徳川家のお墨付きの
やげん堀《七味唐辛子》
前編|日本人のソウルスパイスのルーツを探訪
塩やコショウと並んで、食卓の定番の調味料といえば七味唐辛子。実は七味唐辛子こそ、日本で生まれた先駆的な混合スパイスなのだ。しかしそもそも、なぜミックスし、なぜここまで定着したのだろう?今回、元祖として言い伝えられる、400年続く浅草にある老舗・やげん堀を訪ねた。
やげん堀の七味唐辛子
全国屈指の観光地として知られ、昨今はインバウンドに沸く浅草だが、実は意外なほど、暮らしに根ざした専門店が健在な街でもある。鶏肉や牛肉の専門店、味噌店や乾物店、刃物店やたわし店……。浅草寺からほど近く、賑わう新仲見世通りに店を構える「やげん堀」もまた、昔気質の堅実な商いを続けてきた専門店のひとつだ。

こぢんまりとした店内は、外国人観光客の姿も見られるものの、いかにも地元といった普段着の人たちが次々やってきては、手早く買い物を済ませていく。
「馴染みのお客さまは『いつものね』とか、『七色ちょうだい』とおっしゃいますね。七味唐辛子は風味と香りが命なので、私どもは少量で販売し、なるべく早めに使い切ることをおすすめしています」

そう話すのは、営業販売部の相楽知江さん。社歴18年になる相楽さんは、2年前までは販売員として店頭に立ち、お客の声に耳を傾けてきた。
「日常使いの品だからこそ、もしも味が落ちたら、お客さまはすぐに気づくでしょう。袋詰めの商品も、7種の薬味は店頭で調合して、鮮度のよいうちに販売することを心掛けています」
江戸では“七色”と呼ばれ、
日本の食卓の定番に。

先の話にあった「七色」とは「七色唐辛子」の略で、これがもともと、江戸の町での七味唐辛子の呼び名だったという。一方の「七味」は、元は上方(関西)での呼び名。現在のやげん堀では、商品には「七味唐辛子」と記載しているものの、浅草の人々の中では、いまだ江戸流の呼び名が生きているというわけだ。
〈麻の実〉
医薬品の詳細をまとめた『日本薬局方解説書』(以下『局方解説』)によると、瀉下作用を目的とした漢方処方に配合。ヒトの身体では合成できない必須アミノ酸9種を含む、スーパーフードとして注目されている
〈けしの実〉
けしの種子。香ばしい風味で、お菓子やあんぱんのアクセントにも使われる。オレイン酸や食物繊維、ビタミン群が豊富。微量に含まれるアルカロイドには、神経を鎮める効果があり、心の平穏を促すとされている
〈粉山椒〉
『局方解説』では健胃薬。食欲がわいて胃腸の働きを改善し、殺菌効果があり、食中毒予防によい。新陳代謝や血行もよくなる。漢方ではお腹にたまったガスを取る駆風作用があり、また薬膳では身体を温めるとされる
〈唐辛子〉
やげん堀では、焙煎の度合いを違えた2種の唐辛子を使っているが、こちらは焙煎が浅いほうで、より辛みが強い。唐辛子には身体を温める効果があり、身体を冷やすそばと合わせるのは理にかなっているとされる
〈焼唐辛子〉
焙煎が深いほうの唐辛子。香り高く、旨みがある。『局方解説』では、唐辛子の本質は芳香健胃薬原料と位置づけられる。唐辛子特有の成分であるカプサイシンは、少量とると、胃粘膜の血流を増す効果がある
〈陳皮〉
『局方解説』によると、温州みかんなどの成熟した果皮を乾燥したもので、本質は健胃薬。古典的文献によれば、配合されるほかの薬味の効果を引き出すとされる。少量をとるのがよいので、七味唐辛子には適した薬味
〈黒ゴマ〉
『局方解説』によると、漢方処方薬であり、老化防止や気力を高めることを目的として配合される。やげん堀では、焙煎後に半ずりにしているが、そうすることで香りがよくなり、栄養成分を身体に取り込める
人気を後押ししたのは徳川家?

では、この七色唐辛子が、いつ誰によって発明されたかといえば、それが記された文献は現存しない。やげん堀に伝えられていた史料も、関東大震災と戦災によって失われてしまった。しかしながら、かつて使われていた売り口上には、「寛永二年長月(1625年の旧暦9月)、三代将軍・徳川家光の時代に、将軍家に献上したところ大変気に入られ、徳川の徳の字を賜って『山徳』の商標をつけることになった」とある。
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400年続く
七味唐辛子の伝統に迫る!
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text: Shiori Kitagawa photo: Atsushi Yamahira
2025年11月号「実は、スパイス天国ニッポン」



































