TRADITION

江戸の庶民を魅了した
「街道・旅」の娯楽作品5選【前編】
|江戸時代の旅の歴史

2025.10.6
江戸の庶民を魅了した<br>「街道・旅」の娯楽作品5選【前編】<br>|江戸時代の旅の歴史

日本ではじめて庶民の旅行が本格化したのは、江戸時代中期頃。全国各地に敷かれた街道が整備され、宿場町が発展したことに端を発する。当時の文学や美術をひも解くと、一世一代の冒険に沸き立つ人々の期待が見えてくる。今回は、「街道・旅」を主題とした江戸時代の作品について、歴史家・安藤優一郎さん監修のもと5つご紹介!

監修=安藤優一郎(あんどう ゆういちろう)
1965年生まれ。歴史家。早稲田大学大学院文学研究科後期課程満期退学。「JR東日本・大人の休日倶楽部」の講師や江戸にかんする執筆活動など、幅広い分野で活躍中。著書に『江戸の旅行の裏事情 大名・将軍・庶民 それぞれのお楽しみ』(朝日新聞出版)など多数。

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“道・旅”を主題にした作品が
江戸の世を席巻!

江戸の庶民を虜にしたのは浮世絵だけにとどまらない。文学作品にすごろく、ガイドブック……。“道”と“旅”をテーマにした作品が続々と登場し、最先端の娯楽として親しまれていた。

『東海道中膝栗毛』は、旅先の庶民の様子や暮らしを赤裸々に描いた、大衆向け小説の金字塔的作品。庶民の旅行ムードは、ここから高まったといっても過言ではない。

与謝蕪村『奥之細道 上巻』(部分)/国立国会図書館デジタルコレクション

松尾芭蕉による紀行文『おくのほそ道』も、言わずと知れた旅を題材にした紀行文学作品。まだ整備が不十分だった頃の奥州街道をゆく、江戸時代の旅文学の先駆的作品だといえる。

一立斎広重『浮世道中膝栗毛滑稽双六』/国立国会図書館デジタルコレクション

街道はゲームの題材にもなった。「道中双六」は街道や名物、宿場町の風景やそこに暮らす人々の様子が描かれた多色刷りのすごろくのこと。大人から子どもまでが気軽に旅気分を味わえる娯楽として大ヒットした。

さらには旅行の心得をまとめたガイドブックも登場。中でも1810年に刊行された『旅行用心集』はそれらの集大成といえる。旅に出るときの服装や持ち物、気をつけるポイントなどが細かくまとめられている。

このように、旅行の流行と出版文化の発展は密接にかかわっていたことがわかる。五街道の整備に端を発した江戸の旅行ブームは、いまにも続く観光や文化をかたちづくったのだ。

01|東海道中膝栗毛
東海道の珍道中を描く大ベストセラー

随所に挿絵が添えられた形式。上の絵は、二人が小田原宿の旅籠で五右衛門風呂に浸かった際、弥次さんが風呂の使い方を知らなかったために、風呂釜の底を下駄で踏み抜いてしまう場面
十返舎一九『東海道中膝栗毛』/国立国会図書館デジタルコレクション

1802年出版の十返舎一九による滑稽本。栃面屋弥次郎兵衛(通称:弥次さん)と喜多八(通称:喜多さん)の主人公二人による、江戸・神田八丁堀からお伊勢参りへ向かう東海道の珍道中。宿場間の名所や自然などの描写は省き、旅先で出会う庶民や宿の姿、名産品をユーモラスに描くことに徹している。約20年続く空前の大ヒット作に。

02|おくのほそ道
旅行文学のパイオニア的存在

芭蕉の旅は約2400㎞、約150日間の長い道のりだった。敬愛する歌人・能因や西行が詠んだ歌枕(名所)を訪ね、50句を残している。上の絵は画家・与謝蕪村が本文を書写し、俳画を描き加えたもの
与謝蕪村『奥之細道 上巻』(部分)/国立国会図書館デジタルコレクション

1702年刊行の、松尾芭蕉による俳諧・紀行文。1689年、芭蕉は江戸から日光・奥州街道を北上。奥州と北陸地方をめぐり、敦賀を通って美濃大垣で旅を終えた。旅行ブームの最盛期から約100年前に発表された、旅を題材とした文学の草分け的存在といえるだろう。

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【後編】
道中双六や旅行用心集など!

 
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text: Discover Japan
2025年8月号「道をめぐる冒険。」

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