陶芸家《内村宇博》
天体のような結晶釉が美しいうつわ
陶芸家・内村宇博さんが生み出すのは、一見偶然のように見えて実は緻密に計算された結晶釉の美しいうつわ。ミクロの世界に宿る自然の秩序と、人の手による数理的なコントロール。その二面性が共存する、唯一無二のうつわとは?
内村宇博(うちむら・たかひろ)
1988年、静岡県生まれ。武蔵野美術大学造形学部 工芸工業デザイン学科陶磁専攻卒業後は愛知・常滑市に移り、吉川千香子氏に師事。2016年に独立し、同市内にて作陶を続ける。
あいまいな表情が暮らしにフィットする

土を触っていると、不思議と心が落ち着くのだとか。どの工程も楽しくて仕方がないため、繁忙期以外はアシスタントをつけることなく一人で行っている
作家には、ものづくりへの動機づけが強くあるタイプと、つくることに楽しみを覚えるタイプがいると語る内村宇博さん。「どちらかといえば僕は後者。つくることは楽しいけれども、じゃあ何をつくりたいのかと聞かれると、強く主張したいことが見つからない時期もあって」と、美大に進んだ理由も食とデザインを仕事にしたいと思ったためなのだそう。
陶土にはじめて触れたのも大学時代だというが「描いた図面を誰かにつくってもらうデザイナーではなく、自分で素材を選び、ゼロからつくり上げる陶芸に魅力を感じたんです」と、授業で焼物に出合った瞬間に自身の中で何かが腑に落ちたと話す。「子どもの頃から田植えを手伝っていたこともあり、手に触れてものをつくる体験が記憶の中に残っていて。田んぼ特有の匂いも、自然と身についていたのかもしれませんね」と、泥にまみれた農作業は陶芸家・内村宇博さんの原体験ともいえる。

焼成時に生まれる、天体のようにキラキラとした結晶や、広がりを感じるまだら模様。内村さんの持ち味である結晶釉による意匠は一見すると直感的に見えるが、実際は意図した変化が窯の中で起こるよう、釉薬のかけ具合などを綿密に計算している。「陶芸はエモーショナルな部分もあれば、緻密に計算した数字に左右される部分もあって。真逆のことが共存するバランス感覚がおもしろいと感じています」と、どちらに比重を置くのかは作家次第。それこそが作風をかたちづくっているのだ。
当の内村さんはといえば「7対3で数字が勝る」というが、そのきっかけはミクロの世界に宿る美しい規則性に触れたことにさかのぼる。「焼成前と後の焼物の姿を電子顕微鏡で見せていただいたときに、ミクロの世界でも釉薬は階層構造による奥行きがあって。目に見えない世界にも広がりがあるのだと感銘を受けて以降、それらをテーマに取り組んでいますね」と、人知れず営まれている自然の法則を暮らしの道具に落とし込んだ作品こそ内村さんの真骨頂。
「強く主張したいことの話にもつながりますが、僕の作品は誰かがうつわとして活用したときに、はじめて完成するんです。そういう価値観が自分にはしっくりくるし、喜びを感じるんです」と、主張は控えめながらも作品は唯一無二。計算し尽くされているにもかかわらず人間味が滲む。そんな内村さんの作風は、二面性が共存する陶芸の本質といえるのかもしれない。
作品ラインアップ

艶消把手付瓶
立体物の場合は焼成時に釉薬が下へと溶けてしまうため、流れ落ちた部分が余白として成り立つような意匠を心掛けている。

平皿L 飴緑
下地が替わると同じ釉薬でも見え方が変わることから、本作品では一段暗いトーンに焼き上がるよう化粧掛けを施している。

平皿L 濃青
青い皿には補色に近いトマトなどの赤い食材をのせて。食材とうつわのコントラストを楽しむと、盛りつけの幅が広がる。
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Discover Japan Lab.
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text: Natsu Arai photo: Shiho Akiyama
2025年8月号「道をめぐる冒険。」


































