選りすぐりのモノを扱う「antiques tamiser」
大熊健郎の東京名店探訪
「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回は店主選りすぐりのモノとモノが調和し合い、美しい空間が広がる恵比寿のアンティーク店「antiques tamiser」を訪れました。
大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」 ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職。
www.claska.com
「モノを見る」と人は簡単に言うけれど、「見る」とはなかなか奥深い行為である。普段見るといっても、たとえばコップを前にして「ああ、コップね」といった感じで済ませてしまう。それは見るというより、ただ記号としてのモノを確認しているだけ、知識や情報、あるいは先入観で表面を軽くスキャンして終わり、といった感覚であろう。
民藝運動の提唱者・柳宗悦は「今見ヨ、イツ見ルモ」と言った。いつもはじめてそのモノに接したように見ること、感じることがモノの真の姿をとらえるために大事、ということだろう。ただこれがなかなか難しい。
「見る」ことがいかに詩的で創造的な行為であるかを訪れるたびに感じさせてくれる店がある。アンティークス・タミゼだ。扱うのはヨーロッパ各地を旅して仕入れてくるモノから日本のモノまで、店主の吉田昌太郎さんの「目」というフィルターにかけられた選りすぐりの古道具の数々。
2001年のオープン以来多くのフォロワーを生み続け、瞬く間に人気店となった。吉田さんの「目」に心酔する同業者も多く、著名なアーティストやデザイナーをも顧客にもつ。
陶磁器、ガラス、紙箱、木彫の聖像、金属製品など、骨董的価値のあるものから日用品まで、さまざまな素材、色、かたち、時代のものが混在しながらも、モノとモノが音楽を奏でるように調和し合い、店のそこかしこに何とも言えない詩情を漂わせている。大きなガラス窓から入る柔らかな光と店内に漂うポプリの香り、流れる音楽とによってモノが包まれ、店全体がまるでひとつのオブジェのよう。
それにしてもこれだけいろいろなモノがありながら、店のどこを切り取っても絵になるのは驚くばかり。モノそれ自体の美しさだけでなく、モノ同士の素材やかたちの関係性を見極め、それらが及ぼし合う効果を引き出す力があってこそ実現できる世界。もはやセンスとしか言いようがない。
さて店内を見渡して目に飛び込んできたのがこの美しいフォルムの鳥籠。パリが好きな人なら8区にあるグラン・パレをご存じだろう。鉄骨とガラスでできた美しい丸屋根を持ち1900年のパリ万博のために建設された建造物。まさにそのグラン・パレの丸屋根を思わせる色とかたちではないか! パリと鳥籠好きのわたくしは思わず興奮してしまった。
美しいモノに出合えるだけでなく、いままで知らなかった「モノの見方」に気づかされる場所、タミゼとはそんな店である。
antiques tamiser
住所|東京都渋谷区恵比寿3-22-1
Tel|03-6277-2085
営業時間|12:00〜19:00
定休日|日・月曜
http://tamiser.com
photo:Kiyono Hattori
2019年9月号 特集「夢のニッポンのりもの旅。」