DEPT Company eri×近世麻布研究所 吉田真一郎 対談
日本人と衣服の歴史から
SDGsを考える【後編】
私たちが生きる上で欠かせないひとつが、暑さ・寒さをしのぎ、身体を守る衣服。古い布や服にともにパッションを寄せる近世麻布研究所 代表の吉田真一郎さんとDEPT Company 代表のeriさんは、そこに日本で受け継がれてきた精神性が宿ると言います。SDGsをかなえるためになすべきこと、そのヒントを二人の対話から探っていきます。
「江戸時代の職人も、それぞれのプライドで応えていた」──吉田
吉田 江戸時代、上州(群馬県)産などの一級品の原料や大麻布生産には、職人から流通業者まで人のネットワークが広く強く結ばれていました。栽培する人から晒す人、呉服業者、友禅染め職人、仕上げの刺繍職人まで、ものすごい人数がかかわった。宝暦年間(18世紀中頃)の記録で年間100万反の大麻を晒していた近江(滋賀県)では、布の端に注文主がわかるよう、印の刺繍「ばし」をするための職人もいた。しかし明治以降、晒し粉(漂白剤)の輸入で、布の風合いが一変しました。
eri 焼物ブランドをつくっている長崎の波佐見はまだ分業制。土をつくる人、原型をつくる人、焼く人がいて、ある種非効率だけれどそれぞれの専門性、技術がものづくりに厚みをすごくもたせているんです。
吉田 厚いと思う。金儲けだけじゃなく、注文主を落胆させたくないという気概を皆がもってるから。江戸時代の職人も「この呉服屋から頼まれた」とそれぞれのプライドで応えていた。
「ものづくりの手数を知り、大切に使うDNAを受け継ぎたい」──eri
eri 工程の中で問題があれば職人同士で話し合いするのもおもしろい。私もものをつくるプロセスをいままで飛ばしてきた反省があるから、いまはなるべく現場に足を運んでいます。
吉田 それがすごく大切。江戸時代には当たり前のことでした。いまは一つの会社が全部受けて、オンラインで完結することも多いけれど。
eri ひとつの工場に集中すると、そこがなくなれば雇用が途絶える問題も。ただそこにニーズがあり、技術を伝えられる人がいればものづくりは続けられる。クオリティの高いものを皆が望んで、生産者にきちんとお金がめぐるシステムを考えていかないといけない。
吉田 仕組みがわかると、ものに対する接し方が変わる。僕は何十年と古い布や着物とつき合ってきたから、そこを感じるし、伝えたいですね。
eri そのものが手元に届くまでにかかわった手数の多さを皆がわかっていたから、昔は捨てなかった。破れたら直し、着られなくなったらまた別の使い道に。でも、いまはプロセスをスキップしているから、気持ちがたどり着かない。そう考えるとものづくりをする人間が、手に取ってもらう人にプロセスをシェアすることが必要。それがいまの私たちには決定的に欠けています。いまこそ、一枚の服を大切につくり、大切に使った時代の精神性を思い起こすべきだと、強く思います。
eriさんによる古着のアップサイクル
ヴィンテージレースを組み合わせたブラウス
eriさんが18歳頃からヨーロッパの蚤の市などで集めたヴィンテージレース8種ほどを組み合わせてブラウスに。つけ襟などのパーツも自身で縫い付けた。さまざまな出自のパーツの集合で新しいデザインが誕生。
ヴィンテージ キルト トップス
1950年代など古いヴィンテージのキルトの布を用いたトップス。1着ずつパターンとキルト生地を合わせ、大切に時間をかけてつくられている。多彩な色柄の布が、楽しく温かな気分にさせてくれる。
デプト クレイジー チェック ストール
eriさんがコレクションしていたモヘアの「モケモケした」短めストールを、手作業でつなぎ合わせ大きなストールに。チェックの大小や鮮やかな色味の組み合わせで唯一無二のものに。毎シーズンつくる人気商品。
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◎近世麻布研究所
※住所・Tel非公開
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text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Kazuya Hayashi, Mitsuyuki Nakajima
Discover Japan 2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」