第108代「後水尾天皇」
|20人の天皇で読み解く日本史
126代目の天皇が誕生した2019年。今も昔も日本の歴史は天皇がつくってきたといっても過言ではありません。天皇に焦点を当ると、これまでとは違う日本の姿が見えてくるはず。今回は、幕府の許可なく譲位を行ったものの、寛永文化の開花に大きく貢献した人物、後水尾天皇を紹介します。
第108代 後水尾天皇(ごみずのおてんのう)
生没年|1596–1680年
在位|1611(15歳)–1629(34歳)年
父|後陽成(ごようぜい)天皇
母|近衛前子(このえさきこ)
妻|徳川和子(とくがわまさこ)
幕府との確執に苦しむが
譲位後は文芸に励む
関ヶ原の戦いにより天下を平定した徳川家康の江戸幕府がスタートすると、戦国時代に友好関係を築いていた天下人と天皇との関係は変化。家康は「禁中並公家諸法度」を定め朝廷に強く干渉しはじめる。
「禁中並公家諸法度」は、これまで天皇だけに授与権のあった諸大名の官位を、幕府が自由に与えることができるようにするなど、朝廷と諸大名の関係を断ち切る規定や、幕府が朝廷人事に介入できることなどを制定した。朝廷は幕府の監視下に置かれ、天皇は政治や軍事から排除。主に宗教や文化面だけの形骸的な存在となる。
これに抵抗したのが、1611年に徳川家康が即位させた108代、後水尾天皇だった。もの言う天皇で、政治力にも長けていたという。家康は朝廷への警戒を強め、皇位継承にも介入。また、家康の方針を継いだ2代将軍・秀忠は、天皇との外戚関係をつくろうとして、13歳だった娘の和子を後水尾天皇に入内させた。
1627年には、紫衣事件が起きる。朝廷は、徳を積んだ高僧や尼に対して「紫の法衣」の着用を許してきたが、幕府は「紫衣は着用を許すときは、幕府に告知すべし」という規定に違反するとして、朝廷の勅許を受けた禅僧に対し、紫衣と勅許を取り消した。幕府は、朝廷が勝手に勅許を与えたことに厳重注意をする。
自らの勅許を破棄された後水尾にとっては屈辱であり、この事件から、さらに幕府への恨みを抱くようになったという。
また、腫れ物を患った後水尾は、その治療に効果のあるお灸を望んだところ、「天皇でいる間は玉体に傷をつけることができない」という理由で治療を拒まれたという。このことをきかっけに、1629年に突然譲位。自由に治療を受けられる道を選んだのだ。
幕府としては、次の皇子が生まれるまで譲位を待ちたかった。結局幕府の同意を得られないまま、後水尾は譲位を強行。こうして、の第二皇女が明正天皇として即位した。女性天皇の即位は、奈良時代の称徳天皇以来であった。後水尾は、その後、霊元天皇まで4代にわたって院政を敷いた。
譲位後、後水尾は仏道に精進するとともに学問と芸道に励み、寛永文化を開花させた。後水尾を中心とする朝廷が、封建制を強化する幕府に対抗するかたちで、京都を中心に古典文芸や文化を盛り上げ、本阿弥光悦らを庇護。後水尾の別邸として造営された、広大な庭園の修学院離宮は、寛永文化の代表的遺構とされた。
後水尾天皇は1680年、85歳で崩御。昭和天皇までは、最長寿の記録であった。
Point1
本阿弥光悦らを庇護
京都を中心とした寛永文化が花開く
江戸初期の寛永年間を中心とする文化で、後水尾天皇をはじめとする宮廷と上層町衆の間で盛り上がった寛永文化である。政治センスに長けていただけでなく文化面でも才能を発揮した後水尾天皇は、別邸として美しい庭園を有する修学院離宮を造営。芸術家の本阿弥光悦や松永貞徳ら文化人の支援にも熱心だったという。
Point2
芸術センス抜群の書院を建立
聖護院門跡に伝わる後水尾天皇建立の書院は、金箔で彩られた襖絵や幾何学模様の欄間、非常に高価であったギヤマン(ガラス)を施した格子などで飾られ、随所に芸術センスが光る。
〈天皇ゆかりの地〉
寛永文化を代表する建物
「修学院離宮」
後水尾上皇の離宮として造営。学問や芸術に通じた後水尾上皇が花開かせた寛永文化の中心となる。「修学院焼」と称される御庭焼きの釜で、好みの茶碗なども焼かせていた。
修学院離宮
住所|京都府京都市左京区修学院薮添
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supervision: Hirofumi Yamamoto text: Akiko Yamamoto, Mimi Murota illustration: Minoru Tanibata
Discover Japan2019年6月号「天皇と元号から日本再入門」