宮﨑香蓮、佐賀・唐津の文化と未来に出合う旅へ。
後編|佐賀県知事・山口祥義×宮﨑香蓮 特別対談
文化や歴史の観点から唐津の魅力を再発見した宮﨑香蓮さんに、山口祥義知事が佐賀をより深く知ってほしいと実現した対談。“本物”志向の人にこそ響くと語る、知事の真意とは。
宮﨑香蓮(みやざき かれん)
1993年、長崎県島原市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。2006年、全日本国民的美少女コンテスト演技部門賞を受賞し、デビュー。テレビや映画、CMなど幅広く活躍中。2021年、島原ふるさとPR大使に就任。
山口祥義(やまぐち よしのり)
1965年生まれ。本籍は佐賀県。東京大学法学部卒業後、総務省(旧自治省)に入省し、危機管理や過疎問題に取り組む。JTB総合研究所、東京大学教授などを経て、2015年に佐賀県知事に就任。
人のつながりが生む文化
その集大成は佐賀にあり
今回、地域に根づく文化をテーマに唐津をめぐった宮﨑さん。旅の最後に、地元愛にあふれ、佐賀の魅力を広めたいと尽力する佐賀県知事・山口さんと対談の機会を得た。「黄金の茶室」、「中里太郎右衛門陶房」など、宮﨑さんが訪ねた場所に触れ、「唐津のいいところ、しっかりめぐってくださっていますね」と笑顔で切り出した山口さん。二人が語る佐賀の真の魅力とは?
宮﨑 名護屋城のことは歴史の勉強で少し知っていましたが、現地に足を運んでお話をうかがう中で、150以上の大名が全国から集まった場所であることに驚きました。徳川家康、伊達政宗など、名だたる武将も訪れ、さまざまな文化が集まっていたんだと実感しましたね。
山口 当時は20 万人以上の人で賑わっていた大都市ですから、私たちの想像を超える活気あふれる場所だったと思います。それだけ多くの人々が集まり、全国の大名が陣屋(屋敷)を築いたということは、きっといろんな交流があったはず。現代のようにインターネットやSNSがない時代なので、「あなたの地域にはこんな食べ物があるんだ」、「変わった風習があるね」といったやりとりがあったはずです。また、名護屋城が栄えた7年間は、海外との交流も盛んに行われたようで、まさに文化の大交流会が行われていました。いまでいう大規模な国際見本市のような場所だったからこそ、さまざまな文化のはじまりの地になったと、私たちは考えています。
宮﨑 今回見学させていただいた黄金の茶室は、豊臣秀吉がさまざまな大名や外交使節を招いたとうかがいました。きっと、あの茶室の中では、多様な文化交流がなされていたんでしょうね。茶の湯の世界では、身分の上下関係なく、みんな平等というお話もとても興味深かったです。
山口 今春、黄金の茶室のお披露目と同時に、各流派による茶席や能楽、講談、鷹匠の実演など、武将が愛した芸能に触れる「名護屋城大茶会」を開催しました。なぜ、歴史や文化を踏襲するイベントにしたかというと、佐賀は“本物”を大切にしているからです。黄金の茶室の製作でも、史料や文献を参考に、文化庁の協力もいただきながら、忠実に再現しました。私たちが大切にしているのは表面的な魅力ではなく、本質的な価値を追求すること。そうした意味では、佐賀には本質を体感できるヒト・モノ・コトがたくさんあると思っています。
宮﨑 中里太郎右衛門陶房におうかがいさせていただいた際も、“本質”を端々に感じました。約430年続く窯元が歩んできた歴史・文化を肌で感じられたのは、本当に貴重な体験になりました。中里先生のご厚意で、特別に約400年前の茶盌でお茶をいただいたのですが、あのような体験はめったにできるものではありませんよね。
山口 それが、伝統を大切にしてきた佐賀の強みです。そうした体験を皆さんにお届けしようと、「USEUM SAGA」というガストロノミーイベントを開催しています。一流の料理人が佐賀の食材を調理し、人間国宝がつくった作品でサーブし、味わう。美術館などで飾られるようなうつわで楽しめるのは、唐津や有田、伊万里など多くの焼物産地を有する佐賀ならではです。
宮﨑 食、工芸、人の文化に触れられる、そんな贅沢なイベントがあるんですね! すごく気になります。
山口 実は、イベントなどで一度佐賀を訪れたことをきっかけに、何度も足を運んでいただく方が非常に多いんです。それだけ佐賀には何度も訪れたい理由があるんだと誇りに感じています。加えて、そうした方々の多くは、本質的な価値や根源的な豊かさを求めている。佐賀が大切にしている“本物”に魅力を感じていただいていると思うと、とてもうれしいですね。
宮﨑 今回、さまざまな文化が宿る場所をめぐってみて、すごく元気をいただきました。もっと佐賀のいろいろなところに行ってみたいと素直に思いました。
山口 私たちは“唯一無二”ということを大切にしていて、この地にしかない体験や交流を通して、佐賀の素晴らしさを感じていただきたいと思っています。“本物”に触れる体験は、それ自体が財産になりますから。また、人は人とつながらないと生きていけません。そして、文化はそうしたつながりの中で育まれるものです。さまざまな文化が花ひらいた佐賀で、豊かな生き方について考え、自分を見つめ直してみるのも、ひとつの楽しみ方ではないでしょうか。
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text: Tsutomu Isayama photo: Norihito Suzuki
2022年10月号「旅で、ととのう。」