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津田清和さんの
「涼やかに、やさしさ漂うガラスのうつわ」
高橋みどりの食卓の匂い

2020.9.1
津田清和さんの<br>「涼やかに、やさしさ漂うガラスのうつわ」<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。今回は津田清和さんのガラスのうつわを紹介します。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。新刊の『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)が発売中

この春からは、いままでに経験したことのない時間を世界中の人々が過ごしている。「家での時間をどう過ごすか」。当然食に対する意識も変わったと思うけれど、よく考えてみれば家での食事の原点へ戻った、その大切さを確認した、とも言える。豊かになり求めるものも増えた変わりに、鈍感になっていたところもあったから、三度の食事の大切さと、食を通して感じる季節感だったり、美味しいと感じる感覚だったり、あるものをいかに美味しく料理し、無駄にせず食べ尽くし感謝するということを、あらためて味わった。

うつわに対する意識もいままでの感じ方よりもいっそうその必然性を感じたのではないかと思う。何を隠そう、うつわ扱いをなりわいとしている私自身でさえ素直にそう感じたのだから。

春の展覧会は目白押しで、気になったものへ足が向いた。そのひとつが津田清和さんのガラスのうつわ展だった(新型コロナウイルス騒動前)。一堂にたくさん拝見するのははじめてのこと。最近は薄手のガラスのうつわ作品をよく目にするようになった。津田さんの作品も薄手である。技法は型吹きガラスといわれる、ガラスを型へ吹き入れて成形するもの。宙吹きガラスの伸びやかな質とはまた違う、静かな佇まい、秘めた力を感じる。

気になった揺らぎの美しい浅鉢は、口の部分にはぐるりと白金が施されている。そこに置かれているさまは優しげで、生み出す影もがうつわの存在を意味づける。白金のラインが少しカジュアル感を脱して品位を添えていた。だけれど気取り過ぎていないのはきっと、ガラス自体の質感なのだろう。聞けば素材はソーダガラス。津田さん自身、明治・大正時代の頃につくられたガラス器の素材感に惹かれているという。濁ったような色味や、少し気泡が入っているくらいの、そんな雑味のある感じを好むのだそう。かたちはきっちりとしているけれど、どこかおおらかな感じを含む。そんなところに魅了されてものづくりをしているのだという。

型においては鉄をはじめ銅、真鍮の金型を、たまに木製の型を使う。時として壷の口あたりに浅鉢のかたちを見出し、さらに手を加えて型にすることもある。あるいは自分で制作できるかたちのものは、鉄板を切り出し溶接して一からつくることも。こうして有りものを再利用してつくったけれど出来のよくないものもあるし、思ったよりよいものができることも。そんな偶然性を楽しんでいるところもあるらしい。

今回の展示会で私が手に入れたものは、白金縁モールの深皿と、藍色の小さなグラスをふたつ。夏のまだ明るい夕方に、透け感のある細く千切りにした大根や大葉、みょうがに割いた蒸し鶏を甘酸っぱく合わせた和え物をガラスの深皿に盛る、藍色グラスにはよく冷えたお酒を合わせた、涼やかな情景が見えた。

今年もおそらくやってくるだろううだるような暑さを、自粛生活の中で味わった日々の食の変化を楽しむ術を身につけた私たちは、気分よく乗り越えてゆけるに違いない。

自己制作による金属の蓋付き瓶や蓋物、繊細で几帳面かつモダンな切り子の片口やグラス、そして型もののグラスやうつわ、揺らぎやテクスチャーのあるものなど津田さんのバリエーションは数多く、皆端正で美しい。

津田清和さんの型ガラスのうつわ
価格|1万3200円
サイズ|φ175×H48㎜

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
2020年7/8月 特集「この夏、どこ行く?ニッポンの旅計画108」


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