PRODUCT

小泉誠が考える椅子の本質と“人間らしさ”の関係性

2020.6.5
小泉誠が考える椅子の本質と“人間らしさ”の関係性

居住空間に欠かせない家具。外出自粛によって自宅で過ごす時間が増え、その大切さを再認識した人も多いのではないだろうか。家具デザイナーの小泉誠さんは、椅子の本質から「人間らしさ」を見つめた。

小泉 誠(こいずみ・まこと)
1960年、東京都生まれ。家具デザイナー。1990年「Koizumi Studio」設立。2003年「こいずみ道具店」を開設。’05年より武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。’15年、手仕事をつなげる活動「わざわ座」を発起。全国の現場を回り、地域との協働を続ける

「すわる」は人の原点?

椅子は、5000年ほど前に権威の象徴として、エジプトで生まれたといわれています。その後、日本人が椅子を使いはじめたのが、チョンマゲを外した150年ほど前なので、海外の歴史と比べてみると、日本人と椅子のかかわりが、つい最近のことだとわかります。

家具デザイナーとして「そもそも椅子とは?」と考えると、腰掛ける道具として生まれた「椅子」は、椅子が生まれた後から名前がついたので、いわゆる名詞です。常々「デザインは動詞で考えるのだ!」と言いふらしているので、椅子をデザインするのに、椅子という名詞で考えるのではなく、「すわる」という動詞から道具のかたちを考えるべきだと思っているのです。

この「すわる」は、もともと「坐る」という漢字で、字を見ての通り、人と人が土の上に佇むことが原点。その後、「坐る」場所に屋根「广」がついて「座る」となりました。つまり「座る」は室内に佇むことを意味して、椅子、スツール、座布団のように固定観念にとらわれた既成のかたちを思い浮かべてしまいます。

片や「坐る」でイメージを膨らますと、道具のかたちを考えるのではなく、人の行動行為を素直に思い浮かべ、手すり、縁石、岩、ブランコなどに、ふと腰掛けている風景を思い出します。そんな風に家の中を思い浮かべてみると、階段、窓枠、上がり、縁側と、腰掛けられる段差が見つかり、人間は、心地いい場所をおのずと見つけて腰掛けていることに気がつきます。

身体をサポートするためには、椅子ではなく段差があれば十分なので、この段差を見つめ直すことで、心地よい居場所が見つけられるということ。つまり、段差をデザインすることが「すわる」という動詞のデザインとなるわけです。

そして、どちらの「座る」、「坐る」にも、漢字の中に二人の「人」がいるところが興味深く、一人ぼっちで黄昏れて坐るのもいいのですが、二人で坐ることが元来「人間らしい」ことなのだと表しています。コミュニケーションという言い方は安易で好きではないのですが、当たり前のように複数で佇むことが、人としての原点であると思うと、「すわる」ってあらためていい行為だなと思うのです。

 

U chair/宮崎椅子製作所

背とアームが「U」の字を描く椅子。小泉さんがデザインした。脚と背と肘当てが一体になったシンプルな構造だが、脚から背にかけての三次曲面が身体を包み込み、やさしい座り心地。木材と張地が選べる。

宮崎椅子製作所「U chair」
サイズ:W490×D510×H 720㎜/SH415㎜
価格:4万8440円~

ORI/宮崎椅子製作所

「折紙」から着想を得たスツール。座る、置く、重ねる、添う……用途を「兼ねる」という日本的な使い勝手を考え、「折る」形態を活用した。道具としての利便性と、アートな形状が融合した逸品だ。

宮崎椅子製作所「ORI」
サイズ:W 430×D 375×H 420㎜
価格:2万8600円
www.miyazakiisu.co.jp

窓ベンチ/わざわ座

大工とデザイナー、工務店が手仕事で協業するプロジェクト「大工の手」の代表作のひとつ“窓枠を、たとえばベンチにしてみたら”という小泉さんの発想から生まれた。まさに“建築と一体となる家具”だ。

窓ベンチ/わざわ座
http://wazawaza.or.jp

文=小泉 誠 執筆=2020年4月11日
2020年6月号 特集「おうち時間。」


≫小泉誠さんがプロデユースした新店舗「Plantation」

≫インテリアに関する記事はこちら

RECOMMEND

READ MORE