ファッションデザイナー 皆川 明「生命の揺らぎを感じる「余白」に美を見出す」
『古典×現代2020時空を超える日本のアート』
姿かたちや色彩など見た目に始まり、所作や言葉など身から出るもの、果ては考え方や心の動きなど精神的なものまで、美はあらゆるものに宿る。それらをまとめ合わせ、目に見えるかたちで表現するとアートになる。つまり、日本のアートをひも解けば、日本ならではの美が見えるはずです。
6月24日(水)から8月24日(月)まで国立新美術館で開催される、「古典×現代2020—時空を超える日本のアート—」の見どころとともに、アートの中に光るニッポンの美の魅力を現代作家さんに聞いた。今回はファッションデザイナー 皆川明さんにお話をうかがいました。
皆川明(みながわ・あきら)
デザイナー。1967年、東京都生まれ。1995年に自身のファッションブランド「ミナ ペルホネン」の前身である「ミナ」を設立。フィンランド語でミナは「私」、ペルホネンは「ちょうちょ」を意味する。2016年、芸術選奨新人賞受賞。オリジナルデザインの生地による服づくりのほか、家具や陶磁器などのプロダクトを手掛けるなどジャンルを越えて活躍
深い森の風景、水辺に咲く可憐な花の景色——。見る者の想像力を掻き立てる独創的な図案と鮮やかな色彩を放つテキスタイルが唯一無二な存在として、国内はもとより海外からも高く評価されている「ミナ ペルホネン」。デザイナーの皆川明さんが、1995年の創立から25周年を迎える現在まで一貫して取り組んでいるのが、オリジナルの図案で生地から制作して服をつくることだ。花や植物などの自然界にあるモチーフや自身の中にわき上がるイマジネーションをもとに、手作業で図案を描き出し、国内メーカーや生地産地と協働して織りやプリント、刺繍などの手法を用いて独自の世界観を伝えるテキスタイルを表現している。
時を経ても色褪せない、心に焼きつけられるテキスタイルを生み出し続ける皆川さんに、作品制作において意識している「美」についてうかがうと、「完全なものよりも不完全なもの」という答えが返ってきた。「不完全であり、そこに生命の揺らぎを感じる『余白』に美を見出します。また、美しいと思うのは彫刻家の作品。『色即是空』という、物のありさまと、精神と物の相対的な関係を問う作品に惹き付けられます」と教えてくれた。
そんな皆川さんが今回の企画展でペアを組むのが、江戸時代の陶工・尾形乾山。琳派の意匠を用い、日本の焼物文化に革新をもたらしたとされる人物だ。焼物とテキスタイル。ジャンルは違えど、人々の暮らしに寄り添う身近なアイテムに「美しさ」や「芸術性」を生み出した二人。また、乾山は陶工にとどまらず、絵師としても作品を残し、皆川さんは家具やプロダクトなどの幅広いジャンルでクリエイションを発揮している点など、共通点を見出せる部分があるのも興味深い。皆川さんは、乾山の作品について、「うつわの造形と図柄との相関関係、表と裏の景色によって詩的な表現を創り出している部分に日本の美意識を感じる」と話す。
どの時代も高度な技術とそれに縛られない自由な感性によって新たな表現が生まれていること、そしてそのものづくりの精神をあらためて自分自身ももち続けたいと感じ、独自性をもち、職人との手仕事による技術が光る作品を選定したという。
「視覚的な類似点だけではなく、乾山におけるうつわの造形と図柄へのアプローチ、ミナ ペルホネンにおけるテキスタイルと服へのアプローチを時代背景を含めて比較し、それぞれの視点の共通性を見ていただきたいですね」
皆川さんにとっての美とは?
Q.1古典アートのどんな部分に美を感じる?
A.技術に縛られない自由な感性が生み出す表現
Q.2美しいと思われる作家、作品は?
A.イサム・ノグチや砂澤ビッキなどの彫刻作品
Q.3 ニッポンの美とは?
A.見立ての心
古典×現代2020ー時空を超える日本のアート
会期|2020年6月24日(水)〜 8月24日(月)
休館日|毎週火曜日休館
開館時間|10:00〜18:00 ※当面の間、夜間開館は行いません。入場は閉館の30分前まで
会場|国立新美術館 企画展示室2E
住所|東京都港区六本木7-22-2
Tel|03-5777-8600(ハローダイヤル)
kotengendai.exhibit.jp
※観覧にはオンラインでの「日時指定観覧券」もしくは「日時指定券(無料)」の予約が必要です。
photo:Gozen Koshida
2020年4月号 特集「いまあらためて知りたいニッポンの美」