「東屋」東京都・渋谷区
手仕事が生み出す一生モノのやかん
日本の手工業を支え、職人と共に暮らしの道具を生み出す「東屋」。経年変化を愉しむ銅製のやかん「銅之薬缶」は使うたびに味が出る。使い捨てのものがあふれる時代、長期的に合理性があるからこそ美しい、その魅力に迫る。
東屋(あずまや)
1997年創業。各地の信頼できる手工業の職人と二人三脚で暮らしの道具を生み出し、発信。ロゴマークは篆刻の白文で「東」を表現。
合理的だから美しい
手仕事が生み出す一生もの
日本各地の職人とともに暮らしの道具を生み出し続ける「東屋」。だが、その立ち位置はメーカーでも小売業でもなく「つくり手をどれだけ繁栄させられるかっていうのが東屋のテーマ。事業目的は手工業の振興なので、東屋ブランド云々じゃないんですよ」と代表の熊田剛祐さん。ものづくりをひとつのプロダクトを奏でるオーケストラとしてとらえているからこそ、東屋の製品には製造元、原型師、デザイナーなどのロゴが自社ロゴとともに刻印されている。
熊田さんがこの境地にたどり着いたのは、大手商社に勤めていた20代の頃。「目的が営利になっている商社の仕事は一生できないなと。幸せのためにはお金もあったほうがいいよねっていうことで、営利は目的じゃないんです」と、それまでの概念が揺らいだことで、自身にできるなりわいを模索することに。とはいえ「いまやっていること以外は思いつかなかった。日本の手工業が日本の食を支えているのは間違いないから、旨いものをつくろうと思ったら、すごい道具がないと。あとは見た目がかわいくなければ大事にしてもらえないなとも思っています」。
幼少期から工芸好きの家族に囲まれて育ったこと、そして海外暮らしが長く、外から日本を見てきたという熊田さんの経験を引っ提げて東屋はスタートした。
「うちは定番屋だから、同じものを同じところでずっとつくり続けていることが多い。孫の代まで胸を張って使えるような製品を生み出せば、それが職人の技術の蓄積にもなるという考えです」。そう話す熊田さんが新潟県燕市の銅製品メーカー「新光金属」とともに生み出した「銅之薬缶」も発売から約20年のロングセラーだが、銀ろう付けと呼ばれる接合技術を施した注ぎ口は空焚きをしても壊れにくい。しかも一般的な銅製品には酸化防止のため石油由来のニスが塗られているが、銅之薬缶の表面はむき出しの銅のまま。「銅は変色がおもしろい。うちの薬缶は使いはじめから少しずつ色が変わるからずっとかわいいし、空焚きによって真っ黒になったとしても研磨スポンジでこすれば戻りますから」と、普遍的な美が宿る薬缶誕生の背景には、合理性も潜んでいた。
身の回りには使い捨ての道具があふれているが、長期的に見ればコストパフォーマンスが悪く地球の循環システムも滞る。そんな合理的な考えから生まれる東屋の製品には「あるべきものが、あるべきところに、あるべきようにある」といった、数百年先をも見通したこだわりが随所にちりばめられている。「合理性がないと美しくないと思っているのかな」。そう自問自答するようにつぶやいた熊田さんの言葉こそ、東屋が掲げるものづくりの神髄なのだろう。
使うほどに深まる味わい
「銅之薬缶」
銅之薬缶
水で2ℓを超える大容量にもかかわらず軽やか。美しい赤褐色から、渋く味わい深い風合いへと育てていく楽しみもある。
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東屋「銅之薬缶」がオンラインで買える!
公式オンラインショップ
Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00 ~ 21:00
定休日|不定休
※詳細はHP(https://shop.discoverjapan-web.com/pages/discover-japan-lab-schedule)をチェック!
内容が変更になる可能性がありますので、あらかじめご了承ください。
※サイズ・重量は掲載商品の実寸です。同じシリーズでも個体差があります。
text: Natsu Arai photo: shiho Akiyama
2025年2月号「温泉のチカラ」