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《松之山温泉 ひなの宿 ちとせ》
里山の温泉宿で湯治文化に触れる|前編

2022.6.19
《松之山温泉 ひなの宿 ちとせ》<br><small>里山の温泉宿で湯治文化に触れる|前編</small>

長期滞在者が集う社交場として花開いた湯治文化は、いつしかマスツーリズムの温泉旅行へと変化。だがワーケーションが注目される昨今、松之山温泉の老舗宿は原点回帰とも呼べる滞在を提案する。

日本三大薬湯・松之山温泉とは?
およそ1200万年前の地殻変動によって閉じ込められたとされる化石海水が起源。薬品に似た香りを放つ湯には温泉基準値の15倍の成分が含まれており、古くから人々を癒してきた

温泉data
泉質|ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(高張性弱アルカリ性高温泉)
泉温|88.7℃
湯の色|透明
加温|なし

雪見障子や天井の絵画が特徴的な12.5畳の和室。客室はさまざまなタイプがあり、ほかにも露天風呂付き特別室や、ツインベッドが配された和洋室タイプも用意。廊下やエレベーター内も畳敷のため、客室から裸足のままふらりと温泉に足を運ぶことができる

“熱の湯”の異名をもつ
薬湯に浸かる現代湯治

フローリングが多い現代においても、素足で歩く畳の感触はどうにも心地がよい。明治28年創業の松之山温泉を代表する「ひなの宿 ちとせ」は、到着早々にそんな開放感をもたらしてくれる温泉宿。エントランスをくぐるとロビーから客間、ひいてはエレベーターの中まで畳が敷き詰められており、滞在中は煩わしい靴の脱ぎ履きから解放されるところも一興だ。

「この地域には旅から帰ると“はばき脱ぎ”という風習があったんです」と話すのは、宿の当主である柳一成さん。はばき脱ぎとは、長旅から帰った際に脛(すね)に巻いた脚絆(きゃはん)を外して安堵のため息をつくことで、ひなの宿 ちとせでは2012年のリニューアル時に、この風習を元に全館畳敷となった。「お部屋から裸足のままふらっと浴場へ行き、気軽に温泉に浸かれるところがいいと言われます。松之山温泉の泉質は塩分が多く熱が身体の内に滞留するので、長湯だけには気をつけて」と、館内3カ所の浴場を上手に使い分けた分割浴をおすすめする。上杉謙信公の隠し湯とも呼ばれる薬湯で、心ほぐれる現代湯治を体感したい。

好きなだけ浸かりたい、3つの浴場

月見の湯
あつ湯とぬる湯が楽しめる源泉かけ流しの露天風呂。松之山の四季を感じる開放感あふれる佇まいは、昼と夜で異なる表情を見せてくれる
ほんやらの湯
内湯と露天風呂を備えた大浴場。魚沼地方でつくられる雪洞“ほんやら洞”から名づけられ、冬ともなれば露天風呂は分厚い雪の壁で覆われる
山の湯・里の湯
源泉かけ流しの名湯がプライベートで満喫できる貸切風呂。45分1100円の別料金が必要だが、23:00~7:30の間は宿泊者であれば無料で自由に使える

厳しい雪里のストーリーを
おもてなし料理に昇華

地元旅館などが手を組む旅行会社「松之山温泉合同会社まんま」の代表でもある柳さん。「松之山で一番美味しいものは何だろうと皆で考えた結果、やはり棚田米だ」と、米処としての魅力を再確認。そこから生まれた名物が「棚田鍋」であり、旅館で炊かれた余剰ご飯からつくられるためフードロスにも貢献している。ほか冬季のビタミン源である大根菜や、貴重なタンパク源であった鯉など、厳しい冬を生き抜いてきた雪里の知恵と恵みを堪能あれ。

地元食材を使った里山の伝承料理

オリジナル前菜「温故知新」とクロモジウォーター
保存食「あんぼ」をはじめ、松之山の食文化をひも解き前菜に。「ご飯に合うものは日本酒にも」との想いから考案された品々はアテにもぴったり
お造り
ポン酢ジュレを添えた新潟・岩船産ののどぐろなど、ひと口サイズのお造り盛り合わせ。どれも味つけ済みのため、おつまみ感覚でそのままいただける
湯治豚<熟成地豚 越の紅肩ロース>
松之山では、なんと豚肉も湯治。地元のブランド豚「妻有ポーク」を約68℃の源泉で低温調理することで、旨みを引き出したしっとり軟らかな味わいに
千歳伝統のけんちん
献立の中で唯一変わらない、創業当時から提供されている一杯。柳さんの祖母の味であり、里山の恵みであるぜんまいや、油で炒めた豆腐がアクセント
山清水鯉の鯉こく 味噌仕立
田んぼの中でも捕れるとあって、里山の貴重なタンパク源として重宝されていた鯉。清水で泳がせ泥臭さを抜いているため、鯉が苦手な方にも好評
厳選された新潟の地酒
米処・雪処の新潟とあって、忘れてはならない地酒。3種の「呑みくらべセット」で、好みの一本を見つけたい
棚田鍋
棚田米の魅力を余すところなく表現した名物鍋。雪に見立てた大根おろしと、郷土の薬味「塩の子」がアクセント。ひなの宿 ちとせでは通年提供されている
「身土不二」の考え方が根づく朝ご飯
棚田米を食べるがためといっても過言ではない、滋味深いご飯の供がずらり。何杯でもお代わりしたくなる

ひなの宿 ちとせ
住所|新潟県十日町市松之山湯本49-1
Tel|025-596-2525 
客室数|27室
料金|1泊2食付1万7600円~(税・サ込、入湯税別)
カード|AMEX、Master、VISAなど
IN|14:00 
OUT|10:00
夕食|和食(食事処) 
朝食|和食(食事処)
アクセス|電車/北越急行まつだい駅から車で約20分(まつだい駅から送迎サービスあり・要予約)
車/関越自動車道塩沢石打ICから約40分、越後川口ICから約50分
施設|露天風呂、大浴場、貸切風呂、食事処、お土産処、ラウンジ、宴会場
Wi-Fi|あり
www.chitose.tv

 

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text: Natsu Arai photo: Yuko Chiba
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」

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