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陶芸家・田中信彦さんのうつわ①
あくなき色彩の追求と新たな挑戦
|日々を明るく彩る色の魔術師

2024.1.4
陶芸家・田中信彦さんのうつわ①<br>あくなき色彩の追求と新たな挑戦<br><small>|日々を明るく彩る色の魔術師</small>

透明感のある優しい色彩が印象的な田中信彦さんの「色のうつわ」は、料理を盛り、食べて、片づける、何げない日常を明るく彩ってくれる。色の魔術師による心躍るうつわの世界へ、ようこそ。

田中信彦さん
1966年、東京都生まれ。大学卒業後、京都府立陶工高等技術専門校で陶芸を学ぶ。滋賀県の窯元や東京の工房を経て、1994年に埼玉県入間市に開窯。「色のうつわ」をはじめ、作品は国内外で注目。年4回の個展を中心に活動している

色彩を追求し、新たなシリーズに挑戦も

赤からはじまった「色のうつわ」は、いまでは10種類ほどが定番色に。色の組み合わせによって表情が変わるのも魅力。縁取りのベンガラがうつわの輪郭を引き締める

淡く明るい色をまとい、柔らかな手触りが持ち味である田中信彦さんの「色のうつわ」。ふんわりと光に溶け込むような色合いは、まるで印象派の絵画のようだ。色のうつわに表現される、ほのかな温もりとモダンさが共存する色彩は、いったいどのようにして生まれてきたのだろうか。
 
田中さんが陶芸をはじめたきっかけは、大学時代に参加した陶芸サークル。誘われてなんとなく入部したものの、その魅力や奥深さにどんどんのめり込んだ。大学卒業後には、本格的に京都の陶芸学校で学び、滋賀県の窯元や東京の工房で経験を積んだ。
 
「陶芸学校では技術をたたき込まれ、窯元ではろくろ成形で何百枚もの皿を焼き上げました。そこで身につけた伝統的な技術や職人としての経験が、ものづくりの土台になっています」

釉薬に顔料などを配合してつくり上げた田中さんのこだわりの色。赤からはじめて、青、緑、黄、紫と10年ほどかけて一色ずつ完成させた。何百種類もの試作を経て、いまでは10種類ほどが定番色へ

1994年に独立、埼玉県入間市に工房を開く。技術を独自の表現へと昇華させる中で、学生時代に挑んだ色への思いが頭をもたげる。
 
「中国の陶磁器に使われてきた釉裏紅、日本では辰砂と呼ぶ、銅で赤を発色させる技巧があります。釉薬に凝っていた学生時代、一度だけ求める色ができましたが、以後は成功せず。銅が生む明るい赤をつくりたいと思い続けていました。そこで何十年ぶりに挑んでみようと」
 
辰砂の赤は、血のような色合い。しかし田中さんが求めたのは、明るく透明感のある赤。釉薬などの配合を少しずつ変えて試作を繰り返すこと数百回。
 
ようやく求めていた赤が完成する。そして色を生かすためにと、手掛けていた土物から磁器へと表現を変えた。
 
「磁器を赤で彩って『色のうつわ』が生まれました。透光性のある磁器の質感が明るい赤をさらに引き立ててくれて。そこから十年ほどかけて、青、緑、黄と一色ずつつくり上げました」

「飛びカンナ」シリーズに使う鉋は、大きさや角度もさまざま。いくつか組み合わせて、削りによるリズミカルな意匠を表現

明るくカラフルかつ、暮らしに馴染むと評判を呼び、いつしか田中さんを代表するシリーズへ。色数が増えるとともに個展の引き合いも増えた。
 
そして小石原焼や小鹿田焼の技法「飛び鉋」で手掛ける繊細な意匠や、点描であられ紋を施すなど、新たな色のシリーズも生み出してきた。
 
「いつも同じだとつまらないでしょう。だから伝統技法や点描を取り入れるように。最近では、マグカップやお茶碗は、大きさや色柄も変えて同じものをつくりません。自分だけのうつわを選ぶ歓びや愉しさを感じてほしいから」

一度素焼きをしたうつわの外側から色を塗っていく
色を塗るときに迷いはない。ピンクの彩色は、焼き上がると黄色に

新たなシリーズにも注目

色とりどりの点描を施した「あられ」シリーズ。小粋で愛らしい風合いに、ファンが命名したそう。点描の色遣い次第でシックからポップまで自由自在
透白磁に砂を混ぜた「ごま塩手」シリーズ。焦がしの表情を揺らぎのある白がまとめる。力強さと洒脱さを兼ね備えたうつわには、酒のつまみがよく似合う
陶土に磁器土の削りかすを混ぜた「荒磁」。土臭さや骨太感を放つ荒磁に色を施した荒磁加彩シリーズ。どっしりとした佇まいのジャグも軽やかな雰囲気に

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田中信彦さんのうつわ②
世界各国の料理人が愛用する理由

 
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text: Yukiko Mori photo: Maiko Fukui
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」

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