INFORMATION

いまこそ知りたい“予防湯治”の心構え
|温泉教授・松田忠徳が惚れた名湯10選【序章】

2024.3.4
いまこそ知りたい“予防湯治”の心構え<br><small>|温泉教授・松田忠徳が惚れた名湯10選【序章】</small>

保湿やアンチエイジングの効能がある美肌をつくる温泉、胃腸や免疫力など体内に効く温泉……。温泉研究歴40年以上の大先生が、人気温泉地から秘湯まで、東西の名湯をセレクト。
 
今回は序章として、さまざまなストレスがある現代だからこそ知りたい、心身ともにリフレッシュするための“予防湯治”の心構えを説く。

監修・文=松田忠徳(まつだ ただのり)
1949年、北海道・洞爺湖温泉生まれ。東京外国語大学大学院モンゴル文学専攻修了。温泉学者、医学博士、旅行作家。「温泉教授」の異名で知られる、温泉学の第一人者。『全国温泉大全』など著書は約100冊

そもそも湯治って?

湯治は単に病気の治癒だけが目的ではなかった。「西洋医学は病気を治す。温泉(湯治)は心と身体を正す」——。かねてからの持論である。温泉は本来あるべき姿に、私たちの心身を揺り戻してくれるのだ。ストレスフルな令和の現代に必要なのは“予防湯治”の心構えではないだろうか。
 
山口・俵山温泉で、1週間の湯治をしたことがある。日本人にとっての温泉の原風景が俵山ほど見事に残されている湯町はほかにないだろう。昭和の初期を髣髴とさせるレトロな町並みのことだけを言っているのではない。俵山の人々は私たちがどこかに置き忘れてきてしまった、「足りる」ということの意味を熟知しているように思えた。

木造の小さな湯治旅館が20軒足らず。1、2軒を除いて宿に内風呂はなく、浴衣姿で共同浴場へ出掛ける。「町の湯」と「白猿の湯」である。湯治客の大半は長州藩直営の湯治場であった頃から有名な「町の湯」へ向かうのが習わしだ。私たち夫婦の入浴は午前、午後、夜の1日3回、「町の湯」へ通った。俵山は戦後間もなく九州大学の研究によって、「1回の入浴は15〜20分で十分」とのデータが得られていた。それ以上入浴しても効果に変わりはないと。身体への反応は2時間後にピークに達するので、その間身体を冷やさないことが肝要である。
 
町の湯は昔ながらの自然湧出だ。シルクのような感触のアルカリ性単純温泉だが、“活性”のある湯は全身の細胞に反応するようだ。40℃そこそこの湯温を甘く見ていると、ひどく身体にこたえる。私は額から汗が出てきたら上がることにした。
 
湯気は濃厚に感じられる。湯に浸かりながら時折、湯気を大きく吸い込む。深呼吸は副交感神経を優位にし、免疫力を高める。湯上がりに、飲泉所で源泉をゆっくり噛むようにして飲む。身体の内側からも成分を取り込むためだ。

※画像はイメージです

現代医学でもなお難病である「リウマチの名湯」で知られる“効き湯”の俵山温泉で、特に自律神経系のバランスを整えることが湯治の目的であった。その後20年間、病院や薬、栄養ドリンクなどとほとんど縁のない生活を送ってこられたのは、俵山で温泉と向き合いながら生体のリズム、呼吸を会得したせいだと考えている。
 
湯治生活は極めてシンプルで、かつこれまでの人生の中で最も贅沢な時間(とき)だった。なにせ三度の入浴と食事、昼寝、散策、読書、睡眠だけの毎日だったのだから。同時に深い睡眠も得られるようになった。熟睡(ノンレム睡眠)中に成長ホルモンがよく分泌され、脳の神経細胞や全身の細胞を再生してくれる。

line

 

秋田県《乳頭温泉郷》
 
≫次の記事を読む

 

text: Tadanori Matsuda
Discover Japan 2024年2月号「人生に効く温泉」

RECOMMEND

READ MORE