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「RetRe/リツリ」
虫喰いナラに新たな命を吹き込む
〜富山の森を守る尾山製材〜

2021.7.24
「RetRe/リツリ」<br>虫喰いナラに新たな命を吹き込む<br><small>〜富山の森を守る尾山製材〜</small>

虫喰いの国産木材を使い、デザイン性のあるプロダクトを生み出すサステナブルなブランド「RetRe(リツリ)」。立ち上げたのは、富山県朝日町の小さな材木屋、尾山製材。使われなくなった木とデザインを掛け合わせた“唯一無二のプロダクト”とは……?

「小さな材木屋だからこそ出来ることはないか」

富山県朝日町にある尾山製材は、1946年に「木材で戦後復興しよう」とこの場所で創業した

木は同じ樹種であっても、一本一本異なる個性や表情がある。しかしながら、流通される家具や雑貨をはじめとする木製品は、同じかたちをしている。この現実を疑問に感じた3代目の尾山嘉彦さんは、「小さな材木屋だからこそ出来ることはないか」と見つめ直し、木の個性を生かしたものづくりをすることで、地元富山から日本の暮らしと森のあり方を変えたいと思うようになった。

「使われない」と思われていたものを
個性、魅力に変えていく。

「カシノナガキクイムシ」を知っているだろうか。5㎜ほどの小さな虫で、大勢で飛来してはフェロモンの導きによって健康なナラの木に集中攻撃を仕掛ける。成虫は喰い荒らした穴に卵を産み付け、ふ化した幼虫とともに幹の内部で越冬。初夏になると木の外に出て、風に乗れば1㎞以上という飛行能力を生かして行軍していく。

富山のナラもその脅威にさらされた。2009年をピークにカシノナガキクイムシの被害を受け、実際に尾山さんも、富山の砺波にある森林組合の工場で、虫喰いのナラが大量に貯木され、おがくずとして処理されている光景を目の当たりにした。

本来ナラは堅くポテンシャルの高い木材。しかし、虫に喰われたナラは商品にならず潰されてしまう。尾山さんはその状況を何とかしたいと考えた。

そんな想いと尾山さんが目指す“木の個性を生かしたものづくり”に、プロダクトデザイナー・山﨑義樹さんが共鳴し、まだ誰も踏み出していない、虫喰い木材を活用したプロダクトを通して、里山再生を考えるプロジェクト「RetRe」が走り出した。

加えて、RetReには、木工技術を後世に残していくための仕組みづくりの目的も。

尾山 富山の材木屋が地域材の楢(オーク)材を活用して、「林業→製材業(材木屋)→木工加工業(家具屋など)」という循環を作り出し、地域の山や楢を通じて木に携わる仕事をしている方たちに利益を還元し、後世に技術を残せる仕組みづくりをしていくことが、尾山製材の考える里山再生であり、RetReブランドを立ち上げたきっかけでもあります。

自然の力強さを感じる
「虫喰いのブックエンド」

虫喰い材を大胆に切り出した、重厚感のあるアイテムがこのブックエンド。比重の高い、ギュッとつまった重みのある木部が使われており、安定して本を支えてくれる。表情豊かな楢(オーク)は、気に入った表情の面を正面にするなど多様に楽しめる。自然の力強さや木材が生きてきた証をダイレクトに感じられるアイテムだ。

虫喰いのブックエンド
価格|Sサイズ4620円、Lサイズ5720円(税込)
サイズ|Sサイズw105 × d105 × h105 、Lサイズw100 × d115 × h165  ※1個入り
樹種|虫喰い楢(富山県産)

優しい風合いのフラワーベース
「虫喰いの花器」

写真は筒タイプ

ガラスとはまた違った優しい空気感をまとうフラワーベース。虫喰い材は天然木の表情がほかの木材よりも強く感じられる「渋」な素材だ。小さなガラス管が付属しており、生花を一輪挿しで生けることもできる。もちろんドライフラワーと合わせてもアンティーク感を引き立ててくれる。

花器は丁寧に旋盤加工で削り出して成形され、無垢のナラ材から作られているので一つひとつが個性豊かな表情。滑らかな曲線やフォルムはオブジェとして飾っておくだけでも唯一無二の空気を醸し出す。

「虫喰いの花器《筒》」
価格|6050円(税込)
サイズ|φ63×h93
樹種|虫喰い楢(富山県産)
付属|ガラス管
仕上げ|みつろうクリーム

虫が生み出した模様を楽しむ
「虫喰いのスティック&ボール」

一つひとつ丁寧に削り出してつくるけん玉。使われている素材は無垢のナラ材。木に棲んだ虫が生み出した模様にはひとつとして同じものが存在せず、個体差にロマンが感じられる。ボールと本体は革紐で結ばれているので、けん玉として遊ぶことはもちろん、オブジェとして飾っておけば、虫喰い材の表情を楽しめる。

「虫喰いのスティック&ボール」
​価格|1万3200円(税込)
サイズ|φ50×h160
樹種|富山県産ナラ
仕上げ|みつろうクリーム

木を愛でる生活の必需品
「木工用みつろうクリーム」

ミツバチの巣を構成する蝋を精製した蜜蝋は、高い保湿・柔軟作用があり、化粧品をはじめ、ロウソクやワックスの材料として重宝されている。

尾山製材のみつろうクリームは、テーブルや椅子などの木工品を保護。「人と自然にやさしい」をコンセプトに、原料は国産菜種油、亜麻仁油、国産蜜蝋、椿油、ヒバ油という自然素材のみを使用している。手軽に使えるので日々の暮らしの中で手入れしやすく、ツヤや撥水性が下がってきた木工品も蘇る。

本製品には、尾山製材の「昔の日本にあった“メンテナンス文化”を取り戻したい」という想いがあった。

尾山 ひと昔前には、米ぬかや菜種油で床を磨いてとっても家を大事にしてきました。しかし、現在では大量生産大量消費で使い捨ての文化が主流となっています。物を大事にする気持ちが現代社会では希薄になっていて、自然環境やいろんな面で関心が希薄となっているように感じます。そんな時代だからこそ、床を磨き物を大事にするメンテナンス文化をこのクリームで取り戻したいと思いました。みつろうクリームは安全な自然素材のみで製造しており、緑茶を加えることで品質の劣化を防いでいます。

「木工用みつろうクリーム」
価格|2200円(税込)
内容量|200g

原木解体ショーや木の香りのお酒も?!
木に親しむイベント
「尾山製材 倉庫参観日」

一般の人にも木に親しんでもらおう、と定期的に自社の製材工場にて参観日も開催。展示されたRetRe製品を購入することも出来る。

2019年には、D&DEPARTMENT富山店と協力したイベントも開催。製材所の仕事紹介や材木の解説、原木解体ショーに加えて、製材で余った木片を使った燻製料理や木の香りを移して味わうお酒、さらには地元飲食店の料理もふるまわれた。

定員10名は瞬く間に満席に。参加者は県内在住者はもちろん、石川や岐阜、長野、神奈川など、県外からも多く集まっていた。集いの最後には参加者が感想を語る場面もあり、「普段から木や森について考えている皆さんの問題意識の高さが伝わってくる、有意義な時間だった」と振り返っていた。

ただ、こうしたイベントに関しては「継続が目的になってはいけない」とデザイナー・山﨑さんは語る。

山﨑 人を呼んで何をしたいのか、呼んだ人に何を知ってもらいたいのかを大事にしたいです。当然、ひとつのゴールとして木を買ってもらいたい、という思いもあります。しかし、木を買ってもらうためには、虫喰いナラとはどういった木なのかを知ってもらう必要があります。イベントに参加した人が、そのとき木を買ってくれなくても、家を建てたり、誰かに何かをあげるタイミングで思い出してもらえるような働きかけが大切なのだと思います。

こうした情報発信が“種まき”になると、山﨑さんは考える。その種がいつか芽を出し力強い成長を生んでくれればと、尾山さんと山﨑さんは願っているのだ。

木の変化を味わうだけではなく、木を手入れすることで、愛着を生み、日常を豊かにする。「RetRe」のアイテムたちは、私たちが“暮らし”と“森”のあり方を見直すきっかけを与えてくれそうだ。

尾山製材
住所|富山県下新川郡朝日町道下708
Tel|0765-83-2220
http://www.oyamaseizai.com/

RetRe(リツリ)
https://www.retre.jp/

SDGs視点で読み解く
ごみをリサイクルして価値をつなぐ富山県

2021年3月現在
解説協力:サステナブル・ラボ株式会社

人間、地球及び繁栄のための行動計画として、持続可能な開発目標として国際的に採択されたSDGs。17の目標のうちゴール12の「つくる責任、つかう責任」に注目してみると、富山県は「ごみのリサイクル率」が全国6位です。

虫食い木材を有効活用し味のあるプロダクトに生まれ変わらせる尾山製材の取り組みは、ごみをリサイクルして価値をつなぐ富山県の県民性が映し出されているのかもしれませんね。

詳しいデータはこちら

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