TRADITION

仏像修理師集団「三乗堂」の挑戦【後編】
木工の街・鹿沼で活躍中!
伝統の手仕事をつなぐ

2023.4.7
仏像修理師集団「三乗堂」の挑戦【後編】<br><small>木工の街・鹿沼で活躍中!<br>伝統の手仕事をつなぐ</small>

異なる地域で育った3人が日光山輪王寺「平成の大修理」の仕事で一緒になった縁を機に、栃木・鹿沼市で仏像修理工房・三乗堂を結成。ひたむきに取り組む彼女たちの姿に迫った。

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鎌倉時代末から伝わる
「木造地蔵菩薩坐像」が復活

2023年の1月某日、神奈川県南足柄市にある東寺真言宗「弘済寺」へ、三乗堂が修理を進めていた「木造地蔵菩薩坐像」の台座と光背の納品が行われた。2021年より修理に着手し、本体は昨年に修理が完了。真言宗立教開宗1200年を迎える本年に合わせた、一大修理事業であったという。
 
弘済寺の玉野真永住職によると、このお像は安産や子育て守護を願い、鎌倉時代末につくられたもの。江戸元禄年間に鎌倉の大仏師・後藤勘弥が修理を行うが、以後320年間は手つかずのままだったそうだ。
 
「劣化や損傷がひどく、修理をしたいとずっと考えていました。しかし大切なお地蔵さまですし、どうしても見ず知らずの方に、修復を依頼する気持ちにはなれずにいたのです。そんなとき、導かれるようにして出会ったのが三乗堂の方々。友人の寺で彼女たちの丁寧な仕事や実直な人柄に触れ、ぜひお任せしたいと思いました」
 
そう玉野住職が話すように、指、衣、胸飾り、宝珠、蓮華座など欠損箇所は多く、腕や手首は脱落。ネズミや虫による穴も随所に見られ、全体的に汚れが付着するなど、像は決して良好とはいえない状態であった。中さんが作業の合間にふと言葉を漏らす。
 
「損傷が進んでいたとしても、お像の造形的な美しさや作者の技術力に、いつも感動します。こちらのお地蔵さまの胎内には、1700年に修理されたことを示す銘札が入っていました。私たちも未来へつながる修理をしなければと、身が引き締まる思いです」
 
3人は阿吽の呼吸で作業を進めていく。修理におけるさまざまなシーンで意見を出し合い、常にベストな選択をしているのだ。緊張感のある現場ではあるが、重苦しい空気は一切ない。
「コミュニケーションは大事にしています。和やかに作業ができると、私たちも気持ちが落ち着くので」と話すのは井村さん。玉野住職も穏やかな笑顔で現場を見守っている。
 
「三乗堂さんにお願いできて本当によかった。檀家さんや地域の方々にも、愛されているお地蔵さまですから」
 
三乗堂の今後の展望について聞くと、3人から同じ答えが返ってきた。
 
「工房のある鹿沼のお像の修理を、もっと手掛けていきたいですね。地域の文化財を後世に残す、お手伝いができたらと考えています」

剥落、欠失、虫損……修理は2年がかり

最初に損傷状態を細かく調査し、さまざまな角度から撮影する。主な修理内容は、堆積した埃の除去、虫損などで脆弱になった箇所を薬剤で補強、欠失箇所を補作・新補、錆びた釘の撤去など。補作部材や再接着箇所は膠で接着し、周囲の色みに近づけた補彩を行っている。

像内に収められていた1700年の修理銘札。三乗堂が修理を行ったことを記した修理銘札とともに胎内に戻す
欠失していた左手薬指を檜材で新補。経年後の像と馴染むよう、錆漆やアクリル絵具で古色をつける
右側のもも部と前腕外側の袖を檜材で新補。失くなった部材をつくり足すことを「新補」という
虫やネズミにより穴が開けられてしまっていた箇所は、檜材での補作や木屎漆を使い、自然なかたちに整えた
頭部の白色彩色が剝落していたため、「膠湿布」を施した。これは膠水を染み込ませた脱脂綿で汚れを吸い出しながら、彩色層を定着させる技法。膠湿布後、セルロースを塗布し、さらに彩色層の定着を図った
木地から浮き上がってしまった彩色層に、セルロースを塗布したり、隙間に注射器で注入するなどして、接着していく。この作業により、時代を経てきた像の雰囲気を損なわない修理が可能となる
像が手にしていたはずの宝珠が亡失していたため、檜材で新補。拭き漆、錆漆、つや消呂色漆の順に漆を塗り、金色加工技法のひとつ漆箔を施した後、アクリル絵具で古びた風合いに見せる古色をつけた
修理を終えた像を設置後、1700年に修理した際の修理銘札に加え、今回の修理銘札と「木造地蔵菩薩坐像」の保存修理事業に寄進した方の名前と願い事を記した巻物を、胎内に戻す。「300年後にまた、お地蔵さまを修理していただきたいですね」と玉野住職

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text: Nao Ohmori photo: Yoshihito Ozawa
Discover Japan 2023年3月号「移住のチカラ!/移住マニュアル2023」

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