長崎県長崎市《三原庭園》
庭園デザイナー・石原和幸プロデュースによる斜面地を生かした庭園
庭園デザイナー・石原和幸さんのプロデュースにより、2020年、長崎県長崎市に誕生した「三原庭園」。傾斜地を生かしてつくられた長崎らしい美景にいま世界中の人々が注目している。
かつて日本と世界をつなぐ玄関口として栄え、オランダや中国をはじめとした多様な文化が混ざり合い、育まれてきた長崎市。異国情緒あふれる地域独自の食や景色、慣習などが、いまも暮らしの中に強く根づいている。世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」もそれらを象徴するもののひとつ。長崎市の中央にある三原エリアは、17~19世紀のキリスト教禁教政策下でもひそかに信仰を続けた信徒が移り住んだ地域だ。1945年に起こった第二次世界大戦の原爆投下や、’82年に襲った長崎大水害により三原の街は一時、衰退を余儀なくされたが、人々の支え合いによって住宅地へと発展していった。
「’60年代までは、河川に海老が泳いでいたり、田んぼの周りを蛍が飛び交ったり、いまより自然にあふれた地域でした。私が幼い頃に過ごした三原のように、花と緑によって街を盛り上げたいと思って庭園をつくりました」。そう教えてくれたのは、2020年に長崎市に「三原庭園」を誕生させた石原和幸さん。京都の華道家元「池坊」に入門後、花の路上販売や庭づくりを開始し、国際ガーデニングショーの最高峰「英国チェルシーフラワーショー」では’06年から’23年までで計12回の金賞を受賞。現在は国内外から造園依頼が届く、世界的庭園デザイナーだ。
三原庭園の最大の特徴は、山の上の傾斜地につくられていること。「フラットな地に花を植えると遠い場所の花は見えにくい。しかし、斜面が多い長崎ならではの地形を生かすことで、多くの花を見せることができます。高所にある分、美しい街並みも借景として楽しんでほしいです」と石原さんは言う。
「洋風ガーデン」や「和風庭園」、「風景盆栽展示場」などから構成される三原庭園。シーズンによって植え替えを行い、その花や植物の数は数百種類にも及ぶ。「四季や季節の移ろいを愉しむ感性は日本ならでは。たとえば、散って水辺に浮かんだ桜の花びらや夜露に濡れた花……。そんな色気も庭園で感じてほしいです」。その言葉を象徴するかのように、和風庭園では1時間に一度、雲海をイメージして霧が立ち込める仕掛けも施されている。
敷地内にはカフェやアートギャラリー、雑貨店などの施設があり、’24年6月にはゲストハウスが誕生し、10月にはバラ園もオープン予定。今後は三原庭園がひとつの街のような空間になることを目指していくという。世界に類を見ない長崎の庭園は、訪れるたびに新たな景色を見せてくれるだろう。
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世界の植物と庭園文化が長崎でひとつになる
庭園を五感で味わいたい
花に包まれるゲストハウスもあります
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三原庭園
住所|長崎県長崎市三原2-26-11
Tel|095-841-8066
開園時間|10:00〜20:00
休園日|なし
入園料|無料
edit & text: Akane Sato photo: Seitaro Ikeda
Discover Japan 2024年10月号「自然とアートの旅。」