《ほ乳動物学者 今泉忠明×動物大好き芸人 田中直樹》
なぜ奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島には、固有のいきものがいるの?
生物多様性のホットスポットである南西諸島。かの有名なガラパゴスより、マダガスカルより実はスゴイ!? 世界自然遺産登録を目前に、その理由をうかがいます。今回は、対談の模様を3つの記事でご紹介!
動物地理区で見ても
日本列島はおもしろい位置
今泉 生息する動物によって世界をエリア分けする「動物地理区」という考え方があります。たとえばニホンザルは、南は屋久島までしかいません。野生動物が行き来できない境界線があるのです。これはイギリスの鳥類学者スクレーターや博物学者ウォーレスが最初に提唱したものですが、その地図に日本列島を当てはめると、屋久島・種子島と奄美諸島の間に「渡瀬線」という境界線があります。
田中 だから本州とは生態系が違うのですね。
今泉 南西諸島のいきものがユニークな理由はまだあります。それは、島になったのが全部同時期ではなくて、島と大陸や、島と島同士のくっついたり離れたりが複雑で、地学的にとてもおもしろい位置にあるのです。
田中 島ごとの固有種が多彩なわけだ。カエルも珍しいのがいますね。イシカワガエルを見ました!
今泉 カエルを調べている研究者にとってはパラダイス。爬虫類などもすごい。悪者にされているけれどハブも固有種ですよ。極端にいえば島ごとに違う種類がいて、進化の度合いも違います。一番進化しているのは沖縄島にいる本ハブです。最も原始的なのは、石垣島や西表島にいるサキシマハブ。ハブは島のひとつおきにいるという話、聞いたことありますか?
田中 ハブがいる島といない島があるのですか?
今泉 厳密にはひとつおきじゃないけれど、ハブが生息する島は点々としています。
田中 確か宮古島にはいないですね。
今泉 宮古島は平坦で、海水面が上がったときに水没してしまったから。一方、標高の高い山がある島に暮らすハブは生き延びられた。海水面の上下が何度かあったことで、さらに島の生態系に個性が出てきたのです。
生き残ったヤマネコと島で進化したクイナ
今泉 西表島にはイリオモテヤマネコという原始的なのがいますね。原始的なのは端っこに追いやられるのね。
田中 会ってみたいなぁ。
今泉 僕の想像では、中国にはイリオモテヤマネコの化石があるはず。大陸では進化したヤマネコが出てきて、イリオモテヤマネコの祖先は滅びちゃう。でもその前に島に渡った個体は残る。そういう現象だと思います。
田中 化石は出ていないのですか?
今泉 出てないの。出てくれればそれが立証されるのですが。
田中 イリオモテヤマネコは姿を見せてくれないので、そこがミステリアスで魅力的ですよね。
今泉 昔、3年間西表島に住み込んでイリオモテヤマネコの調査をしたときは、1001個の糞を拾って分析しました。拾ってからが大変なのね。ひとつずつほぐして内容物を調べるのです。まぁいろいろと食べているのがわかりましたね。中からイノシシの子のひづめが出たこともあります。
田中 美食家なのですね! もし自分がヤマネコになったらほどよく姿を見せたいなぁ。「元気ですよ、引き続き保護お願いします」って(笑)。
今泉 いいですね。観光客は必ずヤマネコを見たがりますから。
田中 そういえば、沖縄島でヤンバルクイナを見たと思います。一瞬であまり自信はないのですが……。
今泉 地面を歩いていた?
田中 はい! すぐに草むらに逃げてしまって。
今泉 地面を歩く鳥はそんなにいないからそうでしょう、おそらく。
田中 ヤンバルクイナは、島に飛んできてから飛ばなくなったのですか?
今泉 クイナの類は世界中で島に多いのです。ツルの仲間なので、飛ぶのです。渡りもする。いまでも、天敵のいる島に渡ったクイナは飛びますよ。
田中 え、そうなんですか!
今泉 でも沖縄島北部にはヤマネコなどの天敵がいないから、頑張って飛ばなくてもよかったの。飛ばないでいいから、たくさん食べて、体が重くなっても大丈夫だったのです。鳥もできたら地上で暮らしたいのね。
text: Yukie Masumoto photo: Maiko Fukui
illustration: Tatsuji Fujihara(teppodejine)
Discover Japan 2021年8月号「世界遺産をめぐる冒険」
《ほ乳動物学者 今泉忠明×動物大好き芸人 田中直樹 対談!》
1|奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島が世界自然遺産登録の理由って?
2|なぜ奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島には、固有のいきものがいるの?
3|大陸と離れて島に〝保存〟されたいきものたちは、独自に進化するのでしょうか?