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SDGs視点で、地域の魅力を見える化
—非財務データバンクを開発するサステナブル・ラボに聞く—

2021.11.2
SDGs視点で、地域の魅力を見える化 <br><small>—非財務データバンクを開発するサステナブル・ラボに聞く—</small>

サステナブル・ラボが開発する「ESGテラスト」は、自治体や企業の環境・社会貢献度をAIで数値化し、見える化したデータバンク。サステナビリティを見える化することにより、その視点を共通のものさしにして、持続可能な社会をみんなでつくり上げることを目指します。開発の経緯や、活用方法について、サステナブル・ラボの二人にお話を伺いました。

左から)平瀬 錬司さん、加藤 康之さん

平瀬 錬司(ひらせ・れんじ)
サステナブル・ラボ株式会社 代表取締役。大阪大学在学中から環境・農業・福祉などサステナビリティ領域のベンチャービジネスに環境エンジニアとして携わり、2019年に同社を設立。京都大学ESG研究会講師。https://suslab.net/

加藤 康之(かとう・やすゆき)
経済学者。専門は投資理論、金融工学。野村證券金融工学研究センター長、執行役などを経て、2021年に京都先端科学大学教授。サステナブル・ラボ取締役(非常勤)、京都大学客員教授も務める。

「ESGテラスト」を活用した持続可能なまちづくりとは

——「ESGテラスト」の開発経緯は?

平瀬さん(以下、平) 数字で評価できる経済効果と違い、環境効果や社会効果は評価しにくいため、環境や社会に貢献している、いい自治体や企業が〝照らされていない〟と、常々感じていました。彼らの活動を〝照らしたい〟と考える中、注目したのがESG投資*1です。ちょうど加藤先生との出会いにも恵まれ、ご指導いただきながら、定量化・データベース化を進めました。いまは過渡期なので、わかりやすく整理するためにランキングを出していますが、私たちは評価会社や格付け会社ではありませんし、ESGテラストはあくまでもデータバンクです。評価するためのものではなく、全体を客観的に、平等に見える化するためのものさしです。

加藤さん(以下、加) 私は、機関投資家の目線でグローバルなESG投資を研究していて、平瀬さんと出会った頃は、まさにSDGs領域のデータベースの必要性を感じていました。当初自治体は想定していませんでしたが、地域経済への貢献という点から考えても、おもしろい視点だと思いました。

——ESG投資やSDGsは地域経済にどのような効果をもたらすのでしょうか。

 いま、ESG投資の延長線上でインパクトファイナンス*2が普及・拡大していますが、これが地域おこしの観点からも重要になっています。地域おこしは、自治体だけだと独りよがりになりがちです。それをインパクトファイナンスに取り組む地方銀行と協業することで、ESGに配慮した地元企業を巻き込んだ持続可能なものになります。そして住民がその活動を評価できるよう、見える化されることが重要です。

 そうして官民一体で取り組もうというとき、SDGsはわかりやすい旗印ですよね。SDGsというフレームは最近のものですが、暮らしやすい町をつくることはもともと、自治体の宿命ですから。ただ、みんなで取り組むためには目線を揃える必要があります。ESGテラストはそのための指標です。

 ESGテラストは、機関投資家のようなプロでなくてもわかりやすい切り口ですので、そこから自治体が目指す方向も見えてきますね。

 そうなんです。自治体にとっては、健康診断のようなものと思っていただけるとわかりやすいかもしれません。自分の健康状態を確認するように、ESGテラストでSDGsインパクトを高められているかを確認できます。さらに、他者と比較してどうかを確認できるのも強みです。また、客観的事実に基づいていますので、外部に発信する場合には説得力もあります。

——個人ではESGテラストをどのように活用できるのでしょうか。

 視野を広げるのに役立ててほしいと思います。たとえば、縦軸を業績(強い⇔弱い)、横軸を社会インパクト(優しい⇔優しくない)としたときに、いままでの資本主義では強さだけが求められてきましたが、SDGsで目指すべきは「強い・優しい」です。現状は「強い・優しくない」ゾーン、「弱い・優しい」ゾーンに当てはまる自治体や企業も、前者は強いからこそ優しくなれるはずで、後者は優しいからこそ強くなれるはず。自分はどちらを応援したいのかという視点でESGテラストを見てください。前者はランキングを、後者は伸び率を見ればわかります。「いまの私にとってどうか」に加えて、「未来の私たちにとってどうか」と考えると判断が変わるはずです。どちらが正しいということではなくて、見えるものが変化すると思います。

 経済的価値を追求するこれまでの資本主義社会は、環境問題や貧富の格差など、さまざまな社会問題を引き起こしてきました。これからはSDGsやESGをはじめとする社会的価値を重視する、ポスト資本主義社会が求められています。経済の成長を考えると回り道に見えるかもしれませんが、持続可能な社会をつくることによって、結果的に経済的価値も持続可能なものになります。

 資本主義をアップデートするということですよね。それこそ弊社が目指しているものです。定量化し、どんなアウトカム(結果)を生んでいるかを解析することで、費用対効果の意味を、経済効果だけでなく環境効果、社会効果を含めたものにアップグレードしたいと考えています。

自治体も企業も住民も、みんながESGテラストを共通のものさしに、SDGsの視点から自分の地域を見つめ直す。それが地域力を向上させ、将来にわたってみんなが幸せに暮らせるいい町、いい社会をつくる第一歩になる。

*1 投資先(企業など)を選ぶ際、従来の財務的な要素だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の観点から将来性や持続性などを分析・評価した上で行う投資
*2 インパクトとはポジティブ、ネガティブを問わず、環境・社会・経済にもたらす効果のこと。インパクトファイナンスはESG投資の発展形で、適切なリスク・リターンを追求しつつ、特定の社会課題を解決する明確な意図をもって、環境・社会・経済にポジティブなインパクトをもたらそうとする投融資

47都道府県のSDGs総合ランキング

「ESGテラスト」の無償版「テラストβ」で、47都道府県のSDGs総合ランキングをはじめ、SDGs貢献度に関する様々なランキングをご覧いただけます。

47都道府県のSDGs総合ランキング(2021年7月13日時点)
最新のランキングは「テラストβ」よりご確認ください。

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text: Miyu Narita
Discover Japan 2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」

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