「堀商店」建築家が支持する西洋金物店
大熊健郎の東京名店探訪
「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回はデザイン性と頑丈さを兼ね備えた建具金物をつくり続け、多くの有名建築家に愛されてきた「堀商店」を訪れました。
大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」 ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職。
www.claska.com
元号が変わる、ただそれだけのことのようで、振り返るとその時代ならではの出来事がいろいろと思い返され不思議な懐かしさがあるものだ。ただ時代の変わり目ということでいえば、たとえば江戸という時代が終わり明治を迎えたときの急激な政治的、社会的変化、それに伴う精神的、物理的変化のインパクトたるや相当なものだったに違いない。
近代国家建設を急務とした明治政府にとって、何より必要だったのは欧米諸国の制度や文化を学び吸収すること。使節団を海外に送り、お雇い外国人を招いては新たな国家建設を急ピッチで進めたわけだが、外形的にはまずは街づくりである。西洋風建築が次々と建設されるようになれば当然建物に合う建具金物が必要になってくる。そんな近代国家建設に伴う需要にこたえるかたちで誕生したのが錠前と建具金物の名店、堀商店だ。
東京は新橋駅から虎ノ門方面に歩いてすぐのところ、近代的なビルが立ち並ぶエリアにひと際目立つタイル張りの重厚なビルがある。1890(明治23)年に創業した堀商店の本社兼ショールームである。欧米の錠前、建具金物の輸入販売からスタートし、大正時代にはすでにオリジナル商品の製造販売を手掛け、その後も革新的な商品を開発し続けて西洋金物店としての確固たる地位を築いた。
堀商店が掲げるモノづくりの理念は極めて明快である。「安全性が高く堅牢であること」であり「質感のある重厚なデザイン」を実現すること。その堅牢さや安全性は国会議事堂や国立大学、旧電電公社(現NTT)、NHKなど数ある公的機関ないし法人の建物に多く使用されてきた実績が何よりそのクオリティを証明している。
また堀商店の製品は多くの有名建築家に愛されたことでも知られている。日本の伝統建築とモダニズムを融合させた数々の名建築を残した吉村順三や、機能主義的建築とは一線を画した独自の建築で知られる白井晟一など、有名建築家が好んで堀商店のドアノブや建築金物を使用してきたという。いまなお多くの建築家に支持されている理由も納得のエピソードだ。
ショールームに展示されていた、シンプルでいかにも重厚感のある真鍮のドアノブに思わず見とれてしまった。丈夫で長く使え、重厚で美しく、使うほどに味わいを深める道具、まさにそのものといった風格なのである。
堀商店
住所|東京都港区新橋2-5-2
Tel|03-3591-6304
営業時間|8:45〜17:30
定休日|土・日曜、祝日、夏期、年末年始
photo : Atsushi Yamahira
2019年6月号 特集「天皇と元号から日本再入門」