建築文化を発信するミュージアム
「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」
国際的に著名な建築家である谷口吉生氏の設計により、金沢に2019年7月に開館した「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」。早くも国内外の建築フリークから旅の目的地として熱視線を浴びている本館の魅力とは?
建築を通してまちづくりを考える
谷口吉郎・吉生記念金沢建築館は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている寺町寺院群に隣接し、メインストリートの寺町通りに面している。
金沢は、江戸時代の歴史的建造物から赤レンガなどの近代建築、世界が注目する現代建築まで、各時代を象徴する建築が重層的に存在し、魅力ある建築文化を形成している。その「建築のまち金沢」から、日本では数少ない公立の建築ミュージアムとして、金沢建築館は、建築文化を国内外に発信しているというわけだ。
実は金沢は、日本で初めて景観条例が制定された都市。その条例は、谷口吉郎氏からの提言によって1968年(昭和43)年に制定された。
谷口吉郎(たにぐち・よしろう)
1904年(明治37年)に金沢市生まれ。実家は九谷焼の窯元で、本人によると、職人さんの誇りをもって仕事に携わる姿が建築家としての礎になったそうだ。前述の游心亭をはじめ、東宮御所(現 赤坂御所)、ホテルオークラのメインロビー、帝国劇場のロビーと客席などを設計し、1973年(昭和48年)に文化勲章を受章。
谷口吉生(たにぐち・よしお)
1937年生まれ。鈴木大拙館、東京国立博物館法隆寺宝物館、ニューヨーク近代美術館(MoMA)などの有名ミュージアムの設計で知られ、日本、米国、英国の建築家協会の名誉会員。吉生氏の作品は、打ちっ放しのコンクリートに水辺と緑を融合させたクールなデザインが特徴。
洗練された建築意匠
金沢出身の昭和を代表する建築家で金沢の景観まちづくりにも寄与した、谷口吉郎氏の住まい跡地に建てられた「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」。設計を担当したのは、世界的建築家・谷口吉生氏。金沢のまちづくりの方針を示した父・吉郎氏と、金沢に鈴木大拙館などの新たな魅力を創出する息子・吉生氏の永続的な顕彰と、親子の建築資料アーカイブズの構築も行っている。
金沢建築館では、建築自体を展示物の一つとして位置付けている。吉生氏の洗練された現代建築の中に、父・吉郎氏の代表作である迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭」の広間と茶室を再現。一方で、広間に接する池は吉生氏の水庭スタイルとなっており、父の内部空間と子の外部空間がコラボレーションする世界でもここにしかない特別な建築空間を体感することができる。
また、地下1階の企画展示室では、建築や都市をテーマとした企画展を開催するとともに、関連したフォーラムやワークショップなどのイベントを実施しており、都市計画やまちづくりにおけるヒントを学ぶこともできる。
見る人の心に静寂をもたらす
開放感のある空間
館内に入ると2階まで吹き抜けになったラウンジでは、ミュージアムショップと茶房が併設されている。また、寺町通りに面した大きな窓からの伝統的な街並みを望む眺望は金沢ならでは。
打ちっ放しのコンクリートをメインとしたシンプルな内装と、見る人の心に静寂をもたらす空間の使い方は、吉生氏が手掛けた鈴木大拙館と通ずる美意識が感じられる。
谷口吉郎氏の代表作「游心亭」を再現
2階の常設展示室には、谷口吉郎氏の代表作である、迎賓館赤坂離宮の和風別館「游心亭(ゆうしんてい)」の広間と茶室が再現されている。
游心亭の再現は、金沢建築館の最大の特徴となっているキーポイントで、何度も現地に足を運んで測定し再現した。ちなみに、赤坂の「游心亭」の広間は、1986年の東京サミットでワーキングランチの会場として使用された。
半透明の白い自動扉が開くと、右手に游心亭の広間があり、左手に游心亭の池を模した水庭が設けられている。水庭の前にはベンチが置かれ、ベンチに座ってゆっくりと佇むのも風流だ。
そして、広間の先には游心亭の茶室が再現されている。館内の展示を見終わった後は、1階のラウンジにある茶房*やミュージアムショップへ。
金沢建築館のもうひとつの特徴は、建物の外の無料ゾーンに、寺町通りと犀川べりを結ぶ回遊路が整備されていること。犀川べりは晴れた日には絶好のお散歩コース。
※茶房は現在閉店中
新たな視点で金沢を楽しむ旅を「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」から始めてみてはいかがだろうか。
谷口吉郎・吉生記念金沢建築館
住所|石川県金沢市寺町5-1-18
Tel|076-247-3031
開館時間|9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日|毎週月曜日(月曜日が休日の場合はその直後の平日)、年末年始(12月29日〜1月3日)
入館料|一般310円[260円]、65歳以上210円、高校生以下無料
※[ ]は20名以上の団体料金
※ 企画展は別途料金が発生する。
https://www.kanazawa-museum.jp/architecture/
Photo:Toshiharu Kitajima