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陶芸家・田中信彦さんのうつわ②
世界各国の料理人が愛用する理由とは?
|日々を明るく彩る色の魔術師

2024.1.4
陶芸家・田中信彦さんのうつわ②<br>世界各国の料理人が愛用する理由とは?<br><small>|日々を明るく彩る色の魔術師</small>

透明感のある優しい色彩が印象的な田中信彦さんの「色のうつわ」は、料理を盛り、食べて、片づける、何げない日常を明るく彩ってくれる。色の魔術師による心躍るうつわの世界へ、ようこそ。今回は数多くの料理人が注目する、和洋を超えた田中さんのうつわの魅力に迫る。

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国内外の飲食店でも愛用される理由

カラフルな色彩やアートのような意匠の「色のうつわ」は、感度の高い国内外の料理人も注目している。
 
先鞭をつけたのは、世界最高峰レストラン「ノーマ」の遺伝子を受け継ぎ、東京に出店した「イヌア」ヘッドシェフのトーマス・フレベルさん。2018年、彼から田中さんのInstagramのDMに突然連絡が入った。
 
「色のうつわを気に入ったトーマスからイヌアの食器のオーダーでした。納期は短期間でしたが、これはおもしろそうだと。打ち合わせを重ねて、半年で500点近くを焼き上げました」
 
イヌアとの仕事は大きな反響を呼び、伝統技法で手掛けるモダンな世界観のうつわに、問い合わせが殺到。パリで話題の「Maison」や1日3組限定の軽井沢「Naz」など、新進気鋭の料理人からも依頼が相次いだ。
 
最近では世界中のフーディを沸き立たせた、「エースホテル京都」でポップアップ展開をした「ノーマ京都」でもアンダープレートが活躍する。
 
「ノーマのうつわ遣いは、斬新で興味深かったですね。実際に見たときは、ああこんな風に使うのか、って驚きました。レネは土っぽいうつわが好みなので、リムにそんな風合いを取り入れたりも。飲食店のうつわは、料理人の要望をくみ、料理を想像してつくります。共作という感覚に近いかな」
 
もちろん田中作品を求めて個展へと足を運び、店や料理にふさわしいうつわを買い求める料理人も多い。感度の高い大人が集う「酒井商会」店主の酒井英彰さんもその一人。

美しい盛りつけを見ながら「新鮮な魚介や珍しい日本酒がいただけるので仲間とよく訪ねています」と田中さん

自ら金継ぎを施した「色のうつわ」に刺身を盛りながら、「知人の紹介で個展にうかがうように。田中さんのうつわは、いわゆる和食器ではないのに刺身や煮物を盛っても収まりがいいんです」と、その魅力を語る。
 
その言葉に笑顔がこぼれる田中さん。自身のうつわを使う店で料理をいただき、使い手の料理人と対話することを、田中さんは大事にしている。
 
「色やデザインだけでなく、道具としての実用性や使いやすさも大切にしたい。プロの使い手である料理人との対話は、その手掛かりにも。これからもアートではなくクラフトとして、和洋を超えて暮らしに馴染むうつわをつくり続けていきたいです」

気鋭の人気店「酒井商会」が見せる
田中さんのうつわ遣い

酒井商会を皮切りに、恵比寿「創和堂」や渋谷「SHIZEN」など予約困難な人気店を営む酒井さん。「どれも盛りやすく、そして食べやすい」と、プライベートでも田中さんのうつわを贔屓にしている

明るい色のうつわはもちろん、力強い佇まいの「荒磁」や洒脱さをたたえた「ごま塩手」など個性派うつわが、酒井商会の味を引き立てる。

酒井商会の旬の品書き「毛蟹と菊花のおひたし」は、荒地(青灰)四寸鉢に。きめ細やかな紅白のカニ身と菊花の華やかさを、深みをたたえた青灰が受け止める。1100円
信頼する仕入れ先から届く九州産魚介のお造り。アオリイカ、ハガツオ、サワラ、クエの「盛り合わせ四種」は、金継ぎを施した「色のうつわ」を。濃淡の青が印象的な中鉢は、鮮度のいいお造りを照らす。2000円
香ばしく揚げた「鰻と胡瓜の春巻」は、酒井さんが依頼した「ごま塩手」の五寸リム皿へ。ごま塩手の風合いは、料理を軽やかに見せる。「赤酢を加えた色の濃いタレが映える」と酒井さん。750円
たっぷりとあんがかかった「甘鯛のみぞれ揚出し」は、「ごま塩手」の小鉢が出番。「匙を使ってあんや出汁ごと食べていただく料理は、大きさや深さがちょうどいいこの小鉢を選ぶことが多い」と酒井さん。1000円
秋らしい「焼き椎茸と鮑の肝がけ」は、「荒磁」シリーズの五寸小鉢へ。櫛目のようなベンガラ遣いと底に塗られた淡い青が、アワビの白さ、焼きシイタケや肝の滋味深い色合いをぐっと引き立てる。1800円

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酒井商会
住所|東京都渋谷区渋谷3-6-18 荻津ビル 2F
Tel|非公開(予約はウェブから)
営業時間|17:00〜23:00(最終入店20:00)
定休日|日曜・不定休
https://sakai-shokai.jp

田中信彦さんのうつわは、個展などで入手可能
詳しくはInstgram(@nobuhiko.tanaka)にて。

text: Yukiko Mori photo: Maiko Fukui
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」

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