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福井の暮らしに根付いた
クラフト&食文化に出合う旅へ

2021.12.7 PR
福井の暮らしに根付いた<br>クラフト&食文化に出合う旅へ
四季折々の植物などをモチーフとした蒔絵の美しい椀が並ぶ「漆琳堂」のショールーム。中には100年ほど前につくられたものも

古くは古墳時代から漆器、和紙、打刃物、焼物、箪笥といったものづくりの産業が集まり、また細かい地域ごとに独自の暮らしや食を育んできた福井県。山々に囲まれ、冬は雪によって交通が閉ざされる日本海側ならではの気候風土によって、谷ごとに文化が発達したのがその理由だ。

今回、そんな福井の多彩なクラフトや個性豊かな食文化に触れるため、「福井の食ブランディング事業 メディアツアー」に参加した。このプロジェクトは2020年に続き、今年は10月下旬に1泊2日の日程で開催。現地では漆器職人やブランド芋の生産農家などご当地ならではの専門家によるレクチャーも行われ、より深く福井の工芸や暮らしぶりを知ることができる貴重な機会となった。

「うるしの里会館」では、絵付けや沈金、拭き漆といった漆器づくりの伝統技法に気軽に挑戦できるワークショップも予約制で開かれる

まずは越前漆器の中心地である、鯖江市河和田地区に立つ「うるしの里会館」を訪れた。こちらは1500年もの歴史があるといわれる越前漆器の歴史や製造工程が学べる展示と塗りや加飾などを行う職人の工房、椀や重箱、盆や箸、弁当箱など1000種類以上の漆器が購入できるショップなどを備えた漆器のミュージアムだ。

ほかの地域の漆器とは「フォルムなどの見た目の違いもありますが、何より触ったときのしっとり感が違うので、触れれば明治以降のものならまずわかります」と説明するのは、山嘉商店・山田博之さん

越前市で漆器メーカー・山嘉商店を営む山田博之さんが、越前漆器の歴史や製造工程などについてわかりやすく解説してくれた。山田さんによると「柿渋に地炭粉を加えた『渋下地』と呼ばれる下地を何度も塗り重ねることで、堅牢な漆器に仕上げるのが伝統的な越前漆器の特徴」だという。

用いられる膳やうつわは、かつて地元の旧家などで使われていたものを譲り受け塗り直したもの。写真の本膳と二の膳からなる「うるしの里ご膳」は、5人以上の予約制で1人前3000円

越前漆器について理解を深めたところで、地産食材を用いた料理などを漆器で提供するうるしの里会館内の「椀椀」で昼食となった。河和田地区の女性グループ「うるしの里いきいき協議会」のメンバーがつくるお膳には、ずいきを酢漬けにした「すこ」やアブラギリの葉でくるんだ「葉寿司」、柚子や赤唐辛子などをベースとした薬味「山うに」といった郷土料理が所狭しと並ぶ。

「漆琳堂」の2階には、漆器の修復を行う下地部屋、拭き上げ部屋、底塗り部屋などの部屋があり、各工程を担当する職人の仕事ぶりが見られた

福井ならではの味覚を堪能した後は、うるしの里会館から徒歩圏内にある漆工房「漆琳堂」へ。2016年にオープンした直営ギャラリーには、現代的な暮らしに溶け込むカラーと食器洗い機が使える実用性を備えた「RIN &CO.」などのうつわが並び、奥にはオーダーメイド椀のショールームも併設。店内にさりげなく置かれた自転車は、なんと同社が手掛けた漆塗り。

1793(寛政5)年に創業以来、越前漆器の塗師屋(ぬしや)としてその技術を受け継いできた「漆琳堂」。「古くより塗師屋は漆器のデザインなどを行うプロデュース的な仕事を担ってきました」と8代目・内田徹さん

木地に下地を施した後から漆を塗る中塗や、最後に仕上げの漆を塗る上塗で使われる漆刷毛。なんでも昔から、刷毛の先には海女の髪の毛が最適とされているそうだ。いまでは思うような髪の入手も難しく、使い心地が塗りの仕上がりに大きく影響する道具ゆえ、貴重なものになりつつあるという。

木地づくり、塗り、加飾の工程を分業制で行うことが主流の越前漆器。漆琳堂の近くには木地職人の工房があり、ロクロを使って木をくり抜き、椀の木地をつくる様子が間近で見られた

続いて訪れた河和田地区では、たった3人という現役の木地職人の1人に会うことができた。椀の内外にランダムな筋を付ける乱筋(みだれすじ)がはいった木地を手にし「簡単なようでなかなか挽くことができないもので、昔もいまも変わらず需要があるのがこれ」と語った後、すぐにまた道具を巧みに操りながら、木を椀形に仕上げる作業を続けた。

「紙祖神 岡太神社 大瀧神社」は、拝殿と本殿がひと続きとなった連結社殿が特徴で国の重要文化財に指定。社殿のあちこちに施された獅子や龍、草花などの精巧な彫刻が目を引く

漆の里を後にして、バスで約15分ほど移動し、紙漉きの里である越前市今立地区へ到着。漆の里である鯖江市河和田地区とはふたつの谷を隔てているが、雪のない時期に車で移動すれば意外なほど近い。今立地区は、山からの豊かな清水を用いた紙漉きが古くより盛んな越前和紙の一大産地。まずは約1500年前にこの里の川の上流に現れ、紙漉きの技を村人に伝えたとされる女神・川上御前を祭神とする「紙祖神 岡太神社 大瀧神社」の下宮へ参拝。全国唯一の紙の神さまを祀る神社とされ、広く信仰を集めている。

「杉原商店」は、1871(明治4)年に越前和紙の問屋として現在地に創業。大正時代に建てられた蔵を4年前に改装し、完全予約制によるショップ&ショールームをオープンした

紙の神さまへお参りした後に向かったのは、神社からほど近くにある「杉原商店」。蔵を改装したショップ&ショールームには、和紙のカードや便箋、箱、紙マスクといった紙小物のほか、風合いや光の透け具合が美しい大判の和紙といったインテリア向け素材も揃う。近年では、建築家・隈研吾が手掛けた国立競技場の和紙照明を筆頭に、ホテルや航空会社、銀行、飲食店などへ、内装素材として和紙を納入する例も増えているという。こうして福井のクラフト産地を巡るメディアツアー1日目は無事終了した。

「里芋の煮っころがし」は福井の里芋料理の大定番。印牧家では醤油と砂糖、水のみで炊き上げる。「里芋入り赤飯」はこの地域の伝統の一品で、別で煮上げた小芋を赤飯に混ぜ込む

今回のツアーでは特別に、印牧さんの御母堂が手づくりした「里芋の煮っころがし」や「里芋入り赤飯」、「里芋入りおでん」、「けんちん汁」が振る舞われた。里いもはすべて薄皮一枚を残した状態で使うのが地元ならではの調理法。薄皮のパリッとした食感に加え芋そのものの甘みと旨みが感じられる煮っころがしは、これまでの里芋のイメージを覆す忘れられない味となった。

福井県は人口比で全国トップクラスのそば店の数を誇り、大野や丸岡など土地に伝わる在来種をいまも守り続けるそばの産地だ

福井の食の代表格といえる「越前おろしそば」でメディアツアーを締めくくるため、福井市内にある「越前蕎麦倶楽部」へ向かった。同館はそば打ち体験ができる工房とランチが楽しめる食事スペースを備えた施設。水回し、こね、へそ出し、丸のし、角出し……といった工程を、講師の指導を受けながら一つひとつ体験できる。打ったそばは、その場で茹でてざるかおろしで味わえるほか、土産として持ち帰ることも可能だ。

冷たいそばの上に大根おろし、カツオ節、ネギをのせるのが福井の定番「越前おろしそば」。福井の在来種のそばは、粒は小さいものの甘みがあって香り高いという特徴があるという

越前漆器、越前和紙といったクラフトの里を巡り、上庄さといもや越前そばをはじめとする郷土の味覚を味わいながら、つくり手とつながり、谷ごとに異なる文化が息づく福井の魅力に触れられた今回のメディアツアー。福井が秘めるポテンシャル、魅力については、12月6日売り本誌で、「工芸の美を味わう」ツーリズムとしても掲載予定。本書片手にぜひ現地を訪れてみてほしい。

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