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橋本夕紀夫×佐藤岳利《特別対談》
クリエイティブの源は
「ニッポンの秘湯」にあり【前編】

2022.5.20
<small>橋本夕紀夫×佐藤岳利《特別対談》</small><br>クリエイティブの源は<br>「ニッポンの秘湯」にあり【前編】

秘湯好きのインテリアデザイナー橋本夕紀夫さんと、ワイス・ワイス代表の佐藤岳利さん。「タケトラベル」と名づけたチームで、日本各地の秘湯をめぐること20年。なぜ秘湯を訪れ、そこから何が生まれるのか。橋本さんが手掛けたサウナ「かるまる」でお話をうかがった。

橋本 夕紀夫(はしもと・ゆきお)
スーパーポテトを経て1996年に橋本夕紀夫デザインスタジオ設立。「ザ・ペニンシュラ東京」をはじめとする商業施設を中心にデザイン空間を手掛ける。自然素材とその土地の伝統技術を用い、そこにある空気をかたちにしている

佐藤 岳利(さとう・たけとし)
乃村工藝社に入社して約7年間アジア各地に赴任。帰国後独立し、1996年にワイス・ワイス設立。木材のトレーサビリティを業界に先駆けて示し、国産材やフェアウッドの家具、伝統技術を用いた暮らしの道具を世に送り出している

秘湯めぐりにハマるきっかけになった「八丁の湯」
北関東の山登りの起点となる立地。川沿いの地形に沿ってつくられた露天風呂には、目の前に大きな滝が迫り、まさに自然と一体になれる。「この岩風呂はずっと印象に残っています。付随した空間も昔ながらの山小屋のようで雰囲気があり、そこで食べた牡丹鍋が美味しかった」と橋本さん

大自然に裸で触れると
地球とチューニングできる

――お二人はいつ頃から一緒に温泉に行くようになったのですか?
佐藤 私が独立した頃、会議やパーティの2次会、3次会に行くと、よく橋本さんがいらっしゃったんです。そこで日本文化の話題になるのですが、橋本さんが、「日本の文化は温泉に凝縮されているのではないか」と言うのです。温泉には食があり、女将さんがいて、旅館ならではのサービスがある。それで、近々「八丁の湯」に行きませんか? とお話ししたら、行きましょう! と。
橋本 すぐ日程を決めましたね。
佐藤 登山家の父から、日光の山の中腹で、滝の下にある温泉がすごいと聞いていて。2001年の2月だったと思います。友人を誘って3人で行きました。
橋本 秘湯中の秘湯でね。佐藤さんが秘湯好きというのもあったけど、私も完全に秘湯にハマりました。普段、先端的なデザインに触れていると、アノニマスな秘湯で原点回帰できます。大事なことや感動的な気持ちの根底は、昔から脈々とつながっている温泉文化にあるのではと。以来、秘湯熱が高まって、佐藤さんと次の場所を決めては秘湯へ。これは遊びではなく活動だということになって、佐藤さんの名前「岳利」から「タケトラベル(正確にはタケトラベル営業部)」と名づけました。
佐藤 ほぼ毎月行くようになりましたね。北海道の知床や鹿児島の離島など、時間もお金もかかるから1泊ではもったいないと、週末を挟んだ2泊3日で。
橋本 秘湯の醍醐味は露天風呂です。大自然にまったく無防備な状態の裸で触れる。これが最高ですよね。周りの環境を思いっきり自分の中に吸収して。
佐藤 なるべくコンコンと自噴する大自然の中にある温泉がいいですね。素っ裸で山や空を見ていると、地球や宇宙と一体化し、無になっていく感覚があります。
橋本 日本の旅館は究極のリラックス文化です。旅館に行くとヒエラルキーがなくなる最大の理由は浴衣だと思う。浴衣を着れば、子どももお年寄りも、大金持ちもそうではない人も全部同じ。欧米のホテルではこうはいきません。旅館なら、部屋でも食堂でも、温泉街も浴衣で過ごせます。これほどリラックスできる温泉文化は世界に誇るべきものです。我々は堂々と、社会活動として秘湯をめぐっているわけです(笑)。

水平線に国後島を眺める「セセキ温泉」
北海道・羅臼から知床半島の北へ向かう道沿いにいくつかある温泉のひとつ。海中で岩に囲まれたザ・天然温泉で、脱衣所もなし。まさに海と一体になる感覚を味わえる。「本当にあけすけな感じがまたよくてね」(橋本)
「静かな海の先に見える国後島も印象的でした」(佐藤)

秘湯めぐりは
日本の自然と文化を知る旅

――秘湯めぐりは、それぞれの仕事にどのように生かされているのでしょうか?
佐藤 日本文化の起点になっているのが自然だと思います。火山列島である日本には温泉がある。山や森があり、川が流れ、海につながるという自然の循環がある。日本にいれば当たり前のように思えますが、世界の国々を見渡せば特殊であり、素晴らしい環境です。
橋本 自然とともに生きてきた民族といえますね。
佐藤 「ワイス・ワイス」で自然と共生する仕組み「グリーンカンパニー宣言」をしたのは、タケトラベルでの温泉旅があったからです。これだけいろいろな秘湯に行くと、日本人は自然の豊かさに生かされていると思い知らされます。私たちが扱う無垢材のフローリングや木の家具は、山で生きていた木の命をいただいていると思えるように。すると木を切った後の森が気になり、森をつくる人と一緒に仕事をするようになりました。
橋本 東京ミッドタウンにお店も出されていますね。
佐藤 日本の伝統工芸を基調とした店です。外国で安くつくったものを仕入れるのは一切やめました。できる限り昔から続いてきた伝統や技術を大切にしながら、いまの暮らしを成立させていく。これも秘湯をめぐる中で思いが強まり、事業化したものです。
橋本 私の場合、ホテルや旅館のお風呂をつくる上で、これまでの体験がすべて生きています。「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」の風呂はまさにそう。別府は日本一の湯量を誇る温泉街なので、外資のホテルでも日本独自の温泉のイメージを抱いたほうがいいと提案しました。露天風呂は、ワイルドな岩風呂で野趣にあふれています。地元の山を知る庭師が、苔や細い枝が付着している石を持ってきてくれて。

 

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text: Yukie Masumoto photo: Masaharu Okuda, Taketoshi Sato
Discover Japan 2022年4月号「身体と心をととのえる春旅へ。」

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