《箱根・翠松園/すいしょうえん》
登録有形文化財にて美食を味わう湯宿
美食を味わいに、季節ごとに足を運びたくなる宿が箱根にある。山海の幸が盛り込まれた前菜に心躍り、高級食材を堪能する。季節を炊き込んだ土鍋ご飯に、締めの甘味まで、幸せな時間が続く。前編は、登録有形文化財にて美食を味わう湯宿「箱根・翠松園/すいしょうえん」。大正時代に建てられた建物で四季折々の料理を堪能し、部屋で源泉かけ流しの露天風呂に浸かる幸せ。
箱根のリゾートで堪能する
美味しい滞在
美食の宿と名高いラグジュアリー・リゾート「ふふ」シリーズと「箱根・翠松園」。いま舌の肥えたゲストを満足させるために、新たな食の提案を行っている。通常の懐石料理に、その時期の特別な食材を組み込んだ特選献立や、プリフィックススタイルがそれだ。 たとえば、初夏は伊勢海老とアワビ。特選献立の中で、伊勢海老はお造りや鍋、アワビはアンチョビバター藁焼きやご飯にと惜しみなく使われている。伊勢海老の鍋「海香鍋仕立て」は、まず華やかな香りにうっとり。黄金色のスープは、海老の殻でとるアメリケーヌソースに鰹出汁、白味噌、海老味噌、マスカルポーネチーズを加えたもので、和と洋が調和した唯一無二の味わいに驚く。特選献立は、日本各地のふふ(熱海、河口湖、日光、奈良、京都)、箱根・翠松園、ATAMI せかいえ、ATAMI海峯楼で堪能できる。夏は毛ガニ、秋は黒毛和牛と松茸、冬はクエとフグ……と、想像するだけで心が躍る。
また、昨年開業した「ふふ 箱根」では、好きな料理を選べるプリフィックススタイルを採用。自分好みの献立をつくれるのがユニークだ。
食を大切にするラグジュアリーリゾートブランドならではの、新たなもてなしの提案に注目したい。
箱根山の中腹、良質な湯がこんこんと湧く箱根・小涌谷。緑豊かなこの地に、1925(大正14)年、三井財閥が建てた別荘が三井翠松園だ。瓦屋根が美しい木造2階建て。意匠は簡素ながら建具の隅々にまで品格があり、味わいのある古いガラス窓から庭園の緑が目にやさしい。施工は富士屋ホテルを手掛けた河原徳次郎と伝わる。
約1万㎡の広大な敷地の中心にあって、料亭とバーが入る建物「紅葉」がその名建築を受け継ぎ、すぐ脇で樹齢300年のもみじが堂々と枝葉を広げている。客室はその周りに配された4つの棟に23室。間取りやデザインが異なり、すべての部屋に自家源泉の露天風呂が付いている。
食事の前にバーに立ち寄りたい。明るいうちにカウンターに座ると窓の外の自然と一体になれるからだ。もみじの古木も存在感を放っている。「初夏の淡い緑がだんだん濃くなっていきます」とバーテンダーの別院規之さん。食前酒のおすすめを聞くとサイドカーをつくってくれた。徐々に夜が降りてくる時間帯、雨の日なら雨音を聞きながらの一杯もよし。秋、落葉の季節はウイスキーが似合うだろうと。
お待ちかねの食事は、ウニと蒸しアワビの先付からはじまった。続く前菜の小鉢の盛り合わせに思わず喜びの声が上がる。ハマグリと山菜のミルク浸しはクラムチャウダーからヒントを得たもの。ガラス器には金目鯛のアラを炊いた煮こごりにゴマクリームをのせて。黄瀬戸には江戸前の煮穴子とゴボウのきんぴら。粽は静岡産の金太郎マスにアクセントの奈良漬を少々。いずれも丁寧な調理がなされ、季節を感じ、ときに新しい出合いがある。
「調理法や食感、味わいにメリハリをもたせ、この先がワクワクするような構成を心掛けています」とは料理長の森田正弘さん。お椀、造り、焼物と、料理が運ばれてくるたびに胸が躍り、五感で味わい、立ち上がれなくなるほど満腹で、幸せに満たされる。
初夏の特選献立は
「伊勢海老」と「アワビ」
読了ライン
季節ごとに通いたくなる、
記憶に残る料理
特別なペアリングも
名建築も愉しめる
満足度の高い朝食
旅の想い出を持ち帰る
読了ライン
“山のリゾート”で過ごす休日
≫次の記事を読む
箱根・翠松園
住所|神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷519-9
Tel|0570-0117-22
客室数|23室
料金|1泊1室8万8000円〜(税・サ込)
カード|AMEX、DINERS、Master、VISAほか
IN|15:00
OUT|11:00
夕食|日本料理(料亭)
朝食|和食または洋食(料亭)
アクセス|車/東名高速道路御殿場ICから約30分 電車/JR・小田急電鉄小田原駅からタクシーで約40分
施設|料亭、バー、大浴場、スパ
text: Yukie Masumoto photo: Hiroshi Abe
Discover Japan 2023年7月号「感性を刺激するホテル/ローカルが愛する沖縄」