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現代美術館《ラビットホール》
岡山の城下町街道に、 アート誕生。
前編|文化交流を生んだ旧山陽道はいまも文化の発信地に!

2025.7.25
現代美術館《ラビットホール》<br>岡山の城下町街道に、  アート誕生。<br><small>前編|文化交流を生んだ旧山陽道はいまも文化の発信地に!</small>

西日本の交通と物流の要衝だった山陽道は、人やモノが交流し、岡山城の城下町では独自の文化が花開いた。岡山市北区丸の内に誕生し、城下町の歴史を見つめながら街と共存する「ラビットホール」は、新しい価値観を常に提示し続ける現代アートに特化した“生きた美術館”だ。この地に誕生した新たな芸術拠点が目指す未来とは――。

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岡山に誕生した新たな芸術拠点
現代美術館《ラビットホール》

兵庫から広島を経て九州に至る山陽道は、かつて西日本を結ぶ主要な街道であり、岡山は宿場町や中継地として機能していた交通と物流の要衝だった。江戸時代、岡山城下には商人や職人、旅人が集まり、政治や経済の中心として栄え、茶道や陶芸といった独自の文化が育まれた歴史をもつ。

ラビットホール1F
林原美術館の石垣が見える設計は、地域の文脈を感じさせる。右奥のミカ・タジマ氏『NEW HUMANS』は情報化社会の現代における不安定な「自己」を表現した磁性流体が不思議な視覚体験をつくる

現代において岡山を含む瀬戸内エリアは、「瀬戸内国際芸術祭」をはじめ現代アートの聖地として国内外から注目を集めている。その中で、今春、現代美術館「ラビットホール」が産声を上げた。立地は岡山城や風光明媚な岡山後楽園、日本や東洋の宝物を展示する林原美術館などが建ち並ぶ岡山市中心部のカルチャーゾーン。手掛けたのは、石川文化振興財団だ。

石川康晴(いしかわ やすはる)
ストライプインターナショナル創業者。イシカワホールディングスCEO・石川文化振興財団理事長として岡山の地域活性化と経済振興のための貢献活動を行う。「茶下山」オーナー。岡山芸術交流総合プロデューサーを務める

理事長であり起業家の石川康晴さんは20代の頃から現代アートの無限の可能性に魅せられ、個人の範囲を超える数の作品を蒐集。岡山市と共創した「Imagineering OKAYAMA ART PROJECT」をはじめ、3年に一度開催される現代美術の国際展「岡山芸術交流」、アートを街に解き放つA&C(アート&シティ)など多彩な取り組みで、この地に現代アートの新風を吹き込んでいる。

「歴史や文化の文脈を尊び、地域の人を笑顔にするアートを中心とした街づくりで岡山に新たな魅力を生み出したい。その想いが根底にあります」

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感性を心地よく刺激する空間とは?

石川さんの想いは、まず建築に表れている。古くより岡山でアートを収集してきた実業家の林原家が所有していたルネサンスビルを美術館へとコンバージョン。ルイ・ヴィトンのメゾンなどを手掛けた建築家・青木淳氏が改修を行い、城下町の歴史を伝える石垣と共存し、アーティストの創造性を尊重する余白を大切に、極限までにシンプルな空間が生み出された。

ラビットホール2F
ポール・マッカーシー氏の大型作品『Children’s Anatomical Educational Figure』(右)は、子どもらしい無邪気な表情に反して、飛び出た内臓で、大人が子どもに伝える身体や暴力の概念を表現

展示するのは、コンセプチュアルアートを中心とした国内で最も特徴的な「イシカワコレクション」。金沢21世紀美術館のチーフキュレーターを務めた黒澤浩美氏、ギャラリスト・那須太郎氏、建築家・青木淳氏、そして石川さんといった専門性の異なる4名の「ディレクター・コレクティブ」が運営する体制がユニークだ。現在、開館記念展としてフィリップ・パレーノ氏、ヤン・ヴォー氏といった20名のアーティストの作品36点を展示する「イシカワコレクション展|Hyperreal Echoes」が開催されている。

ラビットホール3F
魚型のヘリウム風船が浮遊し、自由に触れられるフィリップ・バレーノ氏の『My Room Is Another Fish Bowl』。展示室全体が水槽のような区間となり、知覚体験を通じてアートの概念が拡張される

「インスタレーションや彫刻など大型のアートピースが中心です。革新性を響かせながら、現代の政治や行き過ぎた資本主義、ジェンダー問題などについての思考を呼び起こすトリガーになるようなキュレーションを意識しました」と石川さん。

その空間は、未来につながる創造性と感性を心地よく刺激する。

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巨大アートから知覚体験まで、
「思考を愉しむ」36作品が展示!

『Marquee』(2014)/フィリップ・パレーノ
オーセンティックなアメリカの映画館をイメージした電球と最先端プログラミングを融合させ、新旧が交差する瞬間が表現されている。

『We The People(detail)Element #D3』(2011)/ヤン・ヴォー
ベトナム人作家が自由の女神を再現した断片で、アメリカの自由主義を問い、ウクライナ侵攻やイラン攻撃など戦争への思考へとつながる。

『Kitchen Set』(2003-2007)/ポール・マッカーシー
ケチャップやオリーブオイルの残りなどゴミをチェスの駒に見立てて戦わせることで、行き過ぎた消費主義を痛烈に揶揄した挑戦的な作品。

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アートだけではなく
食文化や教育の発信地でもありました。

 
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ラビットホール
住所|岡⼭県岡⼭市北区丸の内2-7-7
Tel|086-230-0983
開館時間|10:00〜17:00(最終入館16:30)
休館日|⽉・⽕・水曜(祝⽇の場合は開館)、年末年始、展⽰替期間
料金|⼤⼈ 1500円、18歳以下無料
※「イシカワコレクション展|Hyperreal Echoes」は約3年の長期展示
Instagram|@therabbithole_okayama

現代美術館《ラビットホール》
岡山からはじまる瀬戸内文化ツーリズム

01|現代美術館《ラビットホール》とは?
02|食文化や教育の発信地の役割
03|アートを起点とした岡山観光の未来
04|名建築と食を愉しむ11の観光スポット

text: Ryosuke Fujitani photo: Sadaho Naito
2025年8月号「道をめぐる冒険。」

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