《界 津軽》
温泉・食・雪を満喫!|前編
自然と文化に触れる東北スキートリップ
冬から春へ。季節の節目を迎えた青森県・八甲田山を訪れ、星野リゾート代表の星野佳路さんに春のスキーツーリングへとご案内いただいた。東北の山のスケール感や歴史文化に触れる雪旅を、小誌統括編集長・高橋が体験する。
青森県/八甲田山
青森県中央部にある火山群で、日本百名山のひとつ。標高1585mの大岳を主峰とする18座の山々の総称。北八甲田と南八甲田の山域に分かれ、ふもとに湿原が広がる。世界有数の豪雪地帯としても有名
日本屈指の山スキー
クラシックルートへ
八甲田山。その名から、明治時代に起きた大量遭難事故を連想する人は多いだろう。小説や映画に描かれたように、厳冬期の気候は厳しく、吹雪に閉ざされる。しかし見方を変えれば、豊富な降雪があり、高い山がなく風が抜けやすい地形ということでもある。それはスキーに絶好の地だということにほかならない。
標高1500mほどの山々が、たおやかに稜線を広げる八甲田連峰は、昔からスキーの聖地だった。登山家・三浦雄一郎さんの父で、日本スキー界の草分け的存在だった三浦敬三は、故郷の八甲田山をこよなく愛し、いくつものスキールートを開拓したという。
現在、それらのルートは国内有数のクラシックルートとして親しまれ、国内外からバックカントリー愛好者が訪れている。
「冬の八甲田山の晴天率は約3%といわれているんですよ。1カ月でたった1日です」と語るのは、星野リゾート代表の星野佳路さん。厳冬期のパウダースノーは魅力的だけれど、景色が楽しめる日が少ないのは少し残念だ。
今回の狙いは、晴天率が高くなる春。小誌統括編集長・高橋俊宏が青森を訪れ、星野さんの案内で、温泉と春の八甲田山バックカントリースキーを体験する。
スケール感とたおやかさが
同居する山スキーの楽園へ
「皆さん、ようこそ八甲田へ」。青森を訪れた我々を、津軽弁とすてきな笑顔で迎えてくれたのはスキーガイドの山内祐世さんだ。
「八甲田はルートがたくさんあるのがいいところです。初心者の方でも楽しめますよ」と山内さん。この日、案内していただくのは「箒場岱ルート」。全長7.5㎞で、そのうち登りはたった1.2㎞。残りの6.3㎞は下りという、滑りをたっぷり楽しめる北八甲田最長のロングコースだ。
4月初旬、春の暖かな日差しが降り注ぐ絶好のツアー日和。ロープウェー山頂駅を出ると、目の前に八甲田連峰の山並みが広がっていた。遠くに陸奥湾も望む、大パノラマの絶景だ。
「八甲田は、このスケール感がいいですよね。この景色は晴れてこそ味わえるもの。春の醍醐味です」と星野さん。
ぽかぽか陽気の中、のんびりと斜面を登る。大岳や赤倉岳での大斜面の滑走は、ほどよくゆるんだ雪、ほどよい斜度のオープンバーンで、ただひたすら楽しい。映画『八甲田山』では冬の八甲田を「白い地獄」と表現していたが、春の八甲田は「山スキーの天国」だ。
ツアー終盤は、ブナの森へと滑り込む。芽吹きを迎えた樹々が、春を謳歌するように輝いていた。
広い雪山を移動しながら、新たな景色との出合いを楽しむ、八甲田の春スキー。それはまさに、旅そのものである。
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ゆったり過ごせる津軽のおもてなし
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ガイド・山内祐世
青森生まれ青森育ちのスキーガイド。八甲田山や岩木山を案内し、青森の魅力を広めている。「ミライトブルー」で代表を務め、夏は平川市で経営する「山内ファーム」でリンゴを栽培。豊かな自然を相手に日々を過ごしている
星野リゾート代表・星野佳路
長野県生まれ。1991年から星野リゾート代表。「星のや」、「リゾナーレ」、温泉旅館「界」、街ナカホテル「OMO」、「BEB」などを展開。スキーリゾートの運営事業も手掛ける。無類のスキー好きで年間70日以上の滑走を目標とする
Discover Japan統括編集長・高橋俊宏
小誌統括編集長。建築やインテリア、デザインなどの出版物を手掛け、2008年に小誌を創刊。小学生からスキーに親しみ、モーグルを経て30年前からパウダースノーに夢中。春のバックカントリーも含めスキーを幅広く楽しむ
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text: Ayako Yokoo photo: Gou Ito
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」