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《連載第1回》
世界的クリエイターが集結!
赤福の「おかげ座」リブランディング始動
|オカゲ屋敷-メイキング・ストーリー-

2025.11.28
<small>《連載第1回》</small><br>世界的クリエイターが集結!<br>赤福の「おかげ座」リブランディング始動<br><small>|オカゲ屋敷-メイキング・ストーリー-</small>

2033年の式年遷宮に向けて、2025年より準備がはじまった伊勢神宮。そのお膝元である伊勢内宮前の鳥居前町にある「おかげ横丁」でも遷宮を見据え、新たなプロジェクトがスタートした。伊勢の名物・赤福が手掛けるプロジェクトの始動から完成までの道のりを、5回シリーズで掲載する。

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いまも参拝者をもてなす「おかげ横丁」は、
どのようにして生まれたのか

三重県伊勢市に鎮座する伊勢神宮は「心のふるさと」といわれ、約2000年の長きに渡り日本人の総氏神とされる天照大御神を祀り続ける聖地だ。江戸時代には空前の旅行ブーム“おかげ(お伊勢)参り”が起こり、当時の総人口のうち6人に1人が訪れたといわれる、庶民憧れの地となった。おかげ参りの名前の由来は、「すべての暮らしが“神さまのおかげ”=神恩感謝」という信仰心が深く根づいた伊勢の人々のもてなしの「おかげ」によって、旅人たちが無事伊勢神宮にお参りできたことから、いつしかこう呼ばれるようになったともいわれる。

おかげ参りの終着点としてにぎわう伊勢内宮参道沿いに約300年前より店を構え、名物の「赤福餅」で旅人の疲れを癒し、空腹を満たしてきたのが和菓子店・赤福だ。この赤福が、現在年間約500万人が訪れる「おかげ横丁」の生みの親であることをご存じだろうか?

この横丁は「伊勢らしいおもてなしの場の復活」を掲げた赤福の全面プロデュースにより1993(平成5)年に誕生、いまや全国有数の観光スポットとなっている。内宮近くに広がる約4000坪の敷地に、「おかげ参り」が流行した江戸~明治期にかつてあった伊勢路やその近隣の建物を移築・模築して町並みを再現。それぞれの建物では飲食店や土産店が営まれ、三重の豊かな衣食住に出合える仕掛けとなっている。

「おかげ座」のリブランディングを進めていくにあたって、ビジュアルも検討が進められている。今後、どのようにかたちづくられていくか楽しみに待ちたい

その「おかげ横丁」の中核施設「おかげ座」で現在、リブランディングプロジェクトが進行中だ。参画するのは、「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」のパビリオンなども手掛けた世界的ビジュアルデザインスタジオ・WOWと、1970年の日本万国博覧会(大阪万博)を支えたメンバーによって創業された文化施設開発で国内外に知られるトータルメディア開発研究所、そしてDiscover Japanだ。

WOW inc. ディレクター
大内裕史(おおうち ひろし)映像、インスタレーション、アプリケーション、空間演出など、メディアを横断した表現活動を得意とする。文化施設や国際イベントにおける空間・体験デザインを中心としたプロジェクトに携わる。代表作に、大阪・関西万博「BLUE OCEAN DOME」、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「そのとき、どうする?展 –防災のこれからを見渡す–」、ミラノサローネ「Canon NEOREAL WONDER」などがある。

WOW inc. プロデューサー
稲垣拓也(いながき たくや)
主に地方の企業、官公庁案件を担当。企業や大学との研究開発や、映像、インスタレーションを多数プロデュース。近年は教育への取り組みや、地域の文化を発信する展示など、ローカルなクリエイター/職人/郷土文化の伝承者らと協働し、ビジュアルデザインによってローカルの課題を解決するべく取り組んでいる。

トータルメディア開発研究所 プロジェクト事業本部 西日本事業推進第2部 部長
島村昌志(しまむら まさし)
2005年、トータルメディア開発研究所入社。プロジェクト業務推進を牽引。子どもから大人まで居心地のよいサードプレイスとしてのミュージアムや展示空間を目指して、公共、企業のミュージアムやイノベーションセンターなど幅広いプロジェクトに携わる。オカゲ屋敷プロジェクトでは、展示ソフトと展示制作の橋渡し役としてプロジェクトマネージメントを担当。

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赤福とトップクリエイターとの
出会いは必然だった!?

もともと「おかげ座」は、江戸時代の“おかげ(お伊勢)参り”について知ってもらうための歴史館として建てられた。おかげ参りは、内宮前の鳥居前町の成り立ちに欠かせない存在だからだ。おかげ座という名は、伊勢の歓楽街・古市にあった芝居小屋をモチーフとした建物にちなむ。そして2015年頃、伊勢神宮のお膝元として神話に登場する神さまについて知識を深める「おかげ座 神話の館」としてリニューアルを遂げる。しかし、その後、2020年以降新型コロナウイルスの大流行により、「おかげ横丁」全体が2度の閉鎖を余儀なくされるなど厳しい状況が続いた。その中でおかげ座 神話の館の集客力が大きな課題として浮き彫りとなった。

ちょうどその頃新たに経営へ参画した赤福の現代表で11代目女将の濵田朋恵さんは、おかげ座神話の館を「日本人の心のあり方、おかげさまの精神を伝える場所」として生まれ変わらせたいと考えはじめる。ただそれを具体的にどうかたちにするか思いあぐねていた濵田さんに、WOWの存在を知らせるきっかけをつくったのが、太鼓奏者の山部泰嗣さんだったという。山部さんは伝統芸能に造詣が深く、おかげ横丁の名物パフォーマンスを行う太鼓チーム・神恩太鼓に指導者としてかかわっていた。

東北の伝統行事や祭りをモチーフに、人間以外の存在に“化ける”という行為をインタラクティブな映像表現で体験することができる作品「BAKERU」

WOWは、「目に見えるものすべてがデザインの対象」というスタンスの下、世界で活躍するビジュアルデザインスタジオ。そのWOWが2017年に発表した、東北の伝統行事をモチーフにした体験型のインスタレーション作品『BAKERU』が、強く印象に残っていた山部さん。そのエピソードを聞いていた濵田さんは、赤福スタッフとともにWOWが手掛けてきたさまざまな作品を視聴し、心を掴まれたという。

©︎EXPO2025
大阪・関西万博で話題となったふたつのパビリオン、落合陽一氏がプロデュースする「null²」と「BLUE OCEAN DOME」のクリエイターチームに参画したWOW
©TAIKI FUKAO

一方、1997年に宮城県仙台市で創業というルーツをもつWOWは、2017年以降、東北に根差した作品を次々と発表。BAKERUを皮切りに、伝統玩具のこけしをテーマにしたプロジェクションマッピング『YADORU』などの作品群や東北の祝祭行事をテーマにした映像インスタレーション『祝彩風祭しゅくさいかぜまつり』など枚挙にいとまがない。つくり貯めたこれらのコンテンツに関心を寄せてくれる企業や団体が日本のどこかにいないだろうか……とWOWサイドでも探していた。

こうして、2023年7月に出会うべくして出会った赤福とWOW。ただ今回のプロジェクトにはコンテンツ制作にとどまらず、施設の運営管理の実績をもつパートナーを必要とした。そこでトータルメディア開発研究所に白羽の矢が立つ。

WOWとトータルメディア研究所がタッグを組むきっかけとなった体験・体感型施設である、北九州市科学館「スペースLABO」

トータルメディアとは、2022年にオープンした北九州市科学館「スペースLABO」でWOWとともに展示制作を行った間柄。綿密な時代考証に基づく「情景再構成」を得意とする空間制作に定評があり、博物館などでの施設運営も行うトータルメディアに声をかけたのは2023年9月。すると、トータルメディアの島村昌志さんが「実は、最初に『おかげ横丁』をつくったのは弊社なんです」という驚くべき事実を明かした。なんでも三十数年前、トータルメディアが手掛けた東京・江東区の深川江戸資料館を見て感激した10代目・赤福社長が、自ら訪れ、仕事を依頼したのだという。

江戸時代末期の天保年間頃の深川佐賀町の町並みを想定復元した「情景再現、生活再現展示」が特色の深川江戸資料館は1986(昭和61)年に開館
https://www.totalmedia.co.jp/works/works1986_fukagawa-edo.html
(トータルメディア開発研究所実績レポートより)

「伊勢に呼ばれる」という言葉がある。これは神さまのご縁によって伊勢神宮への参拝の機会が訪れることを意味する。今回もまるで「伊勢に呼ばれた」ようにプロジェクトを担うことになったWOWとトータルメディア。そしてDiscover Japanもブランディングアドバイザーとして参画する。これから令和版の「おかげさまの精神」をどう落とし込み、かたちにしていくのか? その詳細は、2026年1月末ごろ公開予定の第2回記事以降で明らかとなる。

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text: Makiko Shiraki(Arika Inc.) photo: Tomoaki Okuyama, Kenji Okazaki


≫観光まちづくりの原点は、三重・伊勢《おかげ横丁》にあり! 前編|赤福300年の歴史から見た「お伊勢参り」とは?
≫観光まちづくりの原点は、三重・伊勢《おかげ横丁》にあり! 後編|伊勢の歴史や風土、食文化と出合う。

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