『縄文』が楽しく知れる本
縄文時代を詳しく分かる、初心者にも読みやすい縄文世界の事を知り、楽しく学べる本を紹介。自分のペースで関心を広げてみて。
幅 允孝さん
1976年、愛知県出身。BACH代表、ブックディレクター。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、書店と異業種を結び付けたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。「カラオケでたまに『狩りから稲作へ』(レキシ)を唄います」
まずはここから
縄文入門
縄文を身近に感じる人が増えたのは、このZINEがあったからかもしれません。ニルソンデザインの望月昭秀さんが2015年に立ち上げた『縄文ZINE』(P142でインタビュー)。世間の隆盛とは関係なく、あくまで一人称で縄文を語り、遊ぶ小冊子の合本がこちらです。バックナンバーの問い合わせがとても多かったようです。「土偶は燃えているか」、「貝塚はアルカリ性の夢」などなぜか心惹かれるコピーの特集も実に愉快なのですが、「“縄弱”のための縄文時代質疑応答」など縄文素人にも優しい姿勢がまさに共生を目指す縄文的かと思います。映画の特集では、「すべてのゾンビ映画は縄文映画だ!」など名(迷)言も多数飛び出し、冊子の放熱はとどまるところを知りません。無欲の勝利だと思います。
『縄文ZINE(土)』
著者|ZINE編集部(ニルソンデザイン事務所)
価格|1598円
前述の望月さんが国書刊行会という立派な出版社から、悩み相談本まで出してしまいました。これは現代人の悩みに対し、縄文人を憑依させた著者が「縄文的」に応えるという一冊。「答える」のではなく「応える」ところがミソだと思います。友人の就職から子どものパンツトレーニング、はたまた会社のフリーアドレス制など、あらゆる現代の悩みに対して、縄文人はよいあんばいで読者に語りかけます。望月さんがつくる『縄文ZINE(土)』よると、この本は北方謙三さんのモーレツ人生相談本『試みの地平線』の縄文版を目指したとのことですが、なるほど北方さんこそ縄文的な方だったのかもしれません。
『縄文人に相談だ』
著者|望月昭秀(国書刊行会)
価格|1620円
時空を超えた
想像の旅
水木先生も縄文を舞台にした漫画を描いていました。どんぐり村に住む10歳の少年ヨギが物語の主人公。山の獣や木の実、魚や貝を捕って生活していた時代には、飢饉や他部族の襲撃など多くのサバイバルがありました。そんなヨギ少年、人のよさと向こう見ずな勇気で毎回かならず危険な目に遭うのですが、なぜか見えない力に護られます。人智や論理を超えた領域を描けば、皆の好きな水木節が鳴り出します。過酷な状況を笑い、生命の糸をつなぎ続けた人々の物語です。
『縄文少年ヨギ』
著者|水木しげる(筑摩書房)
価格|972円
今の時代に縄文を語るとき、アイヌのことを語らないわけにはいけません。同じルーツをもちながら、弥生的な文化を積極的に取り入れた縄文人の末裔と、縄文的な生活を継続させたアイヌの人々は、相互に「あり得たかもしれない、もうひとつの歴史」なのですから。本書は、そんな着眼点からアイヌの原郷を探り、またその後「流動化」、「商品化」、「グローバル化」したアイヌ文化を伝えてくれます。アイヌの本質を過去へ掘り下げていったとき、日本人の未来像が見えてくる気がしました。
『アイヌと縄文─もうひとつの日本の歴史』
著者|瀬川拓郎(筑摩書房)
価格|864円
写真に表れた
縄文人の生きざま
2012年に国立科学博物館で開催された「縄文人展」に併せて刊行された写真集です。縄文人骨を題材にしたエキシビションだったのですが、この大判写真集では撮影した上田義彦さんが驚くほど縄文人に肉薄しています。現物を眼前にしたように、ページから匂い立ってくるようです。考古学者の小林達雄さんが書いた一冊の本を、グラフィックデザイナーの佐藤卓さんが手に取ったときからはじまったこの企画。芸術家というのは確かに魔法的な力をもっており、死者の息吹をよみがえらせることすらできるのだと感じました。
『JOMONESE』
著者|佐藤 卓、篠田謙一(国立科学博物館 人類研究部)、坂上和弘(国立科学博物館 人類研究部)、伊藤俊治
写真|上田義彦(美術出版社)
価格|1万2960円 ※現在販売なし
35年近く縄文時代の遺物を撮り続けてきた小川忠洋さんの写真からは、優しい怨念のようなものを感じます。土器や土偶を眺めているだけで、頭が何処かにとんでいきます。三つ編み、おさげ、おかっぱなど土偶の髪型を見比べ、ずっと昔に亡くなった人たちが何を考えていたのかを想像すると、確かに過去が現在と接続するようです。狩り、装飾、祭りなどシチュエーション別にページを構成し、また縄文前後の流れまでも捕捉した『新版 縄文美術館』を片手に脳内縄文旅行をぜひどうぞ。
『新版 縄文美術館』
著者|小川忠博著(平凡社)
価格|3240円
text:Yoshitaka Haba illustration:Michiharu Saotome
2018年9月 特集「縄文人はどう生きたか」