京都《伏見稲荷大社》のご利益の秘密④
伏見の「水」にもご利益が宿っていた!?
伏見と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、朱い鳥居が連なる光景で知られる「伏見稲荷大社」だろう。その謎めいた雰囲気に外国人参拝客も多く集まるが、この伏見一帯が、歴史と深く結び付いたパワースポットであり、「水」にまつわる逸話が多いのも事実。京都屈指といわれるご利益の源をめぐらずにはいられない。
かつて「伏水」とも呼ばれていた伏見は、昔から良質の地下水に恵まれてきたという、水とかかわりの深い町。そんな伏見の「水」にもご利益があるんです。
病を癒す御香水が湧き出る地
稲荷神社の稲荷神、すなわち宇迦之御魂神、倉稲魂命は、豊作の神さまですから、炊いて味づけした米を、狐の好物である油揚げで包んだお寿司を「おいなりさん」と呼ぶのは当然の成り行きでした。
伏見稲荷大社の門前茶屋「祢ざめ家」なら、秀吉も食べた、かもしれない名物「いなり寿し」を味わえます。
伏見はまた伏水とも書いた、と上に先述しましたが、昔からいまに至るまで、伏見というところは「水」と深いかかわりをもってきました。
良質な水が潤沢に湧き出て、水に不自由しない伏見は、政を行う場所としても最適の地でした。
豊臣秀吉が隠居後の住まいとするために建てた伏見城を、紆余曲折を経て家康が再建し、ここで征夷大将軍の宣下を受けることになったのです。
そしてその後、3代将軍家光まで伏見城で将軍宣下式を行っています。つまりはこの間、日本の中心地は伏見だったともいえます。
そんな伏見の水を象徴するのが「御香宮神社」です。
いつ創建されたか、はっきりしないほど古い神社ですが、境内には香り高い水が湧き、病にも効能があったことから、時の清和天皇が「御香宮」と名づけたといいます。
境内には家康を祭神とする東照宮も建立され、徳川家の義直、頼宣、頼房は、この御香水を産湯として使ったというのですから、まさに水を神さまのように崇める、徳川ゆかりの神社なのです。
伏見の名水を用いた秘伝の出汁
さて、その伏見の水ですが、最大限の恩恵をいただいているのは酒蔵です。
酒造りに欠かせないのが水ですから、伏見にたくさんの酒蔵が集まってきたのは当然のことでしょう。
俗に「灘の男酒、伏見の女酒」といわれるように、おおむねやさしい味わいの酒が伏見の酒の特徴のようです。酒蔵めぐりをして、好みの酒を見つけるのも一興ですね。
良質な水が欠かせないのが料理。とりわけ昆布出汁を引くのに、軟らかい水は不可欠だといいますから、日本料理にとって水は命といえるでしょう。
伏見屈指の日本料理店「清和荘」は、洛中から通うお客も多い名料亭です。
住宅街の一角にこんな立派な料亭が潜んでいるのも、伏見ならではです。
伏見の町中にありながら、緑豊かな庭園が広がり、よく手入れの行き届いた庭を眺めながら、洗練された日本料理を味わえる店。伏見を訪れたならぜひとも足を運びたいものです。
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御香宮神社
創建年は不詳だが、平安時代の862(貞観4)年、境内から「香」のよい水が湧き出たことから、清和天皇より名づけられたいわれる神社。安産・子育てのご利益で知られる「神功皇后(じんぐうこうごう)」が祀られている。
住所|京都市伏見区御香宮門前町174
Tel|075-611-0559
拝観時間|授与所9:00〜16:00、石庭9:00〜15:45(最終入場)
定休日|不定休
拝観料|境内無料、石庭拝観料は大人200円
https://gokounomiya.kyoto.jp
清和荘
1957年創業。数寄屋造の部屋で、四季折々の日本庭園を眺めながら京料理がいただける料亭。敷地内に名水のひとつである「清和の井」があり、その名水を存分に生かした会席をはじめ、ハモ寿司、名物のわらび餅も人気。
住所|京都市伏見区深草越後屋敷町8
Tel|075-641-6238
営業時間|12:00〜13:30(入店)、18:00〜19:00(入店)
定休日|月曜(祝日の場合は翌日休)
www.seiwasou.com
photo: Azusa Todoroki, Toshihiko Takenaka
Discover Japan 2023年11月号「京都 今年の秋は、ちょっと”奥”がおもしろい」