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日本橋の刷毛とブラシの老舗「江戸屋」
大熊健郎の東京名店探訪

2020.7.7
日本橋の刷毛とブラシの老舗「江戸屋」<br>大熊健郎の東京名店探訪

「CLASKA Gallery & Shop “DO”」の大熊健郎さんが東京にある名店を訪ねる《東京名店探訪》。今回は創業300年を誇り、時代に合わせて数々の刷毛とブラシをつくり続けてきた専門店「江戸屋」を訪れました。

大熊健郎(おおくま・たけお)
「CLASKA Gallery&Shop “Do”」 ディレクター。国内外、有名無名問わずのもの好き、店好き、買い物好き。インテリアショップ「イデー」のバイヤー&商品企画、「翼の王国」編集部を経て現職。
www.claska.com

商店と暮らしがともにある「看板建築」は国の有形登録文化財にも指定

物であれ人間であれ、対象との距離感で見え方や感じ方は変わるものである。近過ぎてその価値に気づかないことは思いのほか多い。日本文化の魅力を海外の人によって気づかされる、といった話はそのいい例だろう。

たとえば江戸時代に生まれた浮世絵は当時の風俗画、いまならブロマイドや漫画のような大衆娯楽として普及したものだが、19世紀にヨーロッパで「発見」されたことでいまや日本独自の芸術様式として高く評価されるに至った。灯台下暗しとはよく言ったものである。

かくいうわたくしにも苦い経験がある。日本の道具や生活雑貨を扱う仕事をしていながら、外国人に「アメイジングな店」と教えられてはじめて知った道具の名店が日本橋にある。刷毛とブラシの専門店・江戸屋だ。

ところ狭しと店に並ぶ刷毛やブラシ。その数はなんと3000にも及ぶ。店は平日でもリピーター客で賑わい、求めた商品を30年愛用している方も

店をはじめて訪ねたときの興奮は忘れられない。いわゆる看板建築様式の風情ある店の佇まいもさることながら、一歩店内に足を踏み入れると数多のブラシが天井を埋め尽くすようにぶら下がり、壁面のショーケースには工芸品と見紛うばかりの美しい刷毛のサンプルが並ぶ。小さい頃、大好きだった駄菓子店に行ったときのようなワクワク感が突然よみがえってきたものである。

創業は1718(享保3)年。将軍家お抱えの刷毛師だったという初代利兵衛が将軍家から「江戸屋」の屋号を与えられ、刷毛の専門店として店を構えたのがはじまりだ。

創業以来、つくり続けている刷毛やブラシはいまも豚や馬、山羊、猪といった天然の毛を使う。太さや硬さ、コシなど、用途に応じて最適な毛を選ぶ。指先の感覚で行われる「手植え」や「植え込み」といった伝統技法は熟練した職人だけがもつまさに「技」といえよう。

暮らしに寄り添う 江戸屋の刷毛&ブラシ
津久毛という植物繊維を材にした「撫で刷毛」 5400円(左)、馬の毛の「目地ブラシ」108 0円(右上)、人毛でつくるという「漆刷毛」2592円〜(右下)

とはいえ伝統の踏襲だけでは300年という時の風雪に耐えられるものではないだろう。今日も名店としての江戸屋があるのは伝統への信頼を置きつつ、常に時代の変化に伴い生じるニーズに対応してきた未来志向の姿勢にある。

古くはお台場にあった大砲用のブラシから、近年ではIT機器の洗浄用ブラシといったものまで、時代時代の要請に応じて、専門性の高いブラシを数多くつくり続けてきた。その数、いまや3000種を超えるという。

それにしても刷毛やブラシの姿の美しいこと。機能に特化し、無駄がなく、必然性から導き出されたかたちには、デザインのエッセンスが詰まっている。デザイン好き必見の店とも言っておきたい。

江戸屋
住所|東京都中央区日本橋大伝馬町2-16
Tel|03-3664-5671
営業時間|9:00〜17:00
定休日|土・日曜、祝日
www.nihonbashi-edoya.co.jp


photo:Manami Takahashi
2019年10月号 特集「京都 令和の古都を上ル下ル」


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