進化を続ける老舗酒場《京都・四条大宮 ふる里》
前編|果物をまるごと味わうフルーツサワーの聖地へ
まるごと搾ったフルーツを主役にするため、提供時には氷は別添え。シンプルに焼酎で割るだけでソーダも加えない。チューハイのほか、ワインや日本酒での果物アレンジも用意──。ただフルーツを合わせるのではなく、甘みや酸味、苦みまで。それぞれの個性を生かした、まるでカクテルのようなサワーを味わえると人気の老舗酒場「ふる里」。
こだわり抜いたフルーツサワーの厳選メニューを求めて、京都・四条大宮を訪れた。
ビル3階。エレベーターの扉が開けばすぐ店内という、隠れ家的存在の居酒屋こそ、京都フルーツチューハイの楽園「ふる里」。
1975年に炉端居酒屋としてスタートし、’90年頃に現在のスタイルに。フルーツチューハイをメニューに取り入れたのは、チーフ・渋谷明広さんがこちらに勤めだして6〜7年後。
「移る前のお店で生搾りチューハイを提供していました。ここで出してもおもしろいよね」というのがきっかけだったという。グレープフルーツをはじめとした柑橘類を中心にスタートしたが、当時から他店とは異なりフルーツはまるごと使う。さらには搾った果汁と果肉をグラスに入れ、そこに焼酎を加えるだけという潔いまでのシンプルさ。風味を損なわないよう、氷は別添えという徹底ぶりだ。
「これも喜ばれるかな」との想いから、現在は季節フルーツを含めて20種程度にメニューを厳選。さらに「やるなら徹底的に」と、果肉と果汁のバランスをはじめ、麦と芋焼酎のどちらに合わせるか。フルーツ個々の酸味や甘み、時には苦みをどこまで表現するのか。それはリンゴならば皮をほんの少し残し、キウイならばミキシングし過ぎないように……。60を超える日替わりメニュー同様に、果実一つひとつの個性、熟し具合を見極めて試行錯誤を繰り返してきた。その結果、ワインや日本酒、ジンなどとも相性のよい、フルーツを用いた生搾りフルーツ酒の楽園として進化することとなった。
「難しいけれど、おもしろい。続けられたのは、なんといってもお客さまが喜んでくれるから」と渋谷さん。その手さばきを眺められるカウンターこそ、こちらでの特等席。営業前に手書きで仕上げる料理メニューを眺めながら、どのフルーツチューハイと合わせようか……。フルーツの楽園であり料理天国でもあるふる里だからこその、いく通りものペアリングのおもしろさを堪能したい。
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【後編】
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text: Takeshi Tsuchihashi photo: Sakino Konishi
Discover Japan 2024年6月号「おいしい夏酒」