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長く付き合うのが楽しみな「足付盆」
ただいま、ニッポンのうつわ

2020.9.30
長く付き合うのが楽しみな「足付盆」<br><small>ただいま、ニッポンのうつわ</small>
φ305×35mm1万7280円※材はクリかキハダ、他サイズあり問:サボア・ヴィーブルTel:03-3585-7365

自分の料理や暮らしに合ううつわを求め続けて、高橋みどりが最近気になっているのが、ニッポンのうつわ。背景を知ると、使うのがもっと楽しくなることを伝えたい。今回は長く付き合うのが楽しみな「足付盆」を紹介します。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『ありがとう!料理上手のともだちレシピ(』マガジンハウス)など

矢沢光広
1946年、神奈川県生まれ。鎌倉彫作家の父の仕事場で、漆や彫刻に親しんで育つ。1966年の武蔵野美術大学中退後、彫刻と木工芸を学ぶ。1972年より漆器の制作をはじめ、古作に学び、茶托から小家具まで手掛ける

盆と鎌倉の漆器の豆知識

食事を食卓に運ぶ「通い盆」としてだけでなく、一人膳にもなり、用途により収納具も盆と呼ばれる。丸、四方、長方、半月、足付きなどのかたちがあり、近年は一人用の菓子と茶をのせるほどの小さな盆もある。

鎌倉と鎌倉彫
禅宗とともに招来された堆朱(ついしゃ)、堆黒(ついこく)など中国の彫漆品に倣い、仏師や宮大工が木彫に漆を施し、寺院で用いる香合や調度を制作したのがはじまり。鎌倉で発展したものを鎌倉彫と称した。

鎌倉彫の発展
室町以降、仏具や茶道具がつくられるが、明治の廃仏毀釈で仏師の仕事が激減する中、鎌倉彫を工芸として手掛ける仏師が登場、国内外の博覧会に出品。鎌倉に別荘を建てた貴紳の需要も得て食器や調度を手掛けた。

 

彫り跡の加減、施された漆がさりげなく味わい深い、矢沢光広さんの足付盆。足からすっと立ち上がる姿も美しい。

幼い頃から、父の鎌倉彫の仕事を見てきた矢沢さん。自身は木工と漆の技術を身につけた後、漆器のつくり手に。自分の作品は鎌倉彫ではないけれど、道具を使う父をずっと見ていたから彫る技は自然に身についたかな、と話す。古いものに惹かれ、多くの先人の手の跡をいとおしみながら、いまの暮らしに沿うものを手掛けてきた。

艶やかな塗りや加飾も日本の漆器の魅力だが、矢沢さんは、傷がつくことを恐れず、緊張せずに使えるものを、自身も日常に使いたいと思い、つくってきた。盆は特に、傷を気にしては使いづらい。傷も味わいになるようなつくりは、この盆を日々長年使い続けるギャラリーでの実例で実証ずみだ。

炭焼きなどの山仕事に携わる人が昔から手掛けてきた木地盆に、こうした足付盆があるという。盆のみのかたちに粗く挽き、鑿で削り出す方法も、昔の工人と同じ。水を吸わないよう、薄く漆をかけ、地の粉を蒔いているが、木地盆の素朴な風情を失わないように仕上げる。縁をわずかに欠いてあるのも、それゆえだ。古作に触れた蓄積が、作品に気配のように表れる。

その場にすっとなじむ矢沢さんの作品は、使い手を緊張させず、触れると自然に気持ちがきれいになるような空気がある。彫りのえもいわれぬ温かみ、おおらかな佇まいの存在感は、矢沢さんの印象そのもの、という高橋さん。長く付き合うのが楽しみな盆だ。

text:AkikoNariaiphoto:YuichiNoguchi
2018年10月 特集『みんなの京都、ナイショの京都』


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