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橋本夕紀夫×佐藤岳利《特別対談》
クリエイティブの源は
「ニッポンの秘湯」にあり【後編】

2022.5.20
<small>橋本夕紀夫×佐藤岳利《特別対談》</small><br>クリエイティブの源は<br>「ニッポンの秘湯」にあり【後編】

秘湯好きのインテリアデザイナー橋本夕紀夫さんと、ワイス・ワイス代表の佐藤岳利さん。「タケトラベル」と名づけたチームで、日本各地の秘湯をめぐること20年。なぜ秘湯を訪れ、そこから何が生まれるのか。橋本さんが手掛けたサウナ「かるまる」でお話をうかがった。

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極寒の露天風呂体験「黄金崎不老ふ死温泉」
青森にあり、目の前に日本海が広がる。「地吹雪が吹きつける悪天候の日で、海からほぼ水平に細かいひょうのようなものが顔に当たってくるのだから、露天風呂は寒い季節がいいなんて言っていられない。いまとなっては忘れ難い体験です」(橋本)

日本が誇る素晴らしい資源を
生かさないといけない

――タケトラベルの温泉旅はどんな旅ですか? これまで訪れた秘湯で印象深いのはどこでしょう?
佐藤 「草津温泉」や青森の「酸ヶ湯温泉」などメジャーなところから、秘湯までいろいろです。自然湧出温泉のマイリストを見ながら、季節やそのときの気分で橋本さんと決めて、タケトラベルの仲間に知らせるという感じです。
橋本 タケトラベルとしては50~60回行ったかな。3~4人のときもあれば、大型バスを出して40人というときも。そのうちに子どもや母親を連れてくるなど、年齢も職業も入り混じり、延べ600人ぐらい参加したでしょうか。
佐藤 だんだん家族化していきましたね。何日も一緒にいて、裸になって、同じ鍋をつついて。
橋本 少人数のときは秘湯中の秘湯を訪ねました。印象深いのは鹿児島・硫黄島の「東温泉」です。温泉がなければ縁のない地。船が着くと島民がアフリカの打楽器ジャンベを演奏して出迎えてくれました。昔、アフリカからジャンベの奏者が島に移り住んだとか。その日は偶然にもお祭りで、神社の境内に屋台が出て賑わっている場に我々も参加して。温泉も素晴らしいけれど、島民との触れ合いも印象に残っています。
佐藤 知床も思い出深いですね。波打ち際にポコっとある「セセキ温泉」は、湯船から水平線に国後島が見える。知床の先端に向かう道には「熊の湯」や「相泊温泉」があるのですが、途中で橋本さんがトドを食べたい、と言い出して。
橋本 ドライブインでナポリタンというわけにはいかないじゃないですか。
佐藤 でも、行けども行けどもそれらしい店が見当たらなくて、とうとう道の終わりに来ちゃった。あ~と思ったら、その終着点、起点でもあるのですが、そこに「熊の穴」という、いまはなき食堂があったのです。トドの刺身や、羅臼昆布ラーメンなどがあってね。
橋本 トドのルイベね! 食べていいのか迷ったけれど(笑)。パクッといったところ、何とも言えない味で皆無口になっちゃって。
佐藤 トドを食べたぞ、という満足感はありました。
橋本 「黄金崎不老ふ死温泉」も思い出します。秋田駅からローカル線に乗ったら4つ目の駅で止まってしまって、乗り換えようとしたら6時間後ですと言われ、急遽タクシーをチャーターして。そのタクシーの運転手がおもしろい人でした。素朴な感じなのに、音楽好きで、東北の方言まじりでレッド・ツェッペリンが好きと言うものだから楽しくなっちゃって。
佐藤 あの地吹雪はすごかった!海っぺりの露天風呂が宿から離れた場所にあって、確かマイナス20℃くらい。寒くて寒くて、湯船から出たら凍死するかと思った。でもどこかで意を決して宿に帰らないとならない。
橋本 まさに苦行でしたね。
佐藤 まだまだ行きたいところ、ありますね。環境省の統計では、日本の源泉総数は2万7969ある。せめてその1%。あと200ぐらいは残りの人生をかけて訪れたいと思っています。
橋本 日本人として生まれてきたからには、この素晴らしい資源を生かさないといけませんね。

鹿児島から船で行く硫黄島の名泉「東温泉」
鹿児島から船で3時間半。火山活動が活発な硫黄岳はたびたび白い噴煙を上げる。「船から見たら島にドーナツ状の雲がかかっていて、これは不思議なところに来たと思いました」(佐藤)
波打ち際の岩場にある「東温泉」。「時折、高波がきて、危うくさらわれそうになりました」(橋本)

秘湯にすぐに行けないなら。
橋本さんの温泉愛も生かして
デザインしたサウナ「かるまる」へ

天然の巨石をくり抜いた「岩風呂」と、青森ヒバを用いた「マス風呂」
凍結した湖に開けた穴(アヴァント)を思わせる水風呂「アクリルアヴァント」
四国・高松の庵治石を多用した「岩サウナ」。「木と石という自然素材が気持ちいい」と佐藤さん

かるまる
4種のサウナと水風呂、5種の風呂を備える
住所|東京都豊島区池袋2-7-7 6F
Tel|03-3986-3726
営業時間|11:00〜翌10:00(浴場〜翌9:00)
定休日|不定休(レディースデーあり)
料金|2980円〜

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橋本夕紀夫さんの
デザインの秘密をひも解く

ホテルに飲食店、住宅にサウナ施設と幅広く手掛けてきた橋本さん。多くの人を惹きつけるデザインはどのようにして生まれるのか。現場をともにした職人やアーティスト、クライアントの声からあらためてその魅力を探る。

text: Yukie Masumoto photo: Masaharu Okuda, Taketoshi Sato
Discover Japan 2022年4月号「身体と心をととのえる春旅へ。」

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