる人々の暮らしや、堅気ではない流浪人が生きる義理人情の世界を細やかに描く名手だった長谷川伸。本作『刺青奇偶』でもその持ち味が発揮されている。

行きずりの女性を何の見返りも求めず助ける半太郎の人柄や、病に苦しみながらも半太郎の行く末を心から案じるお仲の愛が胸を打つ。お仲の頼みで博打から足を洗おうと決心する半太郎だが、お仲が亡くなる前にいい思いをさせてやりたいと思うと、思いつく手段は長い間身に沁みついた博打だけ。そんな夫婦の思いやりのすれ違いが切ない。事情を聞いて勝負を持ちかけてくれた親分・政五郎と、最後と決めた大博打。半太郎は勝つことができるだろうか。賭場を去っていく半太郎の後ろで満開の桜が一片、風に散っていった。

もうひとつの物語

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本作品は半太郎とお仲、二人の心情を主軸に展開する物語だが、実はストーリーの副流として「親子の生き別れ」がある。

半太郎は生来の博打好きから江戸を追われているが、その江戸には両親を残している。河の淵に立って、川下の江戸にいる両親に思いを馳せる姿が印象的だ。両親の方も息子を案じていて、半太郎を探す旅に出ている。追われる身の半太郎は一所に留まれないので居所を突き止めるのは難しいが、ついに逗留している場所がわかって……。

作者・長谷川伸は幼少期に母と離別。代表作『瞼の母』をはじめ、生き別れた親子は作者にとって重要なテーマだった。『刺青奇偶』が書かれたのは1932(昭和7)年。この翌年に長谷川伸は実母と再会を果たすが、その出来事をまだ知らない長谷川伸は、半太郎を親と再会させるのか……?

夫婦と親子の物語、両軸から楽しめる本作品をぜひ映画館で見届けよう。

月イチ歌舞伎2021
『刺青奇偶』
上映期間|2021年12月3日(金)~12月9日(木)
上映館|東劇ほか全国の映画館にて(詳細はこちら
料金|一般2200円、学生・小人1500円
上映時間|88分
出演|中村 勘三郎、坂東 玉三郎、片岡 亀蔵、市川 高麗蔵、片岡 仁左衛門ほか

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