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《京都・高山寺で国宝の謎に迫る》
鎌倉時代に思いを馳せて、世界遺産を歩く

2021.11.6
<small>《京都・高山寺で国宝の謎に迫る》</small><br>鎌倉時代に思いを馳せて、世界遺産を歩く

国宝『鳥獣戯画』を所蔵する京都・高山寺では2022年3月31日まで、執事長が境内について案内する特別拝観を実施中。『鳥獣戯画』を目にしていてもその背後にある成立の過程や技法までは知らないという人もきっと多いはず。今回は『鳥獣戯画』を語るために押さえておきたいポイントから、高山寺のめぐり方まで、たっぷりと紹介します。

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洛西における“文化財の宝庫”のめぐり方

表参道
参道中央に正方形の石敷きが連なる趣向が美しい。イロハモミジやオオモミジなど楓の木が生い茂り、秋は美しく紅葉する。石段の左手には富岡鉄斎による「栂尾山 高山寺」の石碑が立ち、かつて大門があった場所には石灯籠が置かれている
山門
裏参道を進むと石積みの上に低い白壁が続き、その先に山門が。門をくぐり石水院へと向かう。澄んだ空気とみずみずしい草木が爽やかな気分にしてくれる
善財童子
「華厳経」の中で求法の旅をする善財童子の像。現在安置されているのは西村虚空による昭和の作品
「日出先照高山之寺」額
後鳥羽上皇の宸筆を浮き彫りにした扁額
石水院南縁
杮葺の屋根に入母屋造、寝殿造風の建築様式。柱、蔀戸、広縁によって額縁のように切り取られた景色が美しい。眺望がよく、正面には向山を望む
開山堂
明恵上人が晩年を過ごし示寂した禅堂院が室町時代に焼失。江戸時代、その跡地に開山堂が建立された。11月8日には献茶式法要などが行われる
金堂
かつて本堂が建っていたが室町時代に兵火を受け焼亡。江戸時代の1634(寛永11)年に仁和寺の古御堂を移築し金堂となった。本尊に釈迦如来を祀る

京都・栂尾の山腹に佇む古刹・高山寺。774(宝亀5)年、光仁天皇の勅願によって開創され、神願寺都賀尾坊と名づけられた。814(弘仁5)年に都賀尾十無尽院と改称、その後神護寺の別院となる。そして鎌倉時代に入った1206(建永元)年、後鳥羽上皇の院宣により明恵上人が寺域を賜り高山寺と号した。その頃は荒寺のようなありさまであったという高山寺が、やがて学問寺として敬われるまで再興したのは、多様な信仰をもつ明恵上人の存在あってこそだった。

国宝の石水院は明恵上人が存命の頃より残る唯一の遺構で、東経蔵だった建物を洪水で失われた石水院の跡に移し、その名を継承したもの。南面には高山寺の初志となる後鳥羽上皇から賜った扁額が掲げられ、仏眼仏母像(レプリカ)も鑑賞できる。この仏眼仏母像の前で明恵上人は仏教修行の意志を証明するため右耳をそぎ落としたという有名なエピソードがあり、開山堂の『明恵上人坐像』には右耳がない。

限られた宗派や教説にとらわれず、権威を笠に着ることを嫌い仏教求道に邁進した明恵上人。高山寺の裏山を「楞伽山(りょうがせん)」と名づけ、自然豊かな山中で昼夜問わず坐禅や瞑想を行ったという。釈迦への思慕が募り、二度インド渡航を計画するも春日明神の託宣を受けて断念しており、日本にいながらも釈迦に近づくべく想像力を駆使して厳しい修行に励んだのだろう。山奥には草庵や修行の跡地に立てられた記念碑が残っている。

この高山寺は洪水や兵火によって幾度となく存続が脅かされており、開山堂や金堂は戦火により焼失した御堂の跡地に再建したものだ。今日まで寺院や宝物が守られているのは、明恵上人の意志を受け継ぐ僧徒の努力にほかならない。境内に植生する草木は手を入れられ過ぎず、あるがままの力強い姿を見せてくれる。秋になると紅葉目当てに多くの観光客が訪れるが、清らかで素朴、そんな高山寺の侘びた佇まいにこそ明恵上人らしさが宿っている。

愛くるしい宝物も見逃せない

[重文]狗児
像高255㎜
明恵上人が座右に置き、実際に愛玩したという子犬の像。作者は定かではないが鎌倉時代の湛慶によるものではないかとされている
[重文]神鹿
(左)牡鹿/像高516㎜、(右)雌鹿/像高464㎜
牡牝一対の鹿の像。どちらも脚を屈しているが、牡鹿は吽形、牝鹿は阿形を表現している。運慶の息子・湛慶の作と伝わる

高山寺
住所|京都府京都市右京区梅ヶ畑栂尾町8

Tel|075-861-4204
拝観時間|8:30〜17:00
拝観料|石水院800円 ※紅葉時期のみ入山料500円
www.kosanji.com

 

《買って帰りたい京都》
「三三屋」の高山寺の仔犬
京都の“カワイイ”を連れ帰る
 

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text: Minami Mizobuchi(arika inc.) photo: Sayuri Ono photo courtesy: kosanji
Discover Japan 2021年10月号「秘密の京都?日本の新定番?」

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