漫画家 しりあがり寿「〝キマッタ!〟その瞬間に〝美し度〟が増す」
『古典×現代2020時空を超える日本のアート』
姿かたちや色彩など見た目に始まり、所作や言葉など身から出るもの、果ては考え方や心の動きなど精神的なものまで、美はあらゆるものに宿る。それらをまとめ合わせ、目に見えるかたちで表現するとアートになる。つまり、日本のアートをひも解けば、日本ならではの美が見えるはずです。
6月24日(水)から8月24日(月)まで国立新美術館で開催される、「古典×現代2020—時空を超える日本のアート—」の見どころとともに、アートの中に光るニッポンの美の魅力を現代作家さんに聞いた。今回は漫画家 しりあがり寿さんにお話をうかがいました。
しりあがり寿(しりあがり・ことぶき)
漫画家。1958年、静岡県生まれ。神奈川県在住。1985年、『エレキな春』で漫画家としてデビュー。ギャグ作品を中心に、社会派に至るまでさまざまな漫画を発表する一方、現代美術でも活躍。2014年、紫綬褒章。主な個展に「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」(2016年、練馬区立美術館など)
北斎とどう遊ぶか。今回の企画展でのしりあがり寿さんのテーマだ。会場には、葛飾北斎の浮世絵シリーズ《冨嶽三十六景》とともに、これに着想を得たしりあがりさんのパロディ作品《ちょっと可笑しなほぼ三十六景》が並ぶ。しりあがりさんにとって、北斎作品の魅力は洒落や粋にあり、そこに日本ならではの美に通じるものを感じるという。
「もちろん豪華とか荘厳な美っていうのもあると思うけど、僕は〝わびさび”、〝もののあはれ〟、そういうのが好き。わび=わびしい、足りない、さび=さびる、劣化する。そういうものまで美としちゃうのが日本らしいですよね。僕自身も、最近の個展のテーマは劣化。昔は未熟だと思っていたけど、還暦を過ぎて、これは劣化だなって。世の中そのものも劣化しているでしょ? 劣化ってよくないことだし、頑張らなきゃいけないところだけど、それでも受け入れなきゃいけないことでもある。だから、劣化をどう楽しむかをテーマに、絵を描いては剥がしたりね(笑)、しています」
創作活動の中で、しりあがりさん自身が美しいと思うものをどう作品に落とし込んでいるのかをたずねると「それはわからない(笑)」とのこと。
「頭で考えてどうにかなるものじゃなくて、やっぱり手を動かさないとわからない。それを積み重ねていると、〝キマッタ!〟っていう瞬間があって、その瞬間に〝美し度〟が増すんだと思う。言い替えれば、価値のあるものが描いてあるから美しいんじゃなく、もっと純粋に色とかたちがピタッと合ったときが美しい。そして作品の中で合うのはもちろん、見る人の心、時代、運、そういうものすべてとピタッと合う作品=ヒット作なんでしょうね。北斎作品なんてまさにそう」
しりあがりさんは、北斎を「とにかく偉大な人」として敬愛している。
「長い生涯、ひたすら絵を描き続けて、ひとところにとどまらない。その生き方もすごいけど残した結果もすごい。偉大過ぎるから、今回の企画展でも、向き合おうとか組み合ってやろうなんて思っていません。隅っこにかじりついてやろうっていう気持ち(笑)」
浮世絵を生んだ江戸の町民文化を「純粋なエンターテインメント」と表現するしりあがりさん。
「権威とか宗教のために生まれたものじゃなく、人々を楽しませるために生まれた文化ですから。そういう意味でも、今回の企画展に関しては〝楽しむ〟ことが見どころです」
しりあがりさんにとっての美とは?
Q.1古典アートのどんな部分に美を感じる?
A.北斎作品でいえば、町人らしい洒落や粋なところ
Q.2美しいと思われる作家、作品は?
A.長谷川等伯《松林図屏風》。墨の枯れたような感じが好き
Q.3 ニッポンの美とは?
A.わびさび、もののあはれ
古典×現代2020ー時空を超える日本のアート
会期|2020年6月24日(水)〜 8月24日(月)
休館日|毎週火曜日休館
開館時間|10:00〜18:00 ※当面の間、夜間開館は行いません。入場は閉館の30分前まで
会場|国立新美術館 企画展示室2E
住所|東京都港区六本木7-22-2
Tel|03-5777-8600(ハローダイヤル)
kotengendai.exhibit.jp
※観覧にはオンラインでの「日時指定観覧券」もしくは「日時指定券(無料)」の予約が必要です。
漫画家 しりあがり寿さんには、2020年4月号 特集「いまあらためて知りたいニッポンの美」の表紙も飾っていただいておりますので、ぜひ一緒にご覧ください。