データサイエンティスト・宮田裕章に聞く
データサイエンスが導く持続可能な未来①
収集したデータを分析、解析し、有益な価値を引き出す学問、データサイエンスへの注目度は、年々高まりを見せている。データで未来を切り拓くために必要なカギを、データサイエンティスト・宮田裕章さんの解説で探っていく。
今回のテーマは「データサイエンスができること」。「データを活用した社会は、産業革命以降の大変化をもたらすと考えます」と宮田さんは話す。社会では具体的にどのような変化が起こるのか。
宮田裕章(みやた・ひろあき)さん
1978年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学医学部教授。2003年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をよりよくするための研究活動を行う
データサイエンスができること
日本のデータサイエンスを牽引する存在として精力的な活動を続ける、データサイエンティストの宮田裕章さん。ヘルスケア領域を中心にさまざまなプロジェクトに取り組む中で、「データを使った社会変革」を行動の軸とし、データが新しい価値観と多様なライフスタイルを社会にもたらすという未来予想図を描く。そのためにデータサイエンスはいかにして力を発揮するのか。
「日本に老舗企業が多い理由のひとつは、『買い手よし、売り手よし、世間よし』という近江商人の理念が、多くの企業に息づいているからであり、これは現代のCSRにも通じる概念です。データにより、人権保護や環境配慮などは可視化されるようになりました。それは企業と従業員、消費者、社会との“つながり”が、可視化されたと同義。つまりデータサイエンスはつながりが前提となった時代の中で、未来との関係を結ぶアプローチなのです」
データを活用した社会の実現は、「貨幣以外の価値の可視化」、「最大“多様”の最大幸福の実現」、「世界とローカルの結び付きの強化」をもたらすと宮田さんは話す。
「貨幣は交換可能な価値として、社会に影響を及ぼしてきました。一方でデータは、個人の信用力を数値化した『信用スコア』や、『食における環境への貢献度』など、さまざまな価値を可視化できる。ゆえに貨幣を媒介せずとも、社会を駆動できるようになるんです」
多様な価値の可視化は、一人ひとりに寄り添ったニーズや状況を把握し、「個別最適」をも可能とするという。
「これまでの産業や社会政策は、平均値を想定して実施されてきました。大量生産・大量消費はその典型です。データを生かすことで、個々人に最適なサービスを提供できる、最大“多様”の最大幸福がかなえられるのです」
<データサイエンスができること>
世界とローカルをつなげる
これまでの経済は「マスの需要をいかにつかむか」というものだった。しかしデータで世界がつながる社会では、多様性が重要となってくる。つまり地域も世界とつながり、地道な活動も、多くの人の目に留まるようになるのだ
多元的な価値の可視化
2021年ダボス会議のテーマが「グレート・リセット」になるなど、近年、資本主義経済の転換が叫ばれている。多様な価値を可視化できるデータは、産業革命以降続いていた「価値=貨幣」という大前提を覆す可能性を秘めている
一人ひとりに寄り添う
雇用、福祉、医療といったデータを掛け合わせ、行政支援が個別に対応できるようになれば、シングルペアレントの貧困問題など、さまざまな社会課題解決の糸口になる。「誰も取りこぼさない社会」という理想も現実となるだろう
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text: Nao Ohmori photo: Kenji Okazaki
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