沖縄・やんばる《笑味の店》
島野菜と人生の先輩たちの知恵をつなぐ
前編|長寿の村の伝統食を愉しむランチとは?
沖縄本島北部、やんばると呼ばれる地域では、元気な年配の方々にたくさん出会う。年を重ねてますます元気な生き方とその秘訣となっている食文化を、こつこつと聞き取り、次世代に伝え残そうとしている「笑味の店」。長寿の村日本一と呼ばれた地域で食べられる日常の料理やその秘訣に迫る。

やんばるの森と、透き通る青い海が広がる大宜味村。この小さな村に、県内外からの観光客、外国人、中高年や若い夫婦など、国籍も年代もさまざまなゲストでいっぱいになる農家レストランがある。手描きの看板に、自宅を改装した店舗。素朴なしつらえの店内から外を見れば、畑の島野菜が風に揺れている。
笑味の店でいただけるのは、よそゆきでない、昔ながらの日常の食卓に上る料理だ。使っている野菜は、店主の金城笑子さんと、ご近所さんが育てたもの。化学肥料を使わず、無農薬で、自然の理に合わせて育てた栄養たっぷりの島野菜。笑味の店の料理には、やんばるの大地からの贈り物が、ぎゅっと詰まっている。

現代は、野菜は買えば手に入る。しかし戦後の食料難の時代、野菜は育てなければ食べられないものだった。やんばるの人々は、山間の少ない土地を耕し、栽培の工夫、調理の工夫を重ねて、大家族の食事を賄ってきた。当時の主食はサツマイモで、毎日食べる分だけ畑から掘っていた。鍬で傷つけてしまったもの、小さいものがあっても捨てずにすりつぶして、でんぷんを取る。でんぷんは乾燥させて常備し、葛湯にして食べたそう。
「あるものをいかに工夫して食べるかっていうことを、どこの家庭でもやっていた。その知恵をいまに伝えたい」と、笑子さん。
やんばるの伝統食のランチメニューをご紹介!

①梅煮とヨーグルト
手づくりのカスピ海ヨーグルト。本土より早く旬を迎える、沖縄の梅を黒糖で煮たフルーツソースをトッピング。
②シークヮーサーアンダギー
アンダギーは沖縄の代表的な揚げ菓子。大宜味村の特産品であるシークヮーサーの果皮と果汁を使った、爽やかな香りが特徴。
③タピオカアンダギー
キャッサバ芋のでんぷんと、紅芋を混ぜ合わせて揚げる。もち粉にはない、もちもちとした食感の伝統的なおやつ。
④カンダバーウサチ
カンダバーはサツマイモの葉。ウサチは酢の物。酢の代わりにシークヮーサー果汁で和えることで、まろやかな酸味になる。
⑤ハンダマとゆし豆腐の味噌汁
ハンダマ(水前寺菜)はアントシアニンを含み、不老長寿の葉として昔から重宝された島野菜。熱を加えるとぬめりが出る。
⑥サワーラフテー
泡盛、醤油、鰹出汁で三枚肉を煮含める。シークヮーサーを加えるのが笑子さん流。島らっきょう、田芋、さやいんげん添え。
⑦パパイヤイリチィ
やんばるのあちこちに自生するパパイヤの青果は、野菜として親しまれてきた。炒めてから煮るイリチィは伝統的な調理法。
⑧クガニ冷麺
シークヮーサーの果皮と果汁を余すことなく練り込んだ、笑味の店オリジナルの麺。もずくと合わせ、さっぱりといただく。
⑨ゴーヤーの卵とじ
夏が旬のゴーヤー。カリウムは体温を下げる効果があり、熱に強いビタミンCも含む。苦みは食欲を増進させてくれる。
⑩インガナズネー
インガナ(ニガナ)は苦みのある島野菜で、胃腸の調整によいという。刻んで豆腐や味噌などと和える、大宜味村発祥の伝統食。
⑪スルルグヮーのマース煮
昔からよく頭付きで食べていたキビナゴ。食べやすく、栄養満点のマース(塩)煮は、沖縄が誇る魚の調理法だ。
⑫やんばるジューシー
豚肉、シイタケ、ニンジン、昆布などが入った沖縄風炊き込みご飯。ウッチン(ウコン)入りで、色と風味も楽しめる。
⑬玄米ごはん
昔は米を節約するために、小豆などを混ぜて炊いていた。玄米に黒米と小豆を合わせ、食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富。
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やんばるの長寿の秘訣
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text: Ayako Arasaki photo: Tsunetaka Shimabukuro
2025年7月号「海旅と沖縄」































