《松之山温泉 ひなの宿 ちとせ》
里山の温泉宿で湯治文化に触れる|前編
長期滞在者が集う社交場として花開いた湯治文化は、いつしかマスツーリズムの温泉旅行へと変化。だがワーケーションが注目される昨今、松之山温泉の老舗宿は原点回帰とも呼べる滞在を提案する。
日本三大薬湯・松之山温泉とは?
およそ1200万年前の地殻変動によって閉じ込められたとされる化石海水が起源。薬品に似た香りを放つ湯には温泉基準値の15倍の成分が含まれており、古くから人々を癒してきた
温泉data
泉質|ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(高張性弱アルカリ性高温泉)
泉温|88.7℃
湯の色|透明
加温|なし
“熱の湯”の異名をもつ
薬湯に浸かる現代湯治
フローリングが多い現代においても、素足で歩く畳の感触はどうにも心地がよい。明治28年創業の松之山温泉を代表する「ひなの宿 ちとせ」は、到着早々にそんな開放感をもたらしてくれる温泉宿。エントランスをくぐるとロビーから客間、ひいてはエレベーターの中まで畳が敷き詰められており、滞在中は煩わしい靴の脱ぎ履きから解放されるところも一興だ。
「この地域には旅から帰ると“はばき脱ぎ”という風習があったんです」と話すのは、宿の当主である柳一成さん。はばき脱ぎとは、長旅から帰った際に脛(すね)に巻いた脚絆(きゃはん)を外して安堵のため息をつくことで、ひなの宿 ちとせでは2012年のリニューアル時に、この風習を元に全館畳敷となった。「お部屋から裸足のままふらっと浴場へ行き、気軽に温泉に浸かれるところがいいと言われます。松之山温泉の泉質は塩分が多く熱が身体の内に滞留するので、長湯だけには気をつけて」と、館内3カ所の浴場を上手に使い分けた分割浴をおすすめする。上杉謙信公の隠し湯とも呼ばれる薬湯で、心ほぐれる現代湯治を体感したい。
好きなだけ浸かりたい、3つの浴場
厳しい雪里のストーリーを
おもてなし料理に昇華
地元旅館などが手を組む旅行会社「松之山温泉合同会社まんま」の代表でもある柳さん。「松之山で一番美味しいものは何だろうと皆で考えた結果、やはり棚田米だ」と、米処としての魅力を再確認。そこから生まれた名物が「棚田鍋」であり、旅館で炊かれた余剰ご飯からつくられるためフードロスにも貢献している。ほか冬季のビタミン源である大根菜や、貴重なタンパク源であった鯉など、厳しい冬を生き抜いてきた雪里の知恵と恵みを堪能あれ。
地元食材を使った里山の伝承料理
ひなの宿 ちとせ
住所|新潟県十日町市松之山湯本49-1
Tel|025-596-2525
客室数|27室
料金|1泊2食付1万7600円~(税・サ込、入湯税別)
カード|AMEX、Master、VISAなど
IN|14:00
OUT|10:00
夕食|和食(食事処)
朝食|和食(食事処)
アクセス|電車/北越急行まつだい駅から車で約20分(まつだい駅から送迎サービスあり・要予約)
車/関越自動車道塩沢石打ICから約40分、越後川口ICから約50分
施設|露天風呂、大浴場、貸切風呂、食事処、お土産処、ラウンジ、宴会場
Wi-Fi|あり
www.chitose.tv
text: Natsu Arai photo: Yuko Chiba
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」