《ほ乳動物学者 今泉忠明×動物大好き芸人 田中直樹》
大陸と離れて島に〝保存〟されたいきものたちは、独自に進化するのでしょうか?
生物多様性のホットスポットである南西諸島。かの有名なガラパゴスより、マダガスカルより実はスゴイ!? 世界自然遺産登録を目前に、その理由をうかがいます。今回は、対談の模様を3つの記事でご紹介!
観光の島が世界自然遺産になる課題
今泉 私がイリオモテヤマネコの調査に入ったのは50年前になりますが、生息数は50〜70頭ぐらいだったでしょうか。当時はイノシシの罠にかかる個体も多かったのですが、いまは交通事故が一番心配ですね。
田中 石垣島に行ったとき、イリオモテヤマネコが交通事故に遭ったというニュースが流れているのに驚きました。それぐらい貴重なのですね。
今泉 南西諸島の島々は、今後は観光客が殺到するでしょう。無人島が多い小笠原諸島と違って、古くから人が暮らし、観光地でもあるから、貴重ないきものを守っていくのは大変だと思います。
田中 世界自然遺産は、島も海も、動植物も含め、全体のつながりがあって登録されるわけですが、その輪をつなぐのも切るのも人。そこの役割は大きいように感じます。それこそ世界遺産に最初に選ばれたガラパゴスはとても厳しいですものね。
今泉 厳しいですね。
田中 上陸人数が制限されるので、ロケなどで船上で待機するスタッフ全員上陸できず、演者さんがカメラを回したり、ということもあるようです。ガラパゴスのやり方など、既存の世界自然遺産のいいケースを参考にしていくとよさそうです。
今泉 ニュージーランドやオーストラリアなど環境先進国の事例も参考になります。両者の間に浮かぶ世界自然遺産のロード・ハウ島は、入島規制があって、小さな虫でも捕まえようなら禁固刑が課せられます。ガイドツアーを充実させるなど、新しいルールが日本でも必要になってくるでしょう。
田中 小笠原諸島や知床など、これまでの日本の世界自然遺産とも状況が違いますからね。この島に暮らす人々の生活も守りつつ、いきものたちも守れるような。
今泉 おもしろいいきものを、マナーを守りながら見に来てもらうことで地元にお金が落ちる。すると島も潤い、地元の人も森を大事にしようと思える。開発中止を一方的に叫ぶのではなく、みんながそこに行って見て学ぶ。そういうかたちが理想ですね。
中期中新世以前(約1200万年前以前)
候補地を含む現在の琉球列島は、ユーラシア大陸の東端に位置し、大陸と共通の陸生生物が暮らしていたと考えられる。
後期中新世〜更新世初期(約1200〜200万年前)
沖縄トラフが拡大し、大陸と中琉球、南琉球の間が開きはじめた。約500万年前までにトカラ海峡、慶良間海裂が形成され、中琉球と周辺の陸域(九州・北琉球や、南琉球)が分断され、中琉球にアマミノクロウサギ、トゲネズミ類、トカゲモドキ類、ハブ、ハナサキガエル類、サワガニ類などの陸生生物相が隔離された。その後、約 260万年前までに南琉球が大陸から分断され、ヤエヤマセマルハコガメやキシノウエトカゲ、サキシマハブ、ハナサキガエル類等の陸生生物が南琉球に隔離されたと考えられる。
更新世初期〜現在(約200万年前〜現在)
大陸では中琉球と共通の祖先種をもつ陸生生物が絶滅してゆき、中琉球はアマミノクロウサギをはじめとする原始的ないきものが島の環境に適応していったと考えられる。また、氷期〜間氷期といった気候変動に伴い海面が上下し、近隣の島との間で分離・結合が繰り返され、生物の分布が細分化されていく。中琉球、南琉球のそれぞれで、島固有の種分化が進んだ。なお、イリオモテヤマネコとリュウキュウイノシシに関しては、大陸に最近縁種が分布することから、氷期の海面低下で南琉球と大陸の間の距離がごく小さくなった際(9〜5万年前)に、大陸から海を渡って入ってきたと考えられる。
text: Yukie Masumoto photo: Maiko Fukui illustration: Tatsuji Fujihara(teppodejine)
※図は「世界遺産一覧表記推薦書」(日本政府)より抜粋
Discover Japan 2021年8月号「世界遺産をめぐる冒険」
《ほ乳動物学者 今泉忠明×動物大好き芸人 田中直樹 対談!》
1|奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島が世界自然遺産登録の理由って?
2|なぜ奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島には、固有のいきものがいるの?
3|大陸と離れて島に〝保存〟されたいきものたちは、独自に進化するのでしょうか?