塩が手に入りにくいゆえ
菌や作物で工夫を凝らした”山の発酵”【後編】
《ニッポン全国発酵食品名鑑》
古代から発酵を生活に取り入れ、その恩恵にあずかってきた結果、それぞれの土地に根ざしたローカル発酵食品の宝庫となった日本。その土地ならではのストーリーに着目しつつ、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん選定による全国の発酵食品を「海」「山」「街」「島」の4つのカテゴリーに分類して紹介します。
発酵デザイナー 小倉ヒラク
「発酵デパ ートメント」(東京・下北沢)オーナー。山梨県甲州市を拠点に全国の醸造家との商品開発、絵本・アニメの制作、ワ ークショップなどを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)などがある
金山寺味噌/和歌山県
発酵の旨みが詰まった味噌は
大陸系の醤の系譜
中国の径山寺(きんざんじ)から伝わったとされる金山寺味噌は、米、麦、大豆の麹に塩を加え、野菜とともに樽に仕込み、発酵・熟成させてつくる。「食材として直接食べるおかず味噌。800年ほど前に中国から伝わった、醤(ひしお)の原形をとどめる貴重な発酵食品です」。昔ながらの手作業で丁寧に仕込む「太田久助吟製」の金山寺味噌は、ウリ、丸ナス、ショウガ、シソなどが具に入る甘辛い味。
食べられている地域
和歌山県をはじめとする近畿地方・東海地方の一部
ここで買えます!
「太田久助吟製」の金山寺味噌
価格|木箱入り1080円
内容量|300g
原材料|米、大豆、麦、ウリ、ナス、ショウガ、紫蘇、塩、砂糖など
Tel|0737-62-2623
注文方法|Tel、Fax(0737-62-4811)、Mail(otakyuusukeginnsei@outlook.com)
※発酵デパートメントで取り扱いあり
津田かぶ漬け/島根県
“神話の国”を思わせるかたちと
鮮やかな色をした、めでたい漬け物
松江市東部津田地区の伝統野菜、津田かぶは、外皮の上部が紫紅色で、勾玉のようなかたちが特徴。旬は晩秋から冬で、収穫後の畑では、“はで木”に津田かぶをずらりと並べて天日干しにする“はで干し”が見られる。「土江本店」の津田かぶぬか漬は、11月から翌年2月頃までに収穫し、寒風干しした津田かぶをぬか床に漬け込んだもの。津田かぶの甘みと絶妙の塩加減、シャキシャキとした歯応えを楽しめる。
食べられている地域
島根県・松江~出雲一帯
ここで買えます!
「土江本店」の津田かぶぬか漬
価格|540円
内容量|450g
原材料|津田かぶ、米ぬか、塩など
Tel|0852-21-3150
注文方法|Tel、Fax(0852-21-3319)、Mail(tsudakko@w4.dion.ne.jp)、オンラインショップ(www.tsudakko.com)
※季節限定商品。販売時期は11月下旬~1月の予定
※発酵デパートメントで取り扱いあり
柿の葉寿司/鳥取県
目にも鮮やかな山の寿司は
一年に一度のごちそう
鳥取県南東部、岡山県との県境に位置する山間の智頭(ちず)町。小さな町だが、江戸時代には県内最大の宿場町として栄えた。柿の葉で酢飯を包んで押した柿の葉寿司は、奈良県をはじめ西日本一帯で食べられているが、智頭町に伝わるのは、柿の葉に米飯をのせ、その上に具のサクラマスや薬味をのせる握り寿司。「もともとは、お盆の終わりを告げる“精霊落とし”として、一年に一度食べられていたごちそうでした」。
食べられている地域
智頭町をはじめとする鳥取県・石川県の一部
もっと知りたい方は!
那岐特産品開発研究会
Tel|090-7136-8515(代表・國政勝子)
あまぎゃあ/山口県
昔は“隠し田んぼ”で育てた
もち米でつくっていた甘酒
小さな農村集落だが、かつては宿場町として賑わった萩市南部の佐々並市(ささなみいち)地区には、麹と米、水を混ぜ、麹菌でつくる甘粥(地元の発音では“あまぎゃあ”)が伝わる。特徴的なのは、もち米を使うこと。「年貢として藩に納めるうるち米の田んぼとは別に、山の中に棚田を開き、そこで育てたもち米を使って、甘みの強い粥をつくっていたといいます」。現在は、ショウガや水を加え、口当たりのよい甘さに仕上げられる。
食べられている地域
山口県・佐々並市一帯
ここで食べられます!
萩往還おもてなし茶屋(旧小林家住宅)
住所|山口県萩市佐々並2524-1
Tel|0838-56-0033
営業時間|9:00~17:00
定休日|水曜
阿波晩茶/徳島県
山間の小さな町で受け継がれる
爽やかな酸味の乳酸発酵茶
山間の小さな町、上勝(かみかつ)町で江戸時代から愛飲されている乳酸発酵茶。収穫した茶葉をゆでて茶すり機ですり、樽に仕込んで2~3週間ほど乳酸発酵させてから、天日干しにしてつくる。「米をすりつぶして野生の乳酸菌を呼び込む、日本酒の山卸と似た原理です」。「阪東食品」の有機阿波晩茶は、畑で育てた茶に加え、自生する山茶を手摘みしてつくる。カフェインが少なく、すっきりとした清涼感とほのかな酸味が特長。
飲まれている地域
徳島県一帯
ここで買えます!
「阪東食品」の有機阿波晩茶
価格|1512円
内容量|100g
原材料|有機茶葉
Mail|info@bando-farm.com
注文方法|毎月抽選形式で限定個数販売。
詳細はウェブサイトをご確認ください
http://bando-farm.com
※発酵デパートメントで取り扱いあり
碁石茶/高知県
カビと乳酸菌のダブル発酵!
伝統製法による発酵茶
四国山地中央部に位置する大豊町で、江戸時代以来の製法でつくられる発酵茶。茶葉を蒸した後で、ムロに広げたむしろに茶葉を積み上げ、カビを付けて発酵させ、さらに数週間、樽に漬け込んで乳酸発酵させてつくる。発酵後、裁断した茶葉をむしろに並べて約3日間、天日干しにするが、その姿が、黒碁石を敷き詰めたように見えるため、碁石茶と呼ばれるようになったという。「大陸アジアの山岳民族が好む発酵茶の系譜です」。
飲まれている地域
高知県・嶺北地方一帯
ここで買えます!
「大豊町碁石茶協同組合」の『本場の本物』 碁石茶®
価格|3024円
内容量|50g
原材料|後発酵茶
Tel|0887-73-1818
注文方法|Tel、Fax(0887-73-1004)、Mail(info@514.or.jp)、オンラインショップ(http://514.or.jp)
※発酵デパートメントで取り扱いあり
あかど漬け/熊本県
“畑の馬刺し”の別名をもつ
鮮やかな赤色の漬け物
阿蘇の在来作物であるアカドイモというサトイモの赤い茎を乳酸発酵させた漬け物。発酵の過程で、赤色は鮮やかさを増す。色や見た目に加え、ショウガ醤油をかけて食べることから“畑の馬刺し”とも呼ばれる。「火山地帯で平地が少なく、やせた土壌の阿蘇で、貴重なカロリー源となっていたのがサトイモ。茎の部分も漬け物として、ビタミン源としていたのだと思います」。9月から10月にかけて漬け込み、秋以降に食べる。
食べられている地域
熊本県・阿蘇一帯
ここで買えます!
「江藤加工食品」のあかど漬
価格|540円
内容量|200g
原材料|里芋の茎、塩
Tel|0967-34-0619
注文方法|Tel、Fax(0967-34-1515)、Mail(etou@aso.ne.jp)、オンラインショップ(www.etou.co.jp)
※季節限定商品。販売時期は秋~冬頃の予定
※発酵デパートメントで取り扱いあり
<紹介している商品の一部は発酵デパートメントでも販売中!>
発酵デパートメント
住所|東京都世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK内
Tel|03-6413-8525
営業時間|11:00 ~19:30
定休日|なし
https://hakko-department.com
text: Miyu Narita photo: Atsushi Yamahira, Hiraku Ogura
Discover Japan 2021年7月号「ととのう発酵。」
《ニッポン全国発酵食品名鑑》
海の発酵【前編】/【後編】
山の発酵【前編】/【後編】
街の発酵【前編】/【後編】
島の発酵