閉鎖環境で奇想天外な食品を生み出した”島の発酵”
《ニッポン全国発酵食品名鑑》
古代から発酵を生活に取り入れ、その恩恵にあずかってきた結果、それぞれの土地に根ざしたローカル発酵食品の宝庫となった日本。その土地ならではのストーリーに着目しつつ、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん選定による全国の発酵食品を「海」「山」「街」「島」の4つのカテゴリーに分類して紹介します。
地理的に隔絶されている島の暮らしでは、外部から食料を確保しづらく、気候や水源などの理由で稲作が難しいことも多い。そうした厳しい環境の中で生まれた発酵食品は実に多様性に富んでいる。「島は“ガラパゴス”発酵の宝庫。限られた食材を有効に活用して、奇想天外な発酵文化を生み出してきました」。
発酵デザイナー 小倉ヒラク
「発酵デパ ートメント」(東京・下北沢)オーナー。山梨県甲州市を拠点に全国の醸造家との商品開発、絵本・アニメの制作、ワ ークショップなどを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)などがある
くさや/東京都
伊豆諸島名物の
くさくて美味しい発酵干物
新島では江戸時代、年貢として塩が厳しく取り立てられ、不足していた。くさやは、たくさん捕れる魚を保存するため、塩水に漬け込んでから干物にするが、大切な塩を使うことから、漬け込む塩水を捨てずに継ぎ足して使ううち、独特の香りと風味をもつくさや液が出来上がった。昔、医療体制が整っていなかった島では、天然の抗生物質としてくさや液が重宝されたという。
食べられている地域
東京都・伊豆諸島一帯
ここで買えます!
「菊孫商店」の焼くさやスティック
価格|260円
内容量|1本
原材料|青ムロアジ、くさや汁
Tel|0120-041-938
注文方法|Tel、Fax(04992-5-0040)、Mail(kikumago@helen.ocn.ne.jp)、オンラインショップ(楽天市場)
※発酵デパートメントで取り扱いあり
フナのなれずし/滋賀県
芳醇な香りと強い旨みをもつ、
琵琶湖の名物
琵琶湖に浮かぶ有人島・沖島などで盛んにつくられる、塩漬けにした魚と米飯を合わせ、自然発酵させてつくるなれずしの代表格。内臓を取り除いたフナを塩漬けにした後、塩を洗って干し、身に米飯を詰めたフナと米飯を交互に桶に漬け込み、数か月から2年ほど発酵・熟成させる。1784(天明4)年創業の「魚治」の鮒寿しは、琵琶湖のニゴロブナを、蔵付きの乳酸菌でふた冬かけてじっくりと発酵・熟成させた深い味わい。
食べられている地域
滋賀県をはじめとする近畿地方一帯
ここで買えます!
「魚治」の鮒寿し 本漬
価格|3240円
内容量|26サイズのハーフサイズ
原材料|ニゴロブナ、米、塩
Tel|0740-28-1011
注文方法|Tel、Fax(0740-28-1271)、オンラインショップ(https://uoji.co.jp)
せん団子/長崎県
サツマイモを越冬させるため
でんぷんを取り出してつくる団子
寒さに弱いサツマイモを主食としていた対馬で生まれた“せん”は、発酵の力でサツマイモのでんぷんを取り出したもの。サツマイモを生のまま砕いて水に浸け、さらに袋にくるんで発酵させる。柔らかくなったら団子状にして屋外に置いてカビを付け、水で何度も洗いながら熟成させる。それをこしてペーストにし、団子にして屋外で干して保存する。収穫から完成まで4カ月以上。千の手間がかかることから名づけられたともいわれる。
食べられている地域
長崎県・対馬一帯
ここで体験できます!
手づくりの宿
住所|長崎県対馬市厳原町内山390
Tel|0920-57-0822
料金|素泊り5500円~、せん団子づくり体験は+1500円
※体験のみは不可、体験可能時期は10〜3月、季節によって体験内容は異なる
なり味噌/鹿児島県
有毒のソテツの種子からつくる
奄美伝統の茶請け味噌
奄美に自生するソテツ(奄美では“なり”と呼ぶ)の種子を取り出して数日間、水にさらして中毒成分を抜く。解毒できたら、天日干しにして乾燥させ、細かく砕いてコウジカビを付けて麹にする。この麹で仕込んだ味噌をなり味噌という。奄美伝統の調味料のひとつである茶請け味噌は、いまは、米麹の味噌でつくるものが多いが、昔はなり味噌が主流だった。「この麹を使って味噌を仕込むほか、かつては焼酎も造っていたようです」。
食べられている地域
奄美諸島一帯
ここで買えます!
「味の郷かさり」の手づくり 茶うけみそ
価格|724円
内容量|1000g
原材料|米、大豆、なり、はったい粉、麹菌
Tel|0997-63-0771
注文方法|Tel、FAX(Telと同じ)
豆腐よう/沖縄県
かつては門外不出の高級珍味!
琉球王国伝統の発酵食品
琉球王国に中国・明から伝わった豆腐乳または腐乳をルーツにもつ。島豆腐に納豆菌の一種を付けて発酵させた後、黄麹とアルコール(泡盛など)と塩、糖を混ぜた漬け床に漬け込んでつくる。かつては、宮廷のみで振る舞われる高級珍味だった。チーズのようにそのまま食べるのはもちろん、パテのようにパンや野菜スティックに付けて食べるのもおすすめ。また、漬け汁にも旨みが凝縮しており、発酵調味料としても利用できる。
食べられている地域
沖縄県一帯
ここで買えます!
「琉球うりずん物産」のうりずんの豆腐よう
価格|864円
内容量|3個
原材料|豆腐、米麹、酒精、塩、水飴など
Tel|098-897-3767
注文方法|Tel、Fax(098-897-6431)、オンラインショップ(http://tofuyo.co.jp)
※発酵デパートメントで取り扱いあり
<紹介している商品の一部は発酵デパートメントでも販売中!>
発酵デパートメント
住所|東京都世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK内
Tel|03-6413-8525
営業時間|11:00 ~19:30
定休日|なし
https://hakko-department.com
小倉ヒラクさんからメッセージ
発酵食品というと、臭い! とか味にクセがあり過ぎる! と構えてしまう人も多いと思いますが、地域ごとに洗練された美意識でつくられた郷土食は現代人の舌にもマッチして、何を食べてもため息が出てしまいます。
今回、訪れた北陸への旅は、「北陸は海の発酵最強エリアでは……?」という仮説が証明された旅でした。北陸は中世から海を介した貿易が特異に発達したエリア。日本海の幸が豊富に捕れると同時に、北前船の西廻り航路を介して北海道の昆布やニシン、内陸の平野部からは米を主体に穀物が集積する「食の交拠点」。そのポテンシャルが発酵という文化の中で花開いているのを体感できました。
さて、そんな北陸の海の旅。実は僕、来年の秋に福井で「海の発酵の道」をテーマにした
展示&旅のプロジェクトに挑戦します。
来年時勢が落ち着いた頃に、ぜひリアルで北陸の発酵ツーリズムをご一緒しましょう。
2022年「発酵ツーリズム展 in 北陸」開催!
2019年、渋谷ヒカリエで開催された「発酵ツーリズム展」が、福井の「金津創作の森美術館」で開催される。今回の発酵特集で掲載された「北陸に根づく“海”の発酵」の発酵食はもちろん、アップデートされた47都道府県のローカル発酵文化を見える化。ヒラクさんによってデザインされる発酵文化をぜひその目で確かめてほしい。
「Fermentation Tourism Hokuriku
~発酵から辿る北陸、海の道」
会期|2022年9月17日(土)~12月4日(日)
会場|金津創作の森美術館
住所|福井県あわら市宮谷57-2-19
休館日|月曜(祝日の場合は翌平日休)
主催|公益財団法人 金津創作の森財団
協力|発酵デザインラボ、合同会社TSUGI
※現在、「CAMPFIRE」でクラウドファンディングを実施中!
https://camp-fire.jp/projects/view/412555
text: Miyu Narita photo: Atsushi Yamahira, Hiraku Ogura
Discover Japan 2021年7月号「ととのう発酵。」
《ニッポン全国発酵食品名鑑》
海の発酵【前編】/【後編】
山の発酵【前編】/【後編】
街の発酵【前編】/【後編】
島の発酵