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日本文化の受け皿としての庭
庭師 北山安夫さん

2020.3.12
日本文化の受け皿としての庭<br>庭師 北山安夫さん

羽田未来総合研究所とともに羽田空港の未来を考える連載《HANEDAの未来》。今回は庭師・北山安夫さんに、日本文化の精神性の根幹として存在する庭についてうかがう。

庭師 北山安夫さん
北山造園代表。1949年京都市生まれ。修業を経て26歳で独立。高台寺や建仁寺、パーク ハイアット 京都などの庭を手掛け、海外でも活躍する

羽田未来総合研究所 ディレクター石黒浩也さん
百貨店のマネージャー・バイヤーを経て、現職。羽田空港のさらなる価値向上のため、日本の地方風土や文化芸術を羽田から発信すべく活動中

エントランスの壁に配したインド産御影石は平安建都1200年のときに用いられたもので「懐かしい再会になった」と北山さん

石黒 いまから3年前、日本橋の建築物の中に本物の苔・石・庭をめぐらせた美しい庭が出現しました。わずか1週間というはかない庭園で、その作庭を北山先生とご一緒させていただきましたが、あのとき見た庭がいまでも忘れられません。かたちはなくなったのに、記憶の中にはずっと残っている。人の心を震わせる何かが、先生の庭にはあるのだと思いました。

北山 庭にはつくり手の哲学や精神性が如実に出ると思っています。庭は本来30年先を見据えてつくるもの。つまり30年という時間と自然が同化しながら、完成に向かうわけなんですが、植物はこちらが思うようなかたちに枝が伸びないこともある。そんなときは頭の中で思い描いたかたちに近づくように、枝を切るなどして対処していくんですが、それを長年続けているとそこに型が生まれます。それがいつしか不変の美となり、いつ訪れても安らぐ、落ち着くといった庭になるんですね。

石黒 北山先生はこれまで寺院の庭などを数多く手掛けてこられましたが、ホテルははじめてとうかがいました。パーク ハイアットのようなグローバルブランドが、日本文化に理解を示しているのはすごいことだと思います。また、先生が100年先を見据えて庭をつくられた高台寺のすぐそばという立地も興味深い。今回のホテルの仕事にはどういった思いを込められたのでしょうか。

北山 ホテルには世界中からお客さんがおみえになるので、日本人の感覚に固執せず、門戸を開こうと思いました。

石黒 その考えがエントランスの「プリツカー庭園(叡心庭)」にも表れていますね。日本の寺院などの石だけではなく、ハイアット社会長の私邸から贈られたものなど、多様な31の石を使って文化の融合を図られています。石組みには伝統的な手法が用いられ、そこに庭の本質を見ることもできます。またエントランスにはそれとは別に、岩手の毛越寺と同じ石で築山を表現され、壁にはインド産の御影石を使われています。

ホテル上階の料亭「山荘 京大和」の庭園では四季折々の表情を楽しめる

北山 石は世界中どこにでもある。樹木もそう。大切なのはどこの石を使うかではなく、それらを使いこなして、私の思いや哲学をどう渡すかということ。そしてその庭を見たゲストが何を思うかが、一番大事なことですね。庭園の精神性は語るものではありませんが、国を越えて思いを共有することは可能だと考えています。庭を通じて日本に理解を示してくれるのなら、たとえ外国人であっても仲間なんだと思います。

石黒 私は常々、庭は日本文化の土台だと思っています。造形としての美しさの奥には禅につながる思想があって、それは私たちのアイデンティティそのもの。日本人の精神性の詰まったうつわといえるのではないでしょうか。

北山 精神性を伝える場として見ると、ホテルは実に適している。

石黒 世界中の人が、ゆっくり時間をかけて向き合えますからね。

高台寺の庭は北山さんの代表作のひとつ(写真は祭事中)

北山 「プリツカー庭園」だけではなく、上の階の庭園にも携わりましたが、いずれも坪庭といったスケール感ではありません。そこにはひとつの小宇宙が形成されています。

石黒 同じ庭でも訪れる季節や見る側の状況によって、見え方が違ってきます。その点はアートと共通しますね。庭に問われ、自分自身も庭に問う。それが楽しみ方のひとつではないでしょうか。

北山 庭をつくる上で、私が心掛けているのは温かみです。それは技術ではなく、魂でつくり上げていくもの。見る側も理屈ではなく、〝心〟で感じてほしいですね。

石黒 今回、当誌面にて日本庭園についてお話をうかがいました。併せて、日本の玄関口である空港においても誌面のパネルで日本庭園の素晴らしさについてお伝えしたいと思っています。


文=古都真由美 写真=マツダナオキ イラスト=yune
2020年2月号 特集「世界に愛されるニッポンのホテル&名旅館」

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